第4話 ヴィーナス・ラウンジ
祐希が案内されたのは1階の「0号室」だった。
「ここよ、祐希くん」
部屋は白を基調とし、所々に天然木を使った落ち着いた雰囲気の内装だった。
「ずいぶん広いですね、何畳あるんですか?」
「この部屋は12.5畳よ。
建物がメーターモジュールで設計されているから、尺モジュールに換算すれば13.8畳になるわ」
祐希が広く感じたのも無理はなかった。
明日奈の話では、他の部屋も全て12畳以上あるそうだ。
部屋の備え付け設備は驚くほど豪華だった。
◎某メーカー製ダブルベッド
◎ナイトテーブルとスタンド
◎L字型のパソコンテーブル兼用デスク
◎リクライニング式チェア
◎3人掛けソファとシングルソファ2脚
◎リビングテーブル
◎リビングボードとチェスト
◎ミニ冷蔵庫
◎冷暖房兼用エアコン
◎ミニコンポ
◎50インチ4Kテレビ
◎高性能パソコン
◎1.5畳分のクローゼット
◎調光式LED照明
◎遮光カーテン
◎専用トイレ
「明日奈さん、この部屋、豪華過ぎません?」
「いいのいいの、私の趣味なんだから」
明日奈は楽しそうに笑うと、祐希を部屋からラウンジへと誘った。
「でもね、祐希くん。驚くのはまだ早いわよ。一番こだわった共用スペースも案内してあげる」
ラウンジに戻ると、明日奈は壁際に設置されたプロジェクターを誇らしげに指し示した。
「ここがみんなが集まる『ヴィーナス・ラウンジ』。
自慢はこの100インチのスクリーンよ。音響にもこだわってるから、ここで観る映画はすごいの」
「ひゃ、100インチ……。もう映画館じゃないですか」
「でしょ? キッチンも充実してるし、天気のいい日はあそこのウッドデッキでランチするのも最高よ。
お風呂は3人用のジャグジーもあるんだから。今度使ってみて」
「ジャ、ジャグジーまで……」
あまりの規格外な設備に、祐希はもはや驚く気力も失いかけていた。
「女子が安心して暮らせるように、セキュリティも万全よ。
玄関はオートロックと顔認証の二重認証だし、防犯カメラも複数台ついてるから」
「なるほど……それは安心ですね」
祐希が圧倒されていると、明日奈は「もちろん、他にも色々あるわよ」と言って、その他の主要な設備についても手早く説明してくれた。
【その他の共用設備】
▼屋内設備
浴室(1人用バスルーム)2箇所
トイレ3箇所
洗面5箇所
ランドリー(全自動洗濯乾燥機)
ピアノ練習室(防音装置付き)
リビングテーブル、3人掛けソファ✕4
バーカウンター
対面キッチン(IHコンロ、オーブンレンジ、大型冷蔵庫、食洗機付き)
コーヒーマシン、空気清浄機付き加湿器など
▼屋外設備
駐輪場(8台分/月額500円)
カーポート付き駐車場(3台分/月額1万円)
共用宅配ボックス、住人専用レターボックス
説明を聞けば聞くほど、このシェアハウスに掛ける明日奈の意気込みが感じられた。
同時に、祐希の胸には一つの大きな不安が沸き上がっていた。
これだけの設備が揃っているということは、家賃もきっと高いに違いない。
「あの、明日奈さん……。
ここの家賃って、高いんじゃないですか?」
祐希が恐る恐る尋ねると、明日奈はにっこり笑って答えた。
「家賃は毎月5万円で共益費が1万円、それに管理費が1万円の合計7万円よ。
それと初回だけ、入居手数料が5万円掛かるんだけど…」
「この豪華設備で7万円は安すぎますよ!」
祐希があまりの安さに驚いた。
「祐希くんは身内だし、特別に入居手数料は無料。
家賃・共益費・管理費も全部込みで5万円でいいわ」
「えっ、そ、そんな! いくらなんでも悪いですよ!」
「実のところ私、お金に困ってないの…
あなたのお兄さんが遺してくれた遺産もあるし、家賃収入もあるから…
それよりも気心の知れた人たちと、わいわい楽しく暮らしたいの…」
「なるほど…そういうことですか…
でも、5万円はさすがに安すぎますよ」
「いいのいいの。
祐希くんは私の可愛い義弟なんだから、ね」
