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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
魔法少女の娣子
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その後の情報共有

 詩穂の話が本題に入るのと同時に零の聞く姿勢も真面目なものに変わった。2人の間に真剣な空気が流れるが、どちらも話に集中して空気の変化を感じ取っていない。


 思ったことを話そうとした瞬間、詩穂の頭に1つの疑問が思い浮かんだ。



「そういえば、私から聞かなくても神田川君から聞けるのでは?」


「そうだね。黒山さんの『漆黒』が元々2つに分かれていた能力だったって話は聞いてる。流石に潤も黒山さんに確認取らず話すことは避けたんだと思う」


「神田川君も鷺森君と同様に変なところで礼儀正しくするのね」


「えっ? 潤はともかく、僕はいつも行儀良くしてるつもりだけど」


「……脱線したわね」


「ちょいちょいちょい!」



 零としては、気に入らないところがあるのなら隠さずに教えて欲しいと思っているのが本音だが、そんな話で時間を使いたくない詩穂は敢えて流した。


 咳払いを1つしてから場の空気を整え直し、話し始める。



「結論から言うと……私は代償を『拒絶』したのよ」


「何となくわかる気がするけど、具体的にはわからないんだよね……」


「そうね。重度の中二病患者には能力を使う度に代償を要求されるのは、鷺森君も当然知っているわよね?」


「勿論。お陰で僕は年中寒さに支配されているからね」


「ええ。そして私の『漆黒』に含まれている『拒絶』という能力には非物質のものを弾く効果がある。それは重度の中二病を用いた攻撃は勿論、代償も例外ではないの」


「…………」



 零の頭には詩穂が『拒絶』で相手の攻撃を無力化していた瞬間が思い出されていた。そして亜梨沙を救った場面へと切り替わる。



「うん? ならどうしてあの時、僕が必要だったんだ? 尚更わからないんだけど」


「代償を『拒絶』するにはまず、本人が代償に明確な『拒絶』を示す必要がある。でもあの時の彼女は既に代償を受け入れて瀕死状態だったわよね? だから、代償による死を『拒絶』する思いが必要だった」


「なら僕で無くても……あ」



 零はそこまで言い掛けて気付いた。


 ───というより「思い出した」が正しいかもしれない。詩穂は『漆黒』という能力を維持する為に誰かに対して求めるような感情を持ち合わせることが出来ない。


 それはつまり、他者を嫌うことは出来ても好くことは出来ない。亜梨沙に対して「生きて欲しい」と思うことなど絶対に出来やしないということだ。



「わかってもらえたかしら?」


「うん、お陰様で。……ということは、黒山さんなら『黒零』とかの現象もわかるってこと?」



 零は『黒零』や『黄零』がどういった要因で起こるのかがよくわかっておらず知りたいと思っていた。発動する条件などが実はよくわかっていないから、今のところ一回ずつしか使用できていない。



「正直言って、あの現象については半分だけ私の思惑通りだったのだけれど、もう半分は想定外だったわ」


「えっと……?」


「過去より、2人以上の重度の中二病患者による能力同士の相乗効果は確認されていたわ。私の予想では鷺森君の刀のみに影響があると思っていたのだけれど、姿形だけに止まらず、性格まで変わってしまっていたわ。そこが想定外だったの」


「あ、そうなんだ? 僕は『黒零』の使用中に関する記憶があまりないから……。何となく恋悟と戦った映像だけは見ていたような感じがするんだけどさ」



『黒零』は心身共に疲労が大きかったが、一方で『黄零』は極端に少ない。今の零に足りていない鷺森家の能力を補ってくれたような形だ。


 そこに対しても疑問は残るが、詩穂は『黄零』を見ていない。これ以上の追及は取り敢えずやめておくことにした。



「今後も使用することになるかもしれない。その時は使いどころを意識する必要がありそうね」


「そうだね。情けない限りだけど、そうした方が良さそうだ」



 これで取り敢えず、零が詩穂に対して思っていた疑問は無くなったことになる。しかし、わざわざその話をする為だけに零をここへ連れてきたわけではない。



「もう一つ、鷺森君には話しておかないといけないことがあるわ」


「え?」


「あの建物に関して、よ」


「ああ!」



 気になっていたといえば気になっていたのだが、集まっていたこの世ならざるもの達を葬り、鷺森露をあの建物から追い出した時点で少年の残留思念による依頼は達成されたことになる。


