第55話 エピローグ おかえり
今日はついに結婚式の日ですの。
魔王を倒した日から、五ヶ月ほどが経っていました。わたくしたちはメルメイユの町へと戻り、いつも通りの日常を送っていました。魔導図書塔での仕事、カイルやナリナとの気さくなやり取り、猫のチケとミルは頻繁に家に来てくれます。
変わった事と言えば、そうですわね。
マコトと同じお布団で寝ることになった事でしょうか?
夜の彼は、英雄色を好むというか、何というか、です。
さておいて。
いま、町の小さな教会でお色直しをしていました。
わたくしはウェディングドレス姿です。
教会の二階の控え室、その鏡台の前。エミリッタがすぐそばに座っていて、わたくしの顔をスポンジでぽんぽんと叩いています。それが終わると、わたくしの青い髪をブラシでとかしてくれました。
「エミリッタ。貴方、本当に良かったですの?」
「何がですか?」
「ラインルエットと別れて、この町に住むことにして」
「私はノクティア様のお嫁ですよ!」
「それは違いますわ」
わたくしはおかしくって微笑をこぼします。
エミリッタがぬふふと笑いました。彼女も黒い着物を着てくれていました。胸元にはペンダント。手首にはブレスレット。
わたくしの左手の薬指には結婚指輪があります。
マコトがプレゼントしてくれた物でした。
エミリッタはあれから魔導図書塔に勤めることになり、研究員をしていました。さすがは魔法使いの権威ということもあり、職員の先頭を切って、新たな魔法の開発に取り組んでいます。
エミリッタが髪をすいてくれる感覚が心地よくて、
今日のわたくしは終始笑顔です
「エミリッタも、早く結婚しないといけませんわね」
「あら、誰とですか?」
「残念ですが、気づいていますわ。エミリッタ。貴方、この間、ラスティン様とお食事に行ったのでしょう?」
「えっ!? 何で知ってるんですか?」
「わたくしは補佐官ですから」
「それはただ、食事を誘われただけでございますぅ」
「それで、結婚式はいつなのかしら?」
「それが……」
エミリッタは顔を伏せます。
わたくしは少しだけ心配になって、聞き返しました。
「それが?」
「ラスティン様は、奥手というか、何というか」
「あら、理解のある方ですわ」
「もうちょっと、行動で示してくれないと」
「エミリッタからアプローチしてみては?」
「まだ早いですぅ、ノクティア様、勘弁してくださーい」
「今度、わたくしが場を取り持ってさしあげます」
「の、ノクティア様! ちょっとお」
「マコトにも話しておきますからね!」
「ちょ、ちょちょちょっ」
「あははっ」
エミリッタがきょどるのを楽しみながら、着々と結婚式の準備が進んでいきます。
ふと、タキシードを着たマコトがやってきて、そのお顔が鏡に映りました。
わたくしは笑顔で振り返ります。
「マコト」
「ノクティア!」
彼はパリッと髪型を決めており、すごく格好良いです。質の良い黒い服に革靴が様になっていました。そして、左手にはわたくしとおそろいの指輪。
「ノクティア、すごく綺麗だ」
「ありがとうございますわ。マコトも、イケメンです」
「ありがとう!」
彼は鏡を見て襟を直し、それからわたくしの隣に腰掛けました。
「ちょっと寒いね」
今は冬でした。
「仕方無いですの。これ以上季節を待ったら、お腹が大きくなってしまいます」
わたくしは自分のお腹に手を当てます。膨らんできた新しい命が息づいていました。
「そうだね。あははっ」
照れたように笑う勇者様。
伝播して、わたくしも幸せな気分に包まれました。
エミリッタが遠慮をして、控え室を出て行きます。
マコトがわたくしの両手を取り、
「やっとだね」
「あら。王都を出てから一年を経っていませんの」
「それは君の気落ちじゃないか。僕はもう、何年も前から君を好きだったんだから」
「それは……」
わたくしは申し訳なくって、顔を俯かせます。一年前、わたくしはマコトの想いに全く気づいていませんでした。
けれど、マコトは優しく語りかけます。
「大丈夫だよ。いま君は僕のものだ」
「それでは、マコトはわたくしのものですわ」
「奪い合うかい?」
「勝負です」
「じゃあ僕は君の唇をもらう」
「ではわたくしはマコトの心をいただきます」
「いきなり大事な物を取るね」
「わたくしは欲が深いですの」
「あの、そろそろ結婚式を始めたいと思うのですが」
控え室にシスターが顔を出して声をかけました。わたくしたちは顔を向けて返事をします。
「ノクティア」
「はい、行きましょう」
わたくしたちは控え室の前で準備をします。
やがてオルガンの静粛なメロディーが流れて、
マコトがわたくしの手を取って、二人で室内を出ました。
拍手が起こりました。
集まっている人は三十人ほどです。
会社の同僚と、近所の人が数人。そしてカイルとその家族。
マコトと共に、階段をゆっくりと降りました。
ヴァージンロードを歩きます。
エミリッタの顔がありました。
その隣にはラスティンの姿。
ナリナとカイルも両手を叩いています。
わたくしは自然と頬が熱くなって、少しだけ泣きそうになりました。
マコトに手を引かれるままに、ゆったりと歩いて行きます。
やがて神父の前に来ました。
オルガンのメロディーが止まります。
白髪の彼が分厚い本を開き、お決まりのセリフを述べてくださいました。
「健やかなる時の、病める時も、愛を誓いますか?」
「「誓います」」
わたくしとマコトは揃って返事をします。
二人が向き合いました。
マコトがわたくしの肩に手を置いて、
「ノクティア」
「はい」
「君にずっと言いたかったことがある」
「はい」
「おかえり」
「ただいま!」
顔を近づけます。
わたくしからキスをしました。
それは、わたくしからも彼を選んだ証なのです。
お客さんからワーっと声が上がりました。
拍手が鳴って、
空は良い天気。
ねえ、マコト。
わたくしは、
幸せ者ですのよ。
ずっと、
ずっと、
いつまでも、
いつまでも、
一緒ですわ。
これからも、わたくしたちはお互いを選び続ける。
Fin




