ミートチョッパー
一面に広がる荒野、墜落した飛行機、ひび割れたアスファルト。
そんな道を、ただ歩き続けている。
「暑いな」
そう呟くのは、私という存在ただ1人、坂場ヒガナである。
水筒の水は底をつき、脱水症一歩手前まで来ていた。
「おっ?」
慌てて、双眼鏡を取り出し、前方でキラキラと光る物を見る。
「町だ、水あるかな?」
ヒガナは、靴底をすり減らしながら、町へ向かって歩き始めた。
ヒガナの所持するAA12ショットガンは、32連装ドラムマガジンを装着し、マウントレールを取り付け、米国製ホロサイトにフォアグリップ、マズルブレーキ等の、改造を施した物だ。
射程内にいれば、文字通り蜂の巣になるだろう。
そして、その射程内へわざわざ入ろうとする命知らず、またの名を愚か者が、ヒガナの背後へ迫っていた。
ヒガナは、かつて酒場として、賑わっていたであろう場所へ入る。
床は歩く度にギシギシと鳴り、酒瓶