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結託

 昼休みになった直後、いつもなら昼食を食べる頃だが潤はすぐに立ち上がって零の前に立った。



「行くぞ、零」


「ああ、わかってる」



 零の表情は返事の勢いに反して覚悟が決まっていない。だが、零がどう思っていようと潤には関係ない。幼馴染にして大親友の意思に反するとわかっていてもここから先の危険から遠避けなければならない。


 2人は廊下に出て詩穂がいるであろう教室に向かって歩き出した。潤の予定では詩穂のクラスで話をするつもりだったが、それに反して詩穂も2人に向かって歩いてきた。


 互いに近付くと立ち止まって目を合わせる。潤と詩穂は硬い意思を持った表情をしているが、揺らいでいる零としてどこか気まずく感じていた。



「や、やあ。黒山さん、奇遇だね……」


「…………」


「いてっ」



 潤が肘で零の横腹を突く。比較的コメディに見える瞬間だが、残念ながら場を和ませるようなことは出来なかった。


 そして詩穂の方から話を切り出す。



「鷺森君に話があるんだけど」


「奇遇だな、俺達も黒山に話がある」



 詩穂はあくまで零に用があって来たようだが、2人だけで話すことを潤が許さない。両者とも譲らず、ずっと同じ表情のまま対峙できることに零は恐ろしさを感じた。



「神田川君が私に何の用があると?」


「単刀直入に言おう。あの件に零を巻き込むな」


「鷺森君を心配する神田川君の気持ちはわかるけれど、神田川君が思っているほど鷺森君は弱くないわ」


「だが、人と対峙するには向いていない。敵対組織に目を付けられ、襲われたとあればどうする? 零には呼び出し機能があるといえども危険だ」


「その為に私がいる。むしろ、鷺森君の協力無くして『友愛』の友香を確保することは出来ない」


「やはりそれが目的か!」



 潤は心の底から怒っている。幼馴染である零にはそれがよくわかった。



「恋悟に引き続き、友香の件にまで零を巻き込むとは! 愛の伝道師が危険なことはよく知っているはずだ」


「勿論、わかっているわ。それでも今回……特に友香は鷺森君の力が必要。鷺森君の能力を知っている貴方ならわかるはずだと思うけれど?」


「友香が噂通りの相手なら、だがな」



 2人が言い争っても決着はつかない。異変を察知した同学年の生徒達が少しずつ集まってはチラチラと見てくる。


 その視線に気付いている2人はほぼ同時に零の顔を見た。



「鷺森君はどう考えているの?」


「零、俺がここまで言ったんだ。わかっているよな?」



 零は「面倒なことになった」と心の底から思った。零の性格上、どうしてもどっちつかずになることがある。乗り掛かった船なのだから最後まで関わりたいというのが本音だが、心配してくれている潤のことを考えれば、手を引く必要性も感じられる。


 潤とトラは「手を引け」と言った。だが、零には「鷺森零」という個人の感情よりも優先すべき事柄があった。



「2人も知っていると思うけど、僕は鷺森家の人間だ。最初こそは信じていなかったけど、今の僕には鷺森家の人間として果たさなければならないことがある」



 詩穂が一瞬だけ微笑んだのか零には見えた。それはきっと、彼女の狙い通りに零を巻き込めると確信したからだろう。



「愛の伝道師とか、そういう相手だから戦うってわけじゃない。友香は被害者や加害者が抱える負の感情を利用して自分の武器にしようとしている。そういった意味では加害者だって被害者なんだ。僕は鷺森家の人間として友香を止める使命がある」


「つまりお前は、俺がどれだけ止めようと行くつもりなんだな?」


「うん。争いの中に入り込むのは不本意だけど、これ以上の被害者を出さない為に……」


「…………」



 一見すればそれは決裂の瞬間だ。幼馴染にして大親友のお節介を無駄にしたのだから。


 だが「たかがそんなこと」で仲違いするような付き合い方をしていない。


 潤は純粋に笑みを浮かべた。



「それがお前の意思なら今回は止めない。これが黒山の為だなんて言い出した時には本気で怒っていたところだがな。鷺森家の……っていうなら俺に口を挟む権利などないだろう」



 潤は零の言ったことを信じる。鷺森家が抱える宿命は以前から知っていたが信じてはいなかった。しかし、今の零を見ていて言葉を聞けば信じざるを得ない。



「潤……」


「だが危険なのは変わらない。今回は可能な限り、俺も助けよう」



 零と潤は笑顔で拳と拳をぶつけ合う。その直後、零の背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。



「勿論、私もだよ。零君!」



 振り向くとそこにいたのは亜梨沙だ。彼女は「鷺森のことで黒山と神田川が揉めている」という騒ぎを聞きつけてやってきたのだ。何も知らない周囲からすれば「神田川が黒山に、鷺森のことは諦めろ」と言っているかのように思えるが、ある程度の事情を知っている亜梨沙はそんな勘違いはしなかった。



