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秘密  作者: 藤崎麗奈
15/20

婚礼の夜

    妻が先に乗り、俺は悠人を乗せてから、乗り込んむ。

   「篠原さん、さぞお綺麗でしょうね?  頭は良いし、きれいだし、性格は穏やかで上品で、本当に文句のつけようのないお嬢さんね」 「まあ、そうだな」俺は、少し微笑みを浮かべて同意する。 「どうしてあなたの塾なんかで、働いていたのかしら?」  「まあ、彼女はそれが好きなんだろう、いつも一生懸命だったよ」

    「塾のお姉ちゃんの式よ、とってもキレイなお着物着て、凄くきれいよ」 「そうだよね、お姉ちゃん、きれいだよね、おねいちゃん、あいたいな」悠人がはしゃぐ。


     披露宴の会場に到着し、控室に入る。 新郎新婦の親族、友人に、丁重に挨拶する。

     美憂の両親にも勿論挨拶する。 母親に深々と頭を下げられ、「本当に娘が長い事大変お世話になり、ありがとうございました。これからもご指導宜しくお願いいたします」と言われるのには、少々戸惑い、困惑した。 二人とも変わりなく元気そうで、よかった。  まあ、俺にはもう関係のない赤の他人だが、やはり完全にはそう思い切れては、いないようだ。

     会場に案内され、新郎、新婦から離れた席に着席する。  やがて、紋付袴姿の新郎、北島君だけが入場する。 美憂とはお似合いの、好男子ぶりだ。 彼の短いスピーチがある。 彼との思い出が、頭の中を過るが、俺は慌てて振り払い、妻と息子に視線を向ける。

     文金高島田を結い、綿帽子を被り、白無垢姿の花嫁が手を取られて入場し、花嫁の席に着席する。 もともとは俺がコーディネートした花嫁姿なので、好奇心がわかないわけではない。  「マアー、きれい、とってもきれい」と会場に女性の声が響くが、それはお世辞などではない、美憂は本当にきれいだ。 凛として、気高く、上品な花嫁姿だ。

     一駿、綿帽子の中からこちらに視線を向けたが、白化粧、紅色唇の顔からは、特別な感情を読み取ることは出来ない。             


     あの文金高島田を結う為に髪を伸ばした事も、綿帽子を選んだのも、白無垢打掛を散々悩んですえに決めたのも、あの女性がした事だ、それで良いのだ。 俺には、もう無関係だ。 でも男の俺が見てもきれいで、とてもいいな、と思う。

     「おねいちゃん、きれいだねー、きれいだねー」と悠人がさわぐ。 会場に、少し笑いが起きる。 妻が黙らせようとするが、効果はない。

     白無垢姿の花嫁が手をとられ立ち上がると、綿帽子の頭を軽く下げ、微笑みを浮べて退出する。 お色直しだ。 綿帽子を揺らして、チラリとこちらを見た。今度は、あの赤地の本唐織の打掛だ、さぞきれいだろうと想像する。                            だが俺はそんな事は知らないはずなのだ。 着物だの帯だのに興味を持つな、お前は男なのだ、もう女の着物の事など、関係のない別の世界なのだ。

     15分程経って、赤地、本唐織の打掛姿の花嫁が戻ってくる。  「きれいねー美憂ちゃん、キレイねー美憂」と言う女性の声が、響く。 揺れる、色簪が何とも可憐。    花嫁は終始、穏やかな微笑みを浮べ、本当に幸せそうに見える。  あの何とも、美しい和装に包まれた、美憂は本当に美憂に成りきっているのだろうか? 今日の経験が、本来のアイデンティティを完全に破壊して、悩みを解決してくれるのが良いのだが。 俺は、ほぼ完全に俺に成り切れているが、美憂は完全に美憂にはなり切れていない、特別な深い悩みがあると訴える。 俺の勘であるが、あの衣装が最後の障壁を超え完全に彼女を彼女に変貌さるのではないかと、と考える。 あの豪華な和装を俺が選択したのは、自分ではなく彼女に着せる為だったのではないか?  奇妙な考えが頭に浮かんでしまう。

    それより、彼女は今夜、成田で北島君と結ばれるのだ。 大丈夫だろうか? 無事、幸せに結ばれてくれると、嬉しいのだが。

     美憂のS女子学院の先輩で、二人の馴れ初めを作った女性のスピーチが始まった。  俺のスピーチもそろそろ順番だ。  新婦のこちらを見る視線が、少し気に成る、何だか咎める様な視線を感じてしまった。 気のせいか?

     スピーチが終わると、新婦は手を取られ、立ち上がると会釈して、退出する。

     新婦がいないと、気持ちは楽になる。 悠人を膝に乗せる。 妻はワインがお気に入りで、「おいしー」とか呟いている。 俺も飲みたいが、スピーチがあるので控える。  何せ、大変な大変な驚くべき秘密があるのだ、スピーチには注意しないと。

     絢爛豪華な佐賀錦の打掛を纏った、花嫁が再入場して来る。 「すごいわねー」と言う声が響く。 気品に満ちた堂々たる美しさ。 費用はいくらだったかな? 三月前の事だが忘れている。  まあ費用は今着るている本人と、彼女の両親が払うわけだ。 あの家のかなりの財産も一人娘の、彼女のものになるのだろう。

