想定外のドリームチーム
放課後になって零と詩穂は警察署へ向かった。長瀬とのアポイントは既に取ってあり、余裕持って時間も指定していたことが功を奏したのか、警察署へ入った時に長瀬が出迎えてくれた。
「やあ、鷺森君。黒山さん。2人揃って用があるなんて珍しいね」
「こんちには、長瀬さん。お忙しいところすみません」
予め長瀬に電話していたのは零だったので零が挨拶を返す。詩穂は黙って会釈をしただけだ。
「場所を変えようか。ここでは落ち着いて話もできないだろうしね」
「はい」
3人は場所を移して話をすることにした。流石に取り調べを行うような雰囲気は避けたいので、適当な空き部屋を利用することにした。
「それで、大切な話って何だい?」
「長瀬さん。二つの不良少年グループが衝突しそうだって話のことです」
「ああ、あの件ね」
零よりも詩穂の方が警察とは密に情報交換をしている。警察から改めて零に情報展開して貰うのは時間の無駄となるので長瀬との話は詩穂が担った。
話の合間を狙ってなのか、若い女性警官がお茶を置いていってくれた。これは指示によるものではなく、ほぼ顔馴染みとなった二人に対して気にかけてくれた優しさによるものだ。詩穂は申し訳なさそうに、零は笑顔で会釈をした。
女性警官が去ったのを見送ってから長瀬の方を向いて話を続ける。
実のところ、詩穂と長瀬にはラグナロクとドラゴンソウルの抗争など直接的には関係ない。そもそも長瀬は担当部署が異なるし、重度の中二病患者が関係しない限りは詩穂も関わらない。だが、情報だけはある程度、長瀬にも共有されていた。
「両者リーダーを含め、重度の中二病患者が関わっていると予想されます。そして『友愛』の友香も」
「えっ!?」
長瀬は目を開けて驚いた。両方のリーダーが重度の中二病患者だというだけならともかく、そこに「愛の伝道師」が関わっているかもしれないという情報は寝耳に水だ。
「え? 衝突しそうなのは少年グループだよね?」
長瀬の混乱も無理はない。恋悟と同様に友香の年齢は既に成人を迎えているはずなのである。それが少年グループと関わっているなど、違和感を覚えずにはいられない。
少年グループの「後ろ」に成人が関わっているという話そのものは珍しくないが、友香や愛の伝道師は暴力団のような存在ではないし、そもそも組織ですらない。
「私も実際にグループ内の事情がわかっていないので何とも言えないところもありますが」
殺人事件と友香が関わっている話は長瀬も知っている。その情報を元に彼女の動向を追っていたのだが発見に至っていない。
そんな現状がありながら、別件として見ていた少年グループ同士の争いに関わっていたなど、見過ごせば警察への非難は免れないだろう。
「殺人事件の被害者は少年グループの元メンバー。加害側には友香が関わっていて、敵対グループとも接点がある……か。確かに話としては繋がっている」
冷静になった長瀬は聞いた話から得た点と点を結ぶ。そうして見えてきた話には信憑性がないわけでもなかった。
そしてそれと同時に、今回「二人で」警察署に訪れた理由がかなり重いものだと予測できた。
「それで、本題は何かな? 今の話を踏まえて何かあるんだろう?」
「はい。警察としては、二つの少年グループを捕まえる絶好の機会として見ているのでしょうが……。衝突する瞬間を少しの間だけ見逃して欲しいのです。その間に私達は友香を捕まえます」
「うーん……」
その話は長瀬にとって願ったり叶ったりだ。しかし、長瀬には友香の危険性が理解出来ていても、他の部署や警察官が友香の危険性を理解しているわけではない。彼女の逮捕よりも少年グループを捕まえることの方が優先される。
「黒山さんもわかっているだろうけど、重度の中二病患者という存在はまだ浸透していない。方針的にはパニックや過度の警戒を避けたいから、必要以上に存在を周知しないことになっている。だから、少年グループ同士の争いと友香の逮捕を比較しても、前者の方が重く見られてしまう」
「それはわかっていますが……」
「うん。だから友香の確保を待つことは出来ない」
「…………」
流石の詩穂も言葉を失った。重度の中二病患者の対応をしている身としては友香の確保を優先したいが、世間的にはそうでないと言われればそれまでなのだ。
だが、長瀬も否定するばかりではない。
「ただし、役割分担は出来る。少年グループのメンバーはどちらも重度の中二病患者ではない普通の少年も含まれているから、そっちを優先してリーダーの二人と友香をこっちで対処することは出来るはずだ。そこはちゃんと事前に手を打っておくよ」