悪戯っぽく微笑む明日奈に、祐希は困惑した。
「ホントに……いいんですか?」
「うんうん。こういう時は、素直にお義姉さんに甘えなさい」
「……わかりました。
それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
祐希は深々と頭を下げた。
「うん、それじゃあ、最後に大事な契約条件とルールの説明をするね。
まず、うちの入居条件だけど、入居できるのは18歳から25歳までの人だけなの。
だから、26歳になる前に退去してもらうことになってるから」
「えっ、年齢制限があるんですか」
「そうなの。
それと、入居するには、先に私と面接をしてもらって、合格した子だけが入れるの」
「へ~、面接まであるんですか…
ちなみに、合格基準は?」
「ふふっ、それは企業秘密。
祐希くんは私の義弟だから、もちろん面接なしよ」
明日奈は茶目っ気たっぷりに笑った。
「それと契約更新は1年ごと。
もし退去する時は、1ヶ月前までに言ってくれれば大丈夫。
そして、これが一番大事なルールなんだけど……」
明日奈は少し真剣な表情になった。
「2ヶ月に1度、住人参加のイベントを開いてるの。
これだけは参加必須だから、お願いね。
もし2回連続で欠席しちゃうと、次の年の契約更新できなくなっちゃうから」
「イベントが必須なんですか?
珍しいルールですね」
「そうなの…せっかく一つ屋根の下で暮らすんだから、みんなに家族みたいに仲良くなってほしくて。
私がこのシェアハウスで一番大事にしてることなのよ」
その真摯な眼差しに、祐希は明日奈の強い想いを感じた。
「ルールはこれくらいかな。ちょっと厳しいかもしれないけどね。
その代わり、周りの環境はすごく便利よ」
明日奈は窓の外を指さしながら、明るい声で言った。
「コンビニは、徒歩2分くらいのところにあるわ。
たいていの物はそこで揃うから便利よ。
徒歩5分の距離に大きな食品スーパーがあるわ。
品揃えも豊富で、お野菜も新鮮って評判よ」
「へ~?それは便利ですね」
「でしょ?
最寄りの柏琳台駅までは、徒歩8分だから、通学も楽だと思うわ」
「本当にいい環境なんですね」
「そうね…
あ、一つ言い忘れてたことがあるわ。
祐希くんだけの特別ルール」
「特別ルールですか?」
「そう、それは2階フロアへの立入は禁止ってこと…
2階の住人は全員女性でしょ。
祐希くんは良識ある男性だと私は信用してるけど、何か間違いが起こるとも限らないからね」
女子ばかりのシェアハウスに男が1人だけ住むのだから、管理人である明日奈の考えはもっともだ。
「分かりました。
2階には絶対上がりません」
「ありがとう。
説明は、以上よ。
祐希くん、何か質問ある?」
「いえ、明日奈さんが詳しく説明してくれたので特にありません」
「そう、良かったわ。
それじゃ、鍵を渡すわね」
明日奈はICカードキーを1枚祐希に手渡した。
「うちはICカードキーと顔認証でロック解除する仕組みなの。
だから、これ絶対になくさないでね」
明日奈の説明によると、シェアハウスの玄関と門扉はセキュリティゲートとなっており、ICカードと顔認証の両方が揃わないと開かないそうだ。
「2重認証か、なるほど、それは安心ですね」
祐希は顔認証の登録を完了し、カードキーとセットで玄関がロック解除されることを確認した。
「これで住人登録完了ね」
「はい、ありがとうございます」
明日奈から寝具カバーを借りることとなり、祐希はその日からシェアハウス「ヴィーナス・ラウンジ」で暮らし始めた。
(ふ~、火事の後、こんなに早く部屋が決まるとはな…、明日奈さんに感謝しなきゃ)
(それにしても、あの美少女、さくらっていう名前なのか、イメージにぴったりの名前だ。
しかし同じシェアハウスの住人だったとは…)
祐希はこの出会いに運命的なものを感じた。
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