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聖女ユーリカの強欲  作者: 潮騒八兵衛
第二章『やがて哀しき人形師』
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2.7 小悪魔のように

 単眼の竜門が流れ込んでくる。その光景はまるで高波のようだ。持てる限りの力でこちらを引っ張り、遠く帰れぬ場所に連れ去っていく。そんな恐ろしさが眼前の竜門たちにはあった。


 アルビオは迫る竜門の波を、千切っては投げを繰り返している。だが状況は芳しくない。

ユーリカと少年で両手が塞がっているアルビオが、その影響で本調子を出せていないのだ。引っ切りなしに襲いくる竜門たちに対して、文字通り手数が不足している。せめて竜門が増えないのであれば全てを倒してから元凶を倒すことができるが、地面をさぐっても転移先を指定する魔法陣は見つからなかった。



「アルビオ、私を降ろして!このままじゃ手数が足りなくて押し切られちゃう」


「黙ってろ! お前降ろしたら秒で死ぬだろ雑魚が!」



 なだれ込む竜門を脚で薙ぎ払いつつ、アルビオはユーリカの提案を却下する。両手が開かず攻めあぐねているのは事実だが、ユーリカを放すことはアルビオにはできない。


 ふと単眼竜門たちの壁の隙間から、老人の竜門がこちらを見つめているのが見えた。血走ったその目からは三人を絶対に仕留めるという気概が見て取れた。



「くそったれ!」


 アルビオは現状の悪さに歯噛みして、竜門の群れと戦闘を行う。雷鞭の一撃で竜門は倒れるが、すぐに紫の閃光と共に新たな竜門が現れる。


 倒しては新手が来て、新手が来ては倒す。無意味なイタチごっこに床の竜門の死体だけが増えていった。



「このままじゃ埒があかない。……竜門は見つけたしこのガキは用済みか」

「ちょっとアルビオ! そんなのダメだよ! 降ろすなら私を降ろして。私なら戦える!」

「お前はダメだ。契約がある以上お前の死に直結する行動は取れない」



 戦いと同様に二人の議論もまた平行線となる。終わらない戦いと終わらない議論。ただ時間と余裕だけがジリジリと削られていく。


 雷鞭でアルビオは竜門を薙ぎ払いつつ、その鋭い視線を少年に向ける。怯えた顔でこちらを見つめる少年に善人は庇護欲を掻き立てられるだろう。しかし残念ながらアルビオはその対局にいる存在だった。


「嫌だ、やめてください……です!」

「悪いな。お子様を守る趣味は俺にはないんだ」


 冷酷無比な発言とともに、少年は石畳の床へと投げ出される。ころころと転がる小さな身体に、周囲の竜門が群がった。まるで餌を与えられた鯉のように。



「嫌だ!!やだあぁぁぁ!!」


「アルビオっ!!!」



 少年の慟哭とユーリカの悲鳴が廃墟内に反響する。

 ユーリカは昨日に引き続き理解することとなる。アルビオという悪魔の(ことわり)を。決して解することのできないその思考に、ユーリカは眩暈のような錯覚を覚えた。



 このままでは少年はすぐに殺されてしまう。ユーリカはそれだけはどうにか阻止しようともがく。力でアルビオの拘束を抜けることはできないのは目に見えている。だからユーリカはメイスを手に取りアルビオに打ちつけた。


 その瞬間、聖印がアルビオの胸に刻まれる。突如襲いくる激痛て力が弱まった隙に、ユーリカは拘束を抜け出した。


 スルリと地面に着地して、流れるように少年のもとまで駆けつける。策はない。困っている人を見れば無謀に、愚直になるのがユーリカである。



「大丈夫!大丈夫だからね!」


「何してんだユーリカぁぁっ!!」



 キリキリと身を蝕む激痛と、ユーリカの後先考えぬ愚かさにアルビオは青筋を浮かべる。特に後者は、アルビオの心をささくれ立たせる。


 ユーリカは少年を抱き抱えて、ただアルビオの方を見る。その小さく華奢な身体に、今にも竜門の歯牙がかかろうとしていた。

だが永遠にその歯牙がユーリカに届くことはない。急加速したアルビオが迫る竜門の頭を吹き飛ばし、そのままユーリカたちを拐っていく。


 瞬速の救出。顔をしかめるアルビオに抱えられてユーリカが少年に微笑み掛ける。



「ああ……あぁぁ……」

「ほらね、大丈夫、だったでしょ?」


 震える少年に優しく話しかけるユーリカ。一見良いシーンに見えるが状況は一切変わっていない。むしろアルビオが聖印を負ったことで悪化したともいえるだろう。その現状にアルビオは舌打ちする。