    「あたしも、和装にすれば良かったなー」と妻はこちらを見る。 俺たちの式は洋装だった。 結婚してから、だいぶたってから式を挙げたので、大学一年生の美憂も出席していた。 本当は、あの時は、俺だったのだが。 あの美しい衣装を纏っている奴が、あの時は新朗だったのだ。

 





     車は成田のホテルに到着する。 キャリーバッグを引き、彼に先導されて、私達はチェックインする。

   「バス、先に使ってよ、連絡したい処が何件かあるんだ」 私は、バスル―ムに入ると、大きな姿見の前で、長い黒髪を解き、スカートを下し、和装用ブラ、ショーツを外す。  大きなバスタブのライトブルーの豊かな湯に浸かり、緊張を解き、数分間目を閉じ、今日の事を思い返す。 自分の肌に触れ、「きれいなお肌ね」と呟き、「エストロゲンがエストロゲンが、どんどんあたしを変えていくのよ、完全な女にしちゃうの」と苦笑いして、微笑む。 「きれいなきれいなお着物、沢山着れたね、嬉しいね幸せだね、花嫁さんちゃんとやれたよね。 悠人君可愛いね久しぶりに会ったね」とか呟いている。 長すぎる黒髪を丁寧にシャンプーして。 「大切に扱う、約束だよね、私の大事な髪、誰との約束だったけ? あいつとか? 三人で来て、何よ」  自分の胸の膨らみや、生殖器のあたりを確認して、決意を固めたような表情を浮べ、バスから出る。

     バスタオルを使いながら、姿見をみて「美憂きれいだよね、彼興奮するね」とか微笑んでいた。

    

     彼氏がバスルームに消えると、若くきれいな新妻はバックからスマホを取り出し、真剣極まりない表情でコールする。 相手は、直ぐに出た。 「素晴らしい式だったよ。 素晴らしいカップルだ、君の花嫁姿のきれいな事!!!  全員がそう言ってたよ」 「そうなの」 「今どうしてる?」 「彼はバスに浸かってる、出てきたらどうすれば?」 「新婚初夜なんだし、言うまでもあるまい」 「でも、私、バージンなんでしょ?」 「・・・大丈夫だよ、彼は優しいし、医者だから女性の体の事も詳しいだろし、怖いのかい?」 「・・・・・」 「それより、着物きれいだった。 ため息が出るほど美しかった。 最後の打掛が一番見事だったかな、君の夢が見事に果たせた分けだ。俺のスピーチどうだった?」「ありがとう、みんな楽しそうにしていた。 あたしの小さい頃の話がうけてたわ、本当は反対なんだけど。  彼、そろそろ出て来るかも?」 「君が待っているんだ、彼もゆっくりバスに浸かってもいられまい」 「でも、何とかならないかしら?」 「今日の式も立派にやりとげたじゃないか、大丈夫だよ美憂。 もう妻なんだ優しく受け入れてあげな。 じゃあ、終わりにしよう、お幸せに」

     スマホをしまい込み、新妻は唇をかみしめ、深刻な表情を浮かべたが、自分の左手薬指のリングを見つめると「もう、北島美憂なのね、当たり前の事をするまでよね」と呟くと、表情を緩めた。  「でも、妊娠は? 避妊しないと、彼は持ってるかな? 子供作るのが前提の、結婚だからもってないでしょう。 買いに行く? 彼に、コンドーム買いに行くとか言って出かける? まあ、いいか、必ず妊娠するわけじゃないし、もう考えない事にしよう」


     房総台地の美しい夜景が見渡せるソファーに彼と並んで、掛けている。 彼は小さなシャンパンボトルを開け、二つのグラスに注ぎ、一つは私に渡し、もう一つを自分で持つ。 真剣な眼差しで、じっと私を見つめてくる、こちらも視線を受けざるおえない。 「美憂、俺は、お前が本当に好きだ、結婚してくれてありがとう」戸惑いはあったが、「あたしもよ、あなたが好き」と小声で囁く。

     彼は私の手を取る、そのままでいる、されるままでいる。  私の華奢な体を彼の均整の取れた体から延びる両腕で抱きしられる。 私の顔はどうしても彼の胸に。 されるままでいるしかない。 彼の唇が私のそれを求め、合わされてしまう。 反射的に避けようとするが、やはり、そのままでいる。 接吻は数分間続き、しだいに情熱的に。 唇を離し、彼は優しい眼差して私を見つめてくる、「美憂、可愛い奥さんだね」と私の耳にささやく。  私は自分から彼の唇を求めてしまう。

     彼は両腕で、私を抱き上げ、立ち上がる。 「やっぱり重いな」 「43キロよ」 10歩ほど歩き、べッドの上に大事そうに私をおろす。 彼は兎に角、無我夢中で私を求め、めちゃくちゃにされた感じだ。 大事にされる感じはあったけど。



     部屋は明るく成っていた。 何時間か、微睡んだろうか。  隣に青年の健康そうな、白い肌が見える、熟睡している様だ。  私は自分の胸や、太腿にふれ、長すぎる髪を指で整え、「もう処女ではないのだ、入れ替わりの時とは違う意味で、女になったのだ。 でも良かった、チットも嫌ではなかった。 彼は、無我夢中で何回も何回も求めて来たけれど、基本的には優しく、氣ずかいを忘れない人だ。 彼の精子が私の中で頑張っていると考えると、何かとても可笑しくなる」

     「彼、目を覚ましたら、また求めて来るのかな?若いからな」と思いながら、彼女はまた眠りについた。


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