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第17話 祐希とさくらの朝

 月曜日の朝7時過ぎ、祐希はスマホのアラームで目を覚ました。

 遮光カーテンを開けると、朝の眩しい光が差し込んできた。

 

 祐希はトイレと洗顔を済ませ、身だしなみを整えた。

 このシェアハウスには、なぜか祐希の部屋だけに専用トイレが付いている。

 なので、誰にも気兼ねなくトイレを使えるのだ。

 祐希にとって、自分以外は女性ばかりのシェアハウスで、唯一落ち着ける場所である。


 ラウンジに出ると、明日奈と怜奈がテレビニュースを見ながらコーヒーを飲んでいた。

「おはようございます」


「おはよぉ~」

 2人が挨拶を返してくれた。


「祐希くん、よく眠れた?」

 明日奈が聞いた。


「はい、おかげさまで、ぐっすり眠れました」


「そうみたいね。

 なんか、スッキリした顔してるもの…」


 昨日は早く寝たし、今日もまたさくらと一緒に行動できるから、その嬉しさが顔に滲み出ていたかもしれない。


「明日奈さんは、お疲れみたいですね…」


「そうなの……最近よく眠れなくて…」


「なんか悩みでもあるんですか?」


「えっ?

 あー…悩みというほどでもないけど、ちょっとね…」

 明日奈はなぜか顔を赤らめ、言葉を濁した。


「そうですか、無理しないでくださいね」

 そう言うと、祐希は朝食の準備に取りかかった。

 まず共用冷蔵庫内の自分の食材を確認した。


 ちなみにシェアハウスの共用冷蔵庫にはルールがある。

 食材にはマジックで名前を書くこと、賞味期限切れや腐敗したものを放置しないこと。

 違反した場合は管理人である明日奈が撤去する決まりだ。


 祐希が共用冷蔵庫を確認すると、自分の食材に卵とベーコンとレタスを見つけた。

(今日はベーコンエッグだな)

 食材を取り出し、振り返ると、さくらが立っていた。


「祐希さん、おはようございます」

 さくらは、大きな瞳を輝かせ、クラクラするほど爽やかな笑顔で挨拶した。

 今日の装いは、白いフリルのついた半袖ブラウスに、淡い水色のロングスカートだ。

 腰まである黒髪を少し高めの位置でポニーテールに結び、サラサラの黒髪が動くたびに揺れていた。


「お…おはよう…ございます」

 (朝からその笑顔は反則だろう…)

 祐希は挨拶するのがやっとだった。

 普段髪を下ろしている時とは違う、透き通るような白いうなじが、窓から差し込む朝の光の中で眩しく、祐希は思わず見とれてしまった。


「朝ごはん、何作るんですか?」


「トーストとベーコンエッグにしようと思って…」


「あら、奇遇ですね。

 私もベーコンエッグ作ろうと思っていたんです。

 祐希さんの分も一緒に作りましょうか?」


「え、いいの?」


「いいですよ。

 1人分作るのも2人分作るのも、一緒ですから」

 さくらは、そこでまたキラースマイルを見せた。


 (うわ、その笑顔ヤバすぎる)

「そ、それじゃ、お願いしようかな」

 祐希は動揺を隠しながら、平静を装った。


「はい、お任せください。

 その代わり、祐希さんトースト焼いてもらえますか?」


「了解」

 2人は役割分担して朝食を作り始めた。


 その様子を見ていた怜奈が明日奈に小声で言った。

「あの2人、なんかいい感じじゃないですか?

 ホンワカしてて、いかにも青春って感じですね」


「ホントね、見ているこっちが恥ずかしくなりそう」


「はぁ……私も、あの頃に戻りたいなぁ」


「何言ってるのよ。

 怜奈ちゃん、まだ十分若いじゃない」


「でも、さすがに6歳の差は大きいですよ。

 お肌の張りとか、全然違いますから…」

 怜奈は、18歳のさくらとの年齢差を嘆いた。


「そんなこと言ったら、私なんて9歳差よ」


「お互い、年は取りたくないですねぇ…」


 その頃、祐希はキッチンカウンターのスツールに座り、トースターでパンを焼きながら、焼き上がった順にマーガリンを塗っていた。


 向かいでは、さくらがIHクッキングヒーターで手際よくベーコンエッグを作っていた。

 フライパンの上でベーコンが香ばしく焼ける音と香りが漂う。

 絶妙な焼き加減で卵を仕上げると、レタスとミニトマトと共に彩りよく皿に盛り付けた。


 さくらは、ベーコンエッグが乗った皿を2枚、カウンターに置き、祐希の隣に座った。

 そして、自分にはカフェオレを、祐希にはコーヒーが入ったカップを置いた。

「祐希さん、コーヒーでよかったですか?」


「ありがとう、助かるよ」

 祐希は目の前に置かれたベーコンエッグの皿を見て驚いた。

 ベーコンはいい感じにカリカリに、目玉焼きは黄身がトロトロの半熟で、レタスとミニトマトが添えてあり見事な出来栄えだった。


「へ~、さくらさん、料理上手なんだね」


「上手なんて、とんでもない。

 独り暮らしするのに困らないようにって、おばあちゃんから鍛えられただけです」

 さくらは、祐希に褒められて、まんざらでもない様子だった。


「あの、祐希さん」

 さくらは少し頬を赤らめながら、祐希に向き直った。

「もし、ご迷惑でなければ……

 毎朝、祐希さんの分の朝食も、私が作りましょうか?」


「えっ? そんな! 毎日なんて悪いよ」

 予想外の提案に、祐希は慌てて手を振った。


「いいんです」

 さくらは小さく首を振った。


「祐希さんには、毎日大学まで送り迎えしていただいてるので、そのお礼の意味もあるんです。

 それに、朝ごはん作る手間は、そんなに変わりませんから」

 そう言って、彼女ははにかむように微笑んだ。


(正直めちゃくちゃ嬉しいな……)

 さくらの手料理が毎朝食べられる。

 こんな魅力的な提案を断る理由は無い。


「……それじゃあ、お言葉に甘えて、お願いしようかな」


「はい! 任せください!」

 さくらの顔がパッと輝き、嬉しそうにうなずいた。


 そのやりとりを、後ろで聞いていた明日奈と怜奈は、お互いの顔を見合わせて、満面の笑みを浮かべ無言でハイタッチした。

※創作活動の励みになりますので、作品が気に入ったら「ブックマーク」と「☆」をよろしくお願いします。

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