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思念と漆黒の組み合わせ  作者: 夏風陽向
魔法少女の娣子
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祖先と子孫、同じ場所で───

『……ん?』



 男はすぐに気付いて返事をした。声の質からして老人だとわかった瞬間、通話を掛けるよ前よりもはっきり見えた。厳格そうな力強さを感じさせる老人だった。



「ここで何を?」


『若造こそ、近頃では滅多に見ない豪華な着物を纏ってどうした?』


「貴方の反応を察知してここに来ました。貴方はこの世の者ではない」


『ほう。だが、儂が見えたところで何だ? 儂はこの家に用がある』


「何の用が?」



 老人はかなり迷惑そうな顔をして零と話をする。だが、声質からしてそこまで嫌そうな感じがしない。少しずつ話をする気になっているようにさえ感じられる。



『ふむ。儂はこの家の主だった。ご先祖様が守ってきたように儂も守ってきた。だが、儂のせがれはこの家を手放し、金にした。それが許せんくてな』


「……えっと。それって、今ここに住まわれている方には関係ないと思うんですが」


『左様。だが、今でも儂にとってはここが家。我が家を我が物顔で住まう他者を許せるものか』


「もし、貴方がこのままこの家に住む方々に何かするつもりなら、僕は貴方と戦わなければならない……。大人しく退いてください」


『断る』



 老人は零に敵意を向けて襲い掛かる。武器はなく、素手による攻撃だ。


 零はピンク色のガラケーを武装型で《現》へと姿を変えて応戦する。伸ばしてきた腕を斬り落とそうと刀を振るった。


 衝撃音はない。だが斬り落とすことも出来ず、刃が通らなかった。



「なっ……!?」


『その程度か、若造!』



 老人は左手を前に出して零を押した。その威力は見た目から想像できるものではなく、予想以上の衝撃に体勢を崩した。



「おっと!」



 すぐに足を後ろに出して転倒を防ぐ。老人はすぐに追撃を仕掛け、零の首を絞めようと両腕を前に出した。



「…………」



 今までようにただ刀を振るうだけでは相手に勝てない。ただの武装型では霊相手に通用しないということだ。


 ではどうするか。鷺森露によって植え付けられた霊能力を込めるしかない。今までにない感覚を《現》に込める。


 すると、白い打刀から白い(もや)のようなものが浮き上がった。不完全ながら《現》に霊力が宿った証拠だ。



「ぬんっ!」



 零が刀を振るうと今度こそ老人の両手が斬り落とされた。流石に豆腐を切るようにはいかなかったが、物質とは違う不思議な手応えはあった。



『ぐおっ! うぬぬ……』



 老人は怯んで後退りした。だが、相手はそもそも生身の人間ではない。失われたはずの両腕は再生していた。



「…………」



 とはいえ、与えたダメージが失われたわけではない。そもそも妖刀《現》はこの世とそれ以外の世との繋がりを断ち切る刀。老人の身体が透けていく。



『やってくれたな、若造。貴様に何がわかるというのだ! 何故、邪魔をする!』


「貴方がこの家を守ってきたことは立派なことだとわかる。それは胸を張るべきことだと思います。僕なんかでは想像できない程、苦しいこともあったでしょう……。ですが! だからといって今を生きる人達の生きる権利を奪っていい理由にはならない!」



 零は刀を縦に振るって袈裟斬りを仕掛けた。それに対して老人は再生した両腕で受け止める。



『ぐぬぬ……!』


「この家の人も貴方の同じようにこの家を守ろうとしています。ならば、貴方はそれを見守るべきはずだ!」


『ぐうう……』



 かつてこの地を守り、今はこの世を去ったものを讃える。そして今を生きる人達を憂う。


 そんな零の気持ちに霊力が反応して強まり、やがて老人を一刀両断で切り伏せた。



『ぐ……おお……』



 老人は更に後退りして膝をつく。もう戦う力を残していない。



『若造が……。お前の思い、青臭いが、響いたぞ』


「…………」



 老人を見つめる零。老人は改めて零の着物を見て、そこに描かれた家紋に目を丸くした。



『そうか、若造。お前は鷺森の者だったか……その強さ、通りで』


「えっ、鷺森家をご存知なのですか!?」



 今度は零が目を丸くする番だった。だが老人は零の質問に答えず悲しそうな顔を浮かべた。



『儂は……鷺森に葬られる側になってしまっていたのだな』



 老人が消えていく。質問に答えるよう催促しようとしたが出来ず、その代わりに零の視界が真っ白に染まった。


 直後、よく知った感覚が襲った。これは残留思念を読み取る時と似たような感覚だ。徐々に見えてくる風景によく目を凝らした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 比較的新しかったはずの家は古い日本家屋へと姿を変えていた。玄関先で4人の男女が話をしているのが見えた。



「えっ!?」



 零は目を丸くして驚いた。そこには老人とよく似ているが別人である老人とその妻らしき老婆。そして、鷺森露と見知らぬ若い女性がいたのだ。



(何故、鷺森露が……? そして横にいるのは誰だ……?)