「ああ、とんだ茶番だ」


 迫る竜門をいなしつつアルビオは体勢を立て直す。不意の攻撃を食らえどアルビオにダメージがいくことはない。ただ脇に抱えたユーリカと少年は別だ。この無限湧きする竜門の軍勢をどうにかできれば、ユーリカを守りながら老人の竜門を討つことは造作もないのだが。アルビオは歯痒い思いで竜門とユーリカたちを見た。


 そこでふと少年の淡い緑の瞳が、アルビオを見つめていることに気がつく。何かを伝えたそうにモジモジとしているようだ。遅れてユーリカもその様子に気がついた。


「ん、どうしたのかな?」


 優しく尋ねるユーリカに、少年は少し震えながらも答える。



「うぅ、上に、天井にあった、です。さっき転んだときに見つけた、ました」


 要領を得ない少年の話に、ユーリカはクエッションマークを頭に浮かべる。その横でアルビオが「最高だ」と呟く。


「え?」

「上を見てみろ」



 アルビオに促されて天井を見上げるユーリカは、そこに描かれた巨大な紋様を見つけた。否、それは紋様ではない。この広大な空間を限界まで使った、恐ろしく巨大な魔法陣である。


 魔法陣はしきりに紫色に発光して、その度にこの部屋に竜門が現れる。あれは転移罠ではなく、転移罠の移動先を決める陣のようであった。


 転移魔法陣は転移先が指定されてはじめて発動する。アルビオはそれを知り先程から床の埃を散らして、隠された魔法陣を探していた。しかしそもそも床には魔法陣はなかったのだ。



「見捨てて悪かったなガキ。上出来だ」

「うぇぁ!?はい、い、えへへ」


 アルビオはぶっきらぼうに少年に謝罪すると、空を蹴り天井まで急加速する。そしてそのまま雷鞭により魔法陣に傷をつける。

瞬間、ひときわ激しい閃光が起こり、以降紫色の発光は起きなくなった。魔法陣が機能を停止したのだ。




 そこからは一方的な展開だった。広間に溜まった有象無象の竜門をアルビオが端から倒していく。雷鞭の一撃は竜門に生存の余地を与えず、ものの一分で二十体近くいた竜門の生存者は元凶である老人の竜門一体となった。



「あ、悪魔……」

「最初会ったときも言ってたな。まあご名答だ」



 アルビオの暴力的な強さに少年は怯えた声を出す。そう言わしめるだけの恐ろしさが、アルビオにはあった。


 さて残る元凶を討とうと、首を鳴らすアルビオ。だがその視界の先には(くだん)の竜門の姿はなく、代わりに巨大な石の正方形が浮いていた。

竜門が操っていたキューブを全て用いて、不壊の要塞をこしらえたのだ。


 試しに攻撃を試みるアルビオだが、それはただ雷鳴を轟かせるだけに終わる。前にひとつのキューブを蹴り飛ばしたときとは異なり、キューブは連結されてひとつの膨大な質量を持つ塊となっている。蹴って飛ばすには些か重すぎるのだ。


 もう雷鞭(らいべん)白爛(びゃくらん)を放つだけの力はアルビオに残されていない。雷動鳴躯(らいどうめいく)を長時間使用し続けている影響で消耗がかさんでいるためだ。もともとあの技は短期決戦用の身体強化術だった。



「ダメだな……。空間操作術の防壁は絶対。壊すことは能わない」

「アルビオでも無理なの?」

「ああ、絶対だからな。お前が契約で俺を縛っているのと同じようなものさ」


 ユーリカの問いかけにアルビオは悔しそうに頷く。それほどまでに空間操作術は強力である。もとより人が生涯をかけて習得する術だ。それを軽々しく振るえる竜門が規格外の存在なのだ。



