第39話 百花繚乱(1)
「百花繚乱」は柏琳台駅前にある人気居酒屋である。
海鮮料理を中心に、焼き物・揚げ物・サラダ・ご飯物・麺類・寿司まで、200種類以上ものメニューを誇る。
新鮮で良質な食材にこだわるのはもちろん、スタッフは元気で対応が丁寧だ。
料理やドリンクの提供も速く、値段も手頃で、内装は落ち着いた雰囲気。
週末は予約必須の人気店である。
シェアハウスの飲み会や歓迎会は、ほぼこの店で行われる。
「今日は私の奢りだから、何でも好きなもの頼んでいいよ~」
明日奈の一言で、住人のテンションは爆上がりとなった。
「明日奈さん、ご馳走様です」
常連メンバー4人(怜奈、里緒奈、瑞希、朱音)は拍手で感謝の意を示した。
「さすがはオーナー、太っ腹!」
「あら、里緒奈ちゃん、私のお腹はスマートよ」
とボケも忘れない住人思いのオーナーが、みんな大好きだった。
「明日奈さん、ここは割り勘にした方がいいんじゃないですか?」と祐希が言った。
「そうですよ、明日奈さん気前良すぎです」
さくらも祐希に同調した。
「え、そう?
そうねえ、それじゃあ学生は1人千円、社会人は3千円でお願いね」
「ほら~、祐希が変なこと言うから……」
里緒奈が言った。
「里緒奈、あんたも一応学生でしょ……
千円で飲めるんだから、ありがたいと思いなさい!」
社会人最年長の怜奈が里緒奈を嗜めた。
「祐希、管理人になったらさ、やっぱり言うこと違うよね」
里緒奈が祐希の顔を睨んだ。
「うんうん、なんかちょっと変わったね」
瑞希も頷いた。
「何言ってるんですか…
こういうのは里緒奈さんみたいな年長の人が言わなきゃダメなんですよ!」
「う、ウッサいわね~、あんた」
里緒奈は祐希に言い返されて、少しムッとした。
「ねえ、みんな、何頼む?」
明日奈がフードメニューをテーブルの真ん中に置いた。
「私、お刺身食べたいな~」
怜奈が言った。
「私はガッツリ、お肉系でいきます」
里緒奈が言った。
「私はお寿司食べた~い」
朱音が目を輝かせた。
「あ、私も~」
里緒奈以外は全員賛同し、人数分の寿司を注文することとなった。
他にもそれぞれが、好みの料理を注文した。
食べ物の注文を終えると、先にオーダーしたドリンクが到着し、明日奈がジョッキを掲げた。
「それじゃ、乾杯するよ~、みんな飲み物あるかな?」
全員が頷いたのを確認し、明日奈は続けた。
「それじゃ、本人たちはまだ居ないけど、未来ちゃんと琴葉ちゃんのライブ成功を祝してカンパーイ」
シェアハウスのメンバー7人は、それぞれの飲み物で乾杯した。
「VenusVenusのライブって初めて見たけど、凄かったよね」
瑞希が興奮気味に言った。
「ホントホント、あんなにパワフルで曲もいいし、なんて言ったって琴葉のボーカルがいいよね」
朱音も同意する。
「なんかさ、琴葉って普段は大人しそうな感じだけど、ステージ上がったら別人だよね……」
怜奈が腕を組んだ。
「ね~、そう思うよね」
里緒奈も頷いた。
「でも、未来のドラムも格好よかったよ」
瑞希がドラムを叩く真似をしながら言った。
「あんなに正確にリズム刻むなんて私には、絶対ムリ」
朱音がカシスソーダを飲みながら言った。
「私も未来さん、すごいなと思いました。
普段は大人しそうなのに、なんか別人みたいにカッコよかったです」
さくらもライブの熱狂を思い出しながら会話に加わった。
「ところでさ、さくらちゃんと祐希って、付き合ってるの?」
里緒奈が唐突に聞いた。
「え! つ、付き合ってないです……」
さくらは顔を真っ赤にしながら否定した。
「その反応、初々しくていいわねぇ」
瑞希がさくらの反応に微笑んだ。
「里緒奈さん、僕達付き合っていませんから」
見かねた祐希がさくらの援護にまわった。
「付き合ってないの?
えっ、だってさ、朝一緒に大学行って、バイトも同じなんでしょ…
それに帰ってくるのも一緒って、ほぼ付き合ってると同じじゃん……」
里緒奈が2人を冷やかした。
「そうだ、そうだ~」
瑞希も同調した。
「わ、わたしは祐希さんに、ボディガードをお願いしてるだけです……」
「そうですよ、僕はボディガードなんですから……」
祐希がさくらに合わせた。
「え~、そうなんだ。
じゃあさ、さくらちゃんと祐希、今から付き合っちゃえば?」
里緒奈がニヤニヤしながら言った。
「あ、それいいよね。
そしたら、四六時中、祐希にボディガードしてもらえるもんね」
里緒奈と瑞希のネタにされて、さくらは耳まで真っ赤になっていた。
「ねえねえ、祐希はさ、さくらちゃんのことどう思ってるわけ?」
突然矛先が自分に向いて祐希の思考は停止し、つい本音が出てしまった。
「え、あの、性格もいいし、優しいし……
と、とても可愛いと思います」
「ヒューヒュー、お二人さん、暑いよ~」
怜奈、里緒奈、瑞希、朱音が2人を冷やかした。
その言葉を聞いて、さくらは手で顔を隠した。
「へ~、そうなんだ。いい感じじゃん」
里緒奈が言った。
「で、さくらちゃんは、祐希のこと、どう思ってるわけ」
瑞希が聞いた。
「え、そんなこと…、恥ずかしくて言えません……」
そこで瑞希が追い打ちをかけた。
「いい機会だから、この際言っちゃいなよ」
さくらも瑞希の誘導尋問に、つい本音を漏らしてしまった。
「え、あ、はい。
祐希さんは…… や、優しくて、誠実で、頼もしい方です」
さくらの顔は、湯気が出そうなくらい真っ赤になっていた。
「あららぁ、そうなんだ。
これはもう付き合うしかないっしょ」
里緒奈が煽った。
「こら!2人とも、あまり後輩をイジるんじゃないの」
あまりのエスカレートぶりに、見かねた明日奈が助け舟を出した。
「そうね、2人ともちょっと冷やかし過ぎよ」
怜奈も里緒奈と瑞希を窘めた。
明日奈が呆れたように言った。
「ちょっと2人とも、いつの間にこんなに酔ったの?」
よく見ると、里緒奈も瑞希も、かなり酔っているようだ。
「あ、そう言えば、里緒奈さんと瑞希さん、ライブハウスでテキーラ飲んでたよ」
朱音が報告した。
2人が「景気づけだ」とか言って、ライブハウスでビールやハイボールを何杯も飲んでいたのを祐希も思い出した。
「それは酔うはずだよ」
怜奈が呆れていた。
「あんたたち、悪酔いし過ぎよ」
明日奈が窘めたが、酔っ払い2人には全く効いていないようだった。
「は~い、ごめんなさ~い」
里緒奈と瑞希が、全く反省していない様子で謝った。
さくらと祐希は、里緒奈と瑞希の酒の肴にされてしまったのだ。
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