エピローグ
「……なんだかんだ、人生計画は上手くいってんだよなあ……」
呟いた声は、割と弱々しかった。我ながら。
お金を貯めたら暗殺(便利屋?)稼業から足を洗って、どっか田舎に小さな庭付き一戸建てを買って、のんびりスローライフを送る……それが私の人生設計だった。
今はどうだろうか。
しっかり身分は洗浄されて(仮)がつくけど貴族籍に身を置いて。
王都からだいぶ離れた北方の、町から少し離れたところに小さくはないけど庭付き一戸建て。
訪ねてくる人も最低限だし、干渉されることもないし、なんだったら友人知人も結構いるし狩りに出れば美味しいお肉もゲットできる。
(……うん、まあ、理想的っちゃ理想的だ)
食うに困らず、自分好みの内装に家を整えて保存食を作っちゃったりなんかもして?
うんうん、理想的だよね。
そう、理想的だよ。
ただまあ、その人生設計には恋人、または結婚ってものが空白だった。
正直なところを言えば私の生い立ちを考えれば、恋愛とか結婚って絵空事みたいに思えていたからさ……。
とはいえ私だって年頃の乙女だからね!
成り行きでそういうことになるかな~くらいは想定していたとも。
「それがこんなヤンデレとは誰も思わないよねえ」
「何か言ったか?」
「んーん、今日も平和だなあと思ってさあ」
「そうか」
「そうだよ」
私の膝枕でご満悦なシリウスは、私がちゃんと逃げないでいるうちは大人しい。
放っておくと「孕ませれば逃げられないか……いや、それだとセレンの愛情が子供と俺とで分けられてしまうか……?」なんて物騒なことしか言わなくなるので要注意である。
黙ってればかっこいいんだけどね!
身分もあって強くて一途、家庭問題も概ね問題なし。
ヤンデレなのが玉に瑕だよね!!
「……まあ、今が幸せならなんとかなるかあ」
「さっきから何をぶつぶつ言ってるんだ?」
「ん? ああ、結婚するって言っても私は呼ぶ相手もいないからどうするのかなーって」
「別に式は二人きりだって構わない。俺はセレンが傍にいてくれたらいいんだ」
うーんこの大型犬め。
さらっとときめくようなことを言うよね!
「……公爵家の人たちはそうもいかないでしょ。大事な家族なんだからさ」
「ならセレンもそうだろう?」
「いやそういう問題じゃないから」
あんたの家族はあんたが大事だから私のことも大事にしてくれるんだぞ?
対して私には家族が……ってああもう、説明するのも面倒臭いな。
「……お前のことを一番わかっているのは俺だ。そうだろう?」
「シリウス?」
「これからもずっと一緒だ」
ああー、うん!
一見まともそうだけどやっぱコイツめっちゃヤバイ系のヤンデレだわあー!!
「……わかってるよ」
逃げたら地の果てまで追いかけてくるタイプ。
でもそれでも私が傍にいる限り、大人しい大型犬でいてくれる程度には優しさがあるんだからタチが悪い。
そしてそんな男を『可愛い』と思ってしまった私も、もうきっと抜け出せない。
(こんな予定じゃなかったんだけどな)
どこぞの物語に転生したと思って、そこでの死亡フラグを手探りで回避して老後を夢見ただけなんだけど……思いのほか大物を釣り上げてしまったというか、釣り上げる気はなかったから食いつかれたというか……。
うん、食いつかれた、が一番しっくりくるわ。はは。
「私を傍に置いときたいなら、いい子でいてね」
「セレンがいなきゃ生きていけないんだ。傍にいてくれるならいくらでも」
彼の重たい愛情が、これから私にとってどういうものになるかはわからない。
いつか持て余すかもしれないし、心地良いと思うようになるかもしれない。
今はまだ若干怖いと思うこともあるし、呆れることも多いけど。
「じゃあ近いうちに、公爵様にだけ立ち会ってもらって結婚しちゃおっか」
「ああ」
「お披露目でお茶会でもすればいいでしょ」
「ああ」
「……ちゃんと手伝ってよね」
「肉は獲ってくる」
「お茶会だけど!?」
ヤンデレになったメインキャラなんて想定外も想定外だけど、手綱を明け渡してくれているうちはまあ大丈夫でしょ!
……大丈夫だよね? 私のセカンドライフ!
これもハッピーエンドだって誰か言ってくれないかなあ!!
これで完結です!
ありがとうございました