「だったらアルビオ、私に任せて」


 突然の提案にアルビオは首を傾げる。それに対してユーリカは自信満々の表情でアルビオを見ていた。


「ダメだ。相手は空間操作の使い手、お前との接触が絶たれると不意打ちに対応できない可能性がある」

「大丈夫だよ!アルビオなら助けてくれる!」


 どこまでも慎重派なアルビオを一蹴して、ユーリカはアルビオに刻んだ聖印を発動させる。突如襲いかかる激痛にアルビオの手が緩んだ。その隙にユーリカは器用にアルビオの拘束を抜け出す。


 地面に着地するとユーリカは先程と同様に聖印を宙に書き出していく。今までとは異なり念入りに時間をかけて。そして長い時間のあとに漸く聖印が完成する。



「このクソユーリカ……さっきから好き勝手やりすぎだ」


「ごめんね。でもアルビオも意地悪ばっかりしてくるから、お互い様だよ!」


 怒り心頭のアルビオにユーリカは軽く謝罪をして、それからメイスでついに完成した聖印を打ち出した。目標は竜門ではない。聖印は天井の魔法陣目掛けて真っ直ぐに進んでいく。


聖印(ディケラ)審判(パニッシュメント)


 それは今までの聖印とは根本的に違う。無力化ではなく相手を討ち滅ぼすための術だ。長い時間と引き換えに破壊力をも得た聖印は、聖女の奥の手である。


 聖印・審判は天井の魔法陣の上に刻まれ、その陣の全体へと光を伸ばしていく。魔法陣は竜門の血で描かれていた。聖印はその血を介して本体までその効力を伸ばしていく。



「ずっと考えてたんだよね。魔法陣が元凶の血で構成されているなら、この力が通るんじゃないかって!」



 そしてユーリカが竜門の方を見ると、竜門を守るキューブの隙間から光が漏れ出していた。それは紛うことなき聖印の光。つまりユーリカの策が通ったことを意味していた。


 やがて発光に竜門の悲鳴が悲鳴が混ざり、その音は徐々に大きくなっていく。そして悲鳴が止むのと同時に、宙に浮いていたキューブの要塞が音を立てて瓦解していった。そして積み上がるキューブの残骸の中心に竜門がいた。

ミイラのように干からびた竜門の死体がそこにあった。



「やったね!二人とも!」

「倒した……ですか?」

「……けっ」


 喜びの声を上げるユーリカに、二人も安堵した様子を見せる。長い廃墟の戦いがついに終わったのだ。


「これも二人のおかげだよ!アルビオがいたからここまで辿り着けたし、君がいたから竜門を倒すことができた!」

「ぼ……くのお陰、ですか?え、えへへ……」


 ユーリカの屈託のない賞賛に少年ははにかんで笑う。その少年の頭を撫でてうんうんと頷くユーリカに、アルビオは屈託に満ちた視線を向ける。

視線に気がついたユーリカはアルビオを見上げた。



「このとんでも女が……聖印をぶつけてくる奴があるか」

「アルビオが悪いんだよ?初めてあった日から意地悪ばかりしてくるんだから」


 アルビオの難色に対して、ユーリカは小悪魔のように笑った。

超簡易的キャラ紹介その3


アルビオ・グリードキン

性別:男

年齢:??

身長:196cm

体重:94kg


好きなもの『よく分からない』

嫌いなもの『桃髪の聖職者』


説明

『色素の薄い髪をオールバックにした巨漢。純黒のプレートメイルの上に、淡いブルーのサーコートを身につけた姿は騎士のようでもある。その正体は、大昔に封印された強欲の悪魔の名を冠する大悪魔。豪胆に振る舞うものの、善人が大嫌いな捻くれた側面を持つ。そのせいか出会った頃からユーリカとは馬が合わず、彼女のことを毛嫌いしている。特にユーリカの使う治癒術とやらが気に食わないようだ。休みの日は略奪の限りを尽くしていたが、そのせいで光の神カミィによって封印されて今に至る』

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