 その時点で零の関心は薄れてしまっていた。



「表向きはとある宗教の支部跡といったところね。支部そのものは持ち主の他界から程なくして移設されているけれど、残った建物の実態はもっと闇深い場所ということだわ」


「闇深い?」


「ええ。鷺森君は黒魔術って知ってる?」


「単語だけは割と馴染みある……けど、現実に存在するの?」


「存在云々を言われれば何とも言えない部分はあるのだけれど、儀式そのものと信仰は実際にあるわ」


「儀式……?」


「そう、儀式。表向きの宗教との関係性はわかっていないし、黒魔術との直接的な関係はないのだけれど、儀式が行われた形跡があったそうよ」


「その儀式って具体的には……いや」



 詳細を聞こうとしたところで零の脳内に考えが一つ思い浮かんだ。


 あの建物は鷺森露の存在と関係なく、この世ならざるものを集めやすい性質があるように思える。それはつまり、あの場所が何かしら負の感情を集めやすい要因があったということだ。



「鷺森君?」


「ああ、いや。日本ではどの宗教を信じるかは人それぞれなんだけど、あの場所は宗教とは別に何かありそうだね」


「というと?」


「宗教が関係してるから儀式とか試練と結び付けやすいけど、それは信者達が納得している上で行われているはずでしょ? でもあの場所はそういった雰囲気じゃない。多分、宗教とは別に実態は殺人事件なんじゃないかって思えてならないんだよ」


「…………」


「これはあくまで僕の憶測だし、話すなら黒山さんではなくて長瀬さんにするべきだったね、ごめん」


「いえ……」



 詩穂の返答は意外なもので歯切れが悪かった。詩穂自身、何か気になっていることがあるのか、それともそれ程までに判明している事件がショッキングなのかはわからないが、それ以上踏み込むようなことが零に出来るはずもない。

 結局、思い出したようにもう一つ気になったことを口にした。



「あ、そういえば持ち主は見つかったの? 多分、持ち主の孫? が健在だと思うんだけど」


「ご名答。本来の持ち主は既にこの世を去っているのだけれど、現在の持ち主であるお孫さんは知らないうちに相続していた……という形になるわ」


「どういうこと?」


「そもそもあの建物は、とある宗教の支部……となっているけれど、場所を提供しているだけで実態は個人の持ち物となっているの。本来の持ち主の娘さんはわかっていながら相続。その娘さんも亡くなり、結局はお孫さんが相続していたという形ね」


「成る程……」



 零が見た少年の残留思念から察するに、きっとその孫はあの建物が「とある宗教の支部だった」とは知らなかったことだろう。彼は純粋にあの場所を「祖母との思い出がある場所」として認識しているはずだ。



「ん……?」



 そこまで考えて零は一つ、違和感を覚えた。


 隠された事件の現場は間違いなく地下のことだろう。それは秘匿されてきたはずだが、少年の残留思念はその場所を知っていて零に教えた。



「お孫さんは……地下の存在を知っている……?」


「え?」


「もし、僕達を導いてくれた少年の残留思念がお孫さんのものなら、地下へ導いた少年……つまりお孫さんは地下の存在を知っていたことになる」



 残留思念はあくまで残留思念として残った瞬間に知っていた情報しかしらない。つまりそれは、残留思念になってからでは零との会話中のみしか情報の更新がされないということである。



「いずれにせよ、長瀬さんと話す必要性がありそうだ。杞憂だといいんだけど……」


「……その辺りは私の担当外ね。次は梨々香さんから話を聞く時になるけど」


「うん。その時はまた連絡をお願いするよ……色々話してくれてありがとう」


「いえ、どういたしまして」



 これにて零と詩穂の秘密話は終わりとなる。例のごとく、中年の運転手が零を自宅まで送り届けたのだった。


 家に着いて祖母と少しだけ会話を交わした後、零はすぐに自室へ向かい、長瀬に電話を掛けた。

読んでくださりありがとうございます。夏風陽向です。


体調崩したこともあって、狙わず5連休となった(なってしまった?)わけですが、久しぶりに本を買って、久しぶりに読み掛けだった本を少し読み進めました。


今こうして書いている以上、逆に読むことを必要だと思っています。元々「作文そのもの」は得意だった私ですが、それはあくまで「文字上で思うことを書ける」という程度。初めて小説を書いた時と今を比較すれば、今の方が断然理想に近い気がしています。


ただし、私は正直なところ継続が苦手なので、書く上での継続力は読んでくださる皆さんにいただいているものになります。ありがとうございます。


もう3〜5週くらいは現在の章が続きそうです。なんだかんだ細かく書いているうちにこうなっていますが、話のテンポが悪くなっているのではないかと心配になる部分もあります。


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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