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「彼女のチョーカーはこの領の慣習に倣い、俺がセレンに似合うものを用意したのですが?」
ひやっとした空気が流れる。
それは何も比喩ではなく、シリウスから漏れ出る氷の魔力があたりを凍らせ始めたからだ。
さすがに寒いんですけど!?
ここは屋内だから外套も脱いでいるし、廊下が凍るのはちょっといただけない。
とはいえ私はこの場でもっとも身分が低く、勝手に口を開くと目の前の馬鹿……じゃなかった、王女様の口撃チャンスを与えるなんて面倒臭いことになってしまう。
なので、彼女に見えないようにシリウスのふくらはぎを蹴った。
本当なら膝かっくんしてやりたいところだが、さすがにこの状況でいきなりシリウスが体勢を崩したら恥ずかしいだろうしね!
私ってば気遣いできる~!!
てか結構強い力でふくらはぎ蹴ったと思うんだけどさ、いくらブーツ履いてるからって固すぎない? こわ。
でもシリウスから漏れ出た魔力は収まった。
機嫌の悪さが影響したままなのか、この廊下の空気は冷たいままだしなんだったら一部氷の結晶があちこちに見えるので困ったもんだけど。
「失礼。王女殿下はご存じなかったようですが、この国では親しい間柄で飾り物を、そして中でもこの土地では婚約者にチョーカーを贈るのが一般的なものですから」
「あ、あ、あら、そう」
カーリーン王女が震えているのは寒いからか、怖いからか、両方かな?
私がアナベルと一緒にコートを作っている時に聞いた、王都なんかで流行っているという若い女の子向けのちょっと薄手のドレスだもんね……。
屋内はあったかいからさ……。
薄手で結構体のラインに沿ったデザインだから、足下から冷えっ冷えだと思うよ。
ちなみに私はがっつり防寒対策をした服装なので、正直屋内は少し暑いくらい。
でもそのくらいでいいんだよ、どうせ外に行くから。
この道程もデートみたいで楽しいとか狩りをしながら言うシリウスが一緒なんでね……。
ほぼほぼ私は狩りで動かないけど降り積もった雪の中を移動する分には温かい格好が必要だからね……!
「や、やはりつける人間で変わるのかしら? わたくしもこの国に馴染んだ証に誰かに贈ってもらいたいわね……お近づきの印にだめかしら? シリウス」
(おおー……頑張る! 凍えながらもアピール頑張るね!?)
「申し訳ございませんが、俺は妻となる女性以外に贈るつもりはなく。……誰かいないか、カーリーン王女のお加減が優れないようだ。温かい薬草茶を準備して差し上げろ」
シリウスがようやく気を取り直したのか、声を上げると使用人さんたちがどこからともなく現れてカーリーン王女を連れて行った。
「あーあ、あったかい薬草茶って超苦いやつでしょ」
「健康のためだ、そのくらいはいいだろう」
「……あったまるだけなら他にも美味しいハーブティーがいくらでもあるのに?」
「このくらいの意趣返しは許されるだろう?」
「まあねえ」
よっぽど私のチョーカーを貶されたのが腹立たしかったのか、そっと指を這わせてきて私の目を見てくるシリウス。
その態度が少しばかり『お前はどう思っているのか』と心配そうなワンコにしか見えなくて、私は仕方ないなあとシリウスの頭を撫でた。
「……私はこのチョーカー、気に入ってるからね」
「そうか」
「うん」
「……そうか」
嬉しそうだから、まあいっか。