「亜梨沙さん! 正直言って、今こそ君の力が必要なんだ。手伝ってくれるかい?」


「だからそう言ってるでしょ。……でも頼ってくれて嬉しいな」


「うん……!」



 亜梨沙と零は気恥ずかしそうに笑みを交わす。そんな2人の雰囲気に水を刺すような人は誰1人としていなかった。


 これで仲間は揃った。潤としては不本意な部分もあるが、それでもこれで零の安全が確保できたと言っても過言ではない。


 しかし、これで準備が万端かと言われればそうでもない。もう一つだけ気にしなくてはならないことがある。零は微笑のまま懸念事項を口にした。



「狙うとしたらラグナロクとドラゴンソウルが抗争をしているタイミングだと思うけど、警察からすれば暴行罪や傷害罪で現行犯逮捕を出来る絶好の機会だ。友香の確保を条件に待ってもらう交渉しないとじゃないかな?」


「それなら私と鷺森君でやりましょう。条件が条件なのだから長瀬さんも納得してくれるはずよ」


「うん、わかった。潤もぶつかり合う瞬間を逃さずに気を配っていて欲しい。タイミングを合わせて一気に片付けよう!」



 3人が同時に首を縦に振る。結束が出来上がったのはいいことだが、彼らには今すぐ急いでやらなくてはならないことがある。



「とりあえず、各自戻ってご飯を食べちゃおう。次の授業に間に合うようにしなきゃならないからね」


「そうだな」



 潤が再度頷き、2人は教室に向かって歩き出した。それが解散の合図となり、同学年の部外者達もそれぞれ散った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 一方、トラはいつもの溜まり場にチームメンバーを集めるつもりでそこにいた。流石に白昼堂々と集めるわけにもいかない。全員を集めるのは夜中になるが、中心メンバーのみ集合して事前に打ち合わせをしていた。


 その途中、トラの携帯が鳴って悩んだ末に電話を取ったので副総長は気になって質問した。



「トラ、何の電話だ?」


「ん? ああ、最近俺に情報提供してくれた後輩だ。何だか色んな人を包み込んでくれるような暖かさがある奴なんだけど、だからこそ巻き込みたくなくてな……」



 トラが言っているのは零のことである。こういった道を選ぶくらいなのだから大概の人間は信頼しない。だが不思議と、零は懐に入られても嫌な気がしない相手だった。



「そうかよ。それよか、ドラゴンソウルを相手にどう攻める?」


「どう攻めるとかあるのか? ただ特攻あるのみだろ?」


「敵の戦力がどれくらいなのか未知数なのにかよ?」



 ドラゴンソウルは比較的最近出来上がったチームだ。どこかと揉めて抗争したという情報があればともかくだが、そういった話を一切聞かないので慎重になっている。


 普通に考えれば、出来たばかりのチーム相手に警戒することなどないだろう。だが、ドラゴンソウルの総長がリュウであり、ここ最近になってラグナロクのメンバーを襲った「ヤバさ」を考えれば警戒するのは当然だ。


 中心メンバーはどう攻めるか議論しているが、なかなかに纏まらない。そこでトラが口を開く。



「相手の戦力がわからねぇのが現状だ。小細工して分散した結果、やられちまう可能性も考えられる。皆で纏まって背中を預けつつ攻める」



 皆の意見を聞いた上での結論。そこに異議を唱える者などいなかった。

読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。


今回は静岡県に出張でした。三島市です。

帰りに沼津と浜松に寄っていきました。沼津は聖地巡礼、浜松はお土産のお菓子を買うためにです。


以前、まだ新型コロナウイルスが無かった頃に沼津へは行った時は自家用車なので良かったのですが、今回は交通機関を使っての移動でしたので結構歩いた気がします。

信号のある横断歩道を渡る時、久しぶりに「恐い」と思いました。

好きなアニメのロケ地で、今もコラボしてるところもあるから自分にとって「良い場所」という印象がありましたが、コンテンツから離れて見方が変わると「悪いところ」も見えてくるんだなと勉強になりました。


交通ルールというかモラルみたいなのがちょっと乱暴だったなという印象です。

一方で、アニメのロケ地というのを推してくれるところの他にも「良いな」と思ったところがありました。


「公園の花」です。

桜が咲いているのは時期的なものですが、私が寄った三つの公園はどれも花壇にチューリップをはじめとした「手入れが必要な花」が咲いていました。

草木や花。海。自然の良さは本当に心打たれました。管理されているという面では市政・自治体の力の入れ方には驚きです。


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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