予想したような展開ではない。しかし、何も情報展開や提案をしていない状態よりは遥かにマシな展開だと二人は思ったのだった。
しかし、長瀬としては零のスタンスに違和感がある。特に考えもなく思ったことを口にした。
「それにしても、鷺森君がこの件に自ら関わろうとするだなんて意外だね。何か心境の変化でもあったのかな?」
長瀬は零が重度の中二病患者に対して自ら関わろうとしない理由を知っている。本音を言えば、詩穂の相棒となって事件解決に貢献してくれると都合が良いので期待してしまう。
「いえ、そういうのではありませんよ。ただ、友香は単純な重度の中二病患者ではなく一種の霊能者なので鷺森家としても放っておかないというだけです」
「鷺森家として?」
長瀬は鷺森家が霊能者家系だということを知らない。古い人間で鷺森家に除霊を依頼した経験がある者なら知っているだろうが、今の人間には知るはずもない。
そして鷺森家の能力と使命に懐疑的だった零は、今まで長瀬にその辺の話をしたことがなかった。
「鷺森家は元々霊能者家系なんですよ。僕の能力はちょっと特殊なので信じていませんでしたが、鷺森露に霊能力を植え付けられて以来、鷺森家の仕事をこなすようになりました」
「それは、初耳だね」
長瀬は幽霊のような存在を信じていない。零の残留思念を読み取る能力は重度の中二病による能力の延長線、もしくは詩穂と同様に超能力の類だと解釈している。しかし、零や詩穂の前では懐疑的な態度は一切出さない。
故に、友香の能力についても重度の中二病を二つ同時に患っていると思っている。実際にそういった例が確認されているからだ。
「だから今回の友香に関する件については協力するというだけです。前回も恋悟によって自ら命を落とした人がいたからですから」
「そうか。しかし、そういうことなら今回の件については関わることはあまり褒められたことではないと思うけど」
「既に二人、同じことを言った人がいますが。長瀬さんもそう思うんですか?」
「そりゃそうでしょ。鷺森君は黒山さんと違って、起こった後の事件を捜査するのに特化している。今回は起こっているその場に居合わせること前提だ。見方によっては鷺森君も少年グループの構成員と同じだよ」
「まあ、それは確かに」
だからといって「やっぱりやめた」というわけにはいかない。長瀬にも「その指摘は無駄」だとわかっているので、これは注意というより無駄話に近い意見のつもりだ。
「黒山さんなら問題ないだろうけど、鷺森君はどうするつもりだい? 友香と戦う手段は考えているだろうが、他の乱闘に巻き込まれたらなす術がないんじゃないか?」
「それなら大丈夫です。今回は亜梨沙さんに加えて、潤も一緒ですから」
「潤……?」
「神田川君のことです」
流石に下の名前を言われただけではピンと来なかったが、詩穂に苗字まで言われて誰のことを言っているのか理解出来た。亜梨沙に関しては今も小泉梨々香のことで関わっている部分もあるのですぐにわかる。
しかし、理解出来た一方で驚きなのが本音だ。
「なんと! 『魔法少女の娣子』に加えて『瞬殺』まで味方とは!」
「え? シュンサツ……?」
亜梨沙のことはともかく、瞬殺という呼ばれ方に馴染みがない。詩穂ならわかるだろうと思って、零は詩穂の方を見た。
「これも神田川君のことよ。幼馴染なのだから、てっきり神田川君の能力を知っているものだと思っていたのだけれど?」
「ああ、そういう呼ばれ方だったのか。確かに潤はそうだよね」
実際のところ、零は潤の能力を見たことはない。潤が「相手を倒したところ」なら見たことがある。いつの間にか倒しているという意味では『瞬殺』という名も納得できる。
「これは想定外のドリームチームかもしれないね。結果に期待できる」
長瀬が今までに見たことのないような笑みを浮かべている。不思議と零はそれが「気持ち悪い」と思った。
読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。
今回の潤と詩穂は協力していますが、実はどこかで対決シーンを書きたい! と思ってます。
ぶっちゃけ本当は今回も戦わせて良かったと思っていますが、零自身にも詩穂と協力しなければならない理由があるので激闘をするたけでもう無駄だというのがわかってしまいます。
基本的に潤は零の幸せを邪魔する存在は敵だと認識していますので、その日は遠くないかも……?
それではまた次回。来週もよろしくお願いします。