 そんな疑問を抱きつつも話に耳を傾ける。



「───では、よろしく頼む」



 老人がそう言うと鷺森露と隣の女性は頷いた。そして女性が明るい声で「お任せください!」と力強く返したのを聞いた老夫婦は穏やかな笑みを浮かべて頭を軽く下げた。


 4人はそのまま家の中へ入っていく。一緒に進んでいかないといけないと、直感的に零は思ったので進んでいく。


 鷺森露と若い女性は仏間へと案内された。若い女性が仏間を見渡していると、鷺森露が頷いて優しく声を掛けた。



「雫、無理しないようにな。俺はこの家の人たちと待ってるよ」


「わかっています、兄さん。私を信じて下さいね」


「わかってるよ」



 現代で会った時とは全く異なる優しさを見せられて零の心は驚きで満ちていた。そんな零の様子など見れるわけもない鷺森露は仏間から出ていった。その先で彼より少し幼く見える男子が廊下におり、鷺森露と目が合ったので互いに会釈をした。


 今のやり取りで零にわかったことは2つ。


 1つは、若い女性が祖母……霰の叔母である鷺森雫であるだろうということ。もう1つは、この残留思念がこの土地に刻まれた長い歴史から今回戦った老人の記憶が共鳴し合って出てきたものだということ。残留思念に対する感度に特化した零だからこそ感覚的にわかるが、この現象は恐らく老人が意図せず起こしたものだろう。


 いずれにせよ、これが老人と鷺森家を繋ぐ答えであることに変わりはない。零は仏間で雫の行動を見ているが、老人の若い頃と思しき男子は襖から覗くようにして雫を見ていた。


 雫が何処からともなく刀を発現させて抜刀した。その剣は《現》とは比べ物にならない程に刀身が透き通っており、殆ど透明に見えるほどに美しい。零が霊刀《夢切離》を見るのはこれが初めてのことだ。


 そんな感動も束の間。明らかにただならない禍々しい気配が仏間に充満する。こんな気配を感じたことのない零は恐怖を感じて不安になった。



(婆ちゃんの叔母はこんなのと戦うのか!? いや、流石に……)



 零が恐怖で怯える一方、鷺森雫は険しい表情をしているものの臆していない。透き通る刀を上段に構えて敵の出現を待つ。


 禍々しい気配が一箇所に集まって形を成す。それは零が見てきたものとは比べ物にならない程に異形であり、人の形に近い形をしているものの部位一つひとつが正しい数・場所に付いていない。邪な何かが無理矢理集合して形を成したのがそれの正体だ。



「成る程。これほどまでに嫉妬や憎悪を凝縮されているとは……」


『キ……サ……』



 言葉を話そうとしているが、最後まで出てこない。言葉にならない様々なトーンの声が発せられているだけだ。



「いざ、参ります!」



 雫は速攻で切り掛かった。今の零ではとても真似できないくらい速く、そして強くも滑らかな太刀筋だった。


 あっさり異形の肩から胴までを斬った。しかし、禍々しさが少しばかりマシになっただけで、勝負は終わらない。



『ス……ナ……!』



 異形の至る所から腕が出てきたかと思えば、それはそのまま雫に向かって伸びた。ちゃんとした皮膚の形と色をしていないそれが零には生理的に受け付けられず、いつのまにか吐き気を我慢するのでやっとになっていた。



「はっ! ふんっ! やっ!」



 怯むことなく雫は全てを素早く斬り落としていく。何の危うさを感じさせない圧倒的な強さに零は衝撃を受けていた。

読んで下さりありがとうございます。夏風陽向です。


今までずっと「この世ならざるもの」って書いてきましたが、何が感じていた違和感の正体がわかりました。本来なら「この世のものならざるもの」が正しいのだとわかりました。

とはいえ、修正するのも面倒臭いし大変。設定上、この世ならざるものは「個」ではなく1つひとつが「別の世」とさせていただくことにします。


話は変わりますが、モンハン買いました?

私は少しずつやっています。今回は騎士達がメインのところなので騎士好きな私からすれば、そりゃもうたまらないですわ!

今作は着せ替え装備があるからより楽しめますよね。ただ悩みなのは、出身が和なので和装にしようか、郷に従えで騎士風にするのか。現在は騎士風にしてます。楽しい!


それではまた次回。来週もよろしくお願いします!

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