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第9話 ストーカー

 祐希は午後9時過ぎにシェアハウスへ帰った。

 するとラウンジには女性たちが集まり、泣きながら震えているさくらを慰めながら、話を聞いているところだった。


「あっ、祐希くん、おかえり」

 その場にいたのは、さくらの他、管理人の『明日奈』、陽キャ美少女『真城朱音』、お天気お姉さん『菅野怜奈』、セクシー美女『早見里緒奈』、姉御肌の美女OL『天野瑞希』、スッピン美少女『岸谷琴葉』、ツインテール美少女『結城未来』の7人であった。


「何かあったんですか?」


「さくらちゃんが、またストーカーに追いかけられて、腕をつかまれたんですって…」

 明日奈が祐希にかいつまんで状況を説明した。


 さくらは柏琳台駅からシェアハウスへの帰り道、何者かに後を付けられていると気づいた。

 ストーカーは、一定の距離を保ちながら、同じ道をどこまでもついてきた。

 さくらは怖くなり、早足で歩き出すとストーカーも早足でついて来た。

 恐怖のあまり、さくらが走り出すとストーカーも全速力で追いかけてきた。

 ようやく、さくらがシェアハウスの前にたどり着き、門扉をくぐろうとした時、後ろからグイッと腕を掴まれた。


 その瞬間、恐怖のあまり、さくらが絶叫すると、男は一瞬たじろいだ。

「お、俺は、ストーカーじゃない、き、君と話したいだけなんだ」

 男はさくらにそう言った。


 さくらの叫び声を聞きつけ、ラウンジにいた明日奈が慌てて玄関を開けると、ストーカーはさくらの腕を離し一目散で逃げていった。


「ストーカー行為しておきながら『オレはストーカーじゃない』ってどういうこと?」

 天野瑞希は唇を噛みしめ、腕を組んで天井を見た。


「それって、痴漢しながら『オレは痴漢じゃない』って言ってるのと同じよねぇ」

 真城朱音が許せないという表情で瑞希に言った。


「まさか、あんたが犯人じゃないでしょうねぇ」

 朱音が冷たい目で祐希を見た。


「ち、違いますよ。

 俺は今までバイトしてきたんです。

 ほら、これが証拠」

 祐希は美里ママから預かった紙袋を朱音に見せた。


「何、この箱?

 えっ、もしかしてショートケーキ?

 しかも、カフェ・バレンシアの苺ショートなんですけどぉ…」


「えっ、私その店知ってる。

 メッチャ美味しいってネットで評判の店よ」

 里緒奈が食いついた。


「俺、平日はこのカフェでバイトしてるんです。

 店のママがシェアハウスの皆さんでどうぞって、持たせてくれたんです」


「え~、それホント?

