75
そしてお茶会当日――私の目の前にいるのは、『影喰い』ルーラントその人である。
シリウスは予定通り大変な不満顔でカーリーン王女の接待に駆り出されたってわけ。
勿論、二人きりになんてできないのでサフィアン様とアナベル様もついていったよ。
名目上は〝交流をするため〟ってね。
カーリーン王女としてはデート気分だったろうけど、まあ断れないだろうと思う。
それに、正直なところこのノクス公爵領で狩りをするって普通の王侯貴族の趣味スポーツレベルじゃないんだよね……アホみたいに強い魔獣が出るからさ……。
正直私もある程度は戦えるけど、率先して行きたいとは思わないっていうか……お肉が美味しいやつを狩ってきて! ってシリウスに言うのが一番早いよね~って思ってる。
「わざわざ自分のためにこのような場を設けていただき、恐悦至極」
「まあそのように丁寧な態度で接してくださらなくても結構ですよ、クレイ様。私はシリウス・フェローチェス・ノクスの婚約者ではありますがあくまで婚約者であるからこそ、皆様の前でご挨拶させていただけた程度の身ですので」
しかし我々がこっそり『影喰い』ルーラント……なんて呼んでいるこの人は、その強さで二つ名を勝手につけられる程の実力者とは思えない風体だ。
ルーラント・クレイ。
ほっそりとした、貴公子然としたその立ち居振る舞いに対して口調はやや古風。
私自身は隣国での仕事なんて面倒臭いから受けていなかったけど、噂に聞くところによれば王家を狙う暗殺者の大半がこのクレイ公爵家の長男、ルーラントによって悉く始末されたという。
つまるところ、暗殺者と戦えるだけの実力がこの優男にあるってことだ。
どんな実力かはわからない、わからないからこそ恐ろしい。
(そしてそんな男が単身、私に会いに来たってことが一番厄介なのよ……!)
カーリーン王女の元婚約者。
ちょいと調べた範囲では、その婚約は王家側からの打診だったという。
まだ当時は現在の王太子が生まれる前で、カーリーン王女が王太女として立位することは大前提だった。
もし弟王子が生まれても無事に育つまでの中継ぎという役目もあったので、確定路線。
その上で、クレイ公爵家の長男が選ばれた。
もしそのままカーリーン王女が王冠を戴くならば王配として立ち、生まれた子の誰かがクレイ公爵家を継ぐ。
継がなくてもカーリーン王女はクレイ公爵家の夫人となれる。
(……悪くない話よね)
どっちにしろ、面倒臭い責任はつきものだけど贅沢な暮らしは約束されているのだもの。
私からしてみれば、随分と手厚く大事に大事にされていたんだなあと思う。
まあその分カーリーン王女は弟が生まれたらどんなに努力したって玉座を譲らなきゃならないっていう、やるせなさはあるんだろうけどさ。
ただまあ、ルーラントの方はどうかって言うと難しいところだ。
なんせ王家からの縁談を断ることはできないってのは、平民でもちょっと考えたらわかること。
よっぽどの理由があればできるんだろうけど、基本はお断りできないってシリウスも言ってたもん。
まあそのよっぽどの定義が私にはわからないんだけども。
「それで、わざわざ王女殿下のおそばを離れてまで私に会いたいと仰った理由はなんでしょう?」
「……随分と直接的なことを言う」
「まどろっこしいことは苦手でして。貴族的なやりとりがお望みでしたら、努力はいたしますが」
努力しかできないけどな!!