 ねぇねぇ祐希、これ食べてもいいの?」

 朱音が箱を覗きながら聞いた。


「いいですよ、一人1個ですけど、皆さんもどうぞ」

 それを聞いたさくら以外の女子全員が歓声を上げた。


「わたし、コーヒーいれるけど飲む人ぉ~」

 怜奈が声をかけた。


「ねぇ、琴葉ちゃん、ケーキあるよって瀬奈ちゃんにも声かけてくれる?」

 明日奈が、この場にいない唯一の住人『伊東瀬奈』を呼ぶよう頼んだ。


 その間に住人たちは、人数分のケーキ皿とデザートフォーク、それぞれの好みのドリンクを用意した。


「明日奈さん、瀬奈ちゃんの部屋、『動画撮影中』っていうプレート掛かってました」

 祐希は、伊東瀬奈が何の動画を撮影しているのか気になった。


「じゃあ、しょうがないわね。

 せっかく祐希君が貰ってきてくれたから、みんなでいただきましょう」


「祐希くん、ごちそうさま~。

 いただきま~す」

 明日奈の言葉を待っていたかのようにヴィーナスラウンジの住人は苺ショートを食べ始めた。


 いつの間にか泣き止んで、平常心を取り戻したさくらも美味しそうな苺ショートをフォークですくうと口へ運び、その美味しさについ口元をほころばせた。


 さくらのストーカー被害で沈んでいたヴィーナス・ラウンジの空気は、カフェ・バレンシアのケーキのお陰で一気に和らいだ。


「何、この美味しさ…

 カフェ・バレンシアのケーキが美味しいって噂は前から聞いてたけど、想像以上ね」

 明日奈がケーキの美味しさに感動していた。


「ふんわりとした食感、スポンジのきめ細かさ、甘みと酸味のバランス、香り、ジューシーさ、そして見た目の美しさ、全てのバランスが絶妙ね」

 まるでスイーツ評論家のように怜奈が感想を述べた。


 それを聞いていた女子たちは、モグモグしながら何度もうなずいた。


「みんなに気に入ってもらえて、カフェ・バレンシアのママも喜んでいると思います。

 店には20種類以上のショートケーキがあるので、ぜひ一度来て下さいね」

 祐希は美里ママからの司令である店の宣伝を忘れなかった。


 みんながカフェ・バレンシアのケーキに満足してホッコリしたところで、明日奈がストーカーの話に戻した。

「ねぇ、さくらちゃん。

 もうこうなったら、警察に被害届出すしかないんじゃない?」


「そうよねぇ、腕を掴まれたってこと自体もう犯罪だし、それにだんだんエスカレートしてるみたいだから、警察に相談するといいわ」

 住人最年長の玲奈も明日奈の意見に賛同した。


「ねぇ、さくらちゃん、ストーカーに追いかけられたのって、今日だけじゃないよね」

 明日奈が聞いた。 


「はい、追いかけられたのは、これで7回目です」


「は~…、これはもう民間人が対処できるレベル超えてるわ。

 さくらちゃん、明日、駅前の交番に行って被害届出してきたら?」


「は、はい、分かりました…」

 さくらは自信なさげに返事した。

 恐らく、自分一人で行くのが不安なのだろう。


「そうだ祐希くん、明日さくらちゃんと一緒に交番に行ってあげて」


「えっ、俺が…」


「そう、明日大学に行く前に少し早めに出れば問題ないでしょ」


「分かりました、明日さくらさんと一緒に交番へ行きます」


 その言葉を聞いたさくらは、安堵の表情を浮かべた。

「あ、ありがとうございます、篠宮さん、よろしくお願いします」


「祐希くん、ありがとね、とても助かるわ、管理人として改めてお願いするわ。

 それとね、さくらちゃん、このシェアハウスに篠宮は私と祐希くんの2人いるから、祐希くんのことは名前で呼んでくれると助かるわ」


「はい、明日奈さん。

 これからは、祐希さんとお呼びします」


「他のみんなもその呼び方でお願いね。

 これで一件落着と言いたいところだけど、祐希くんにはもう一つお願いがあるの」


「な、何ですか?」


「さくらちゃんのことなんだけど、ストーカー騒動が落ち着くまでしばらくの間、大学の送迎をお願いしたいの」


「え、俺が…ですか?」


「祐希くん、あなたはこのシェアハウスで唯一の男性なのよ」


「はい、もちろんそれは分かってます」


「いいえ、あなたは分かってないわ。

 私が言いたいのは、あなたは男性として、このシェアハウスの女性を守る義務があるってこと」


 祐希は明日奈の言葉に衝撃を受けた。

 お、俺が女性を守る……?

 確かに、有史以来、女性を守るのは間違いなく男性の務めだ。


「い、いいですけど…。

 でもバイトをどうすれば…」


「そっか~、祐希くん、帰りはバイトがあるのね…」


「俺、バイトしばらく休みましょうか?」


「えっ、そんな、私のためにバイト休むなんて…、悪いです」

 さくらは申し訳無さそうに言った。


 その後、祐希とさくらと明日奈の3人で、どうするか話し合った。

 その結果、祐希のバイトが終わるまで、さくらが客としてカフェ・バレンシアで時間をつぶすことになった。

※創作活動の励みになりますので、作品が気に入ったら「ブックマーク」と「☆」をよろしくお願いします。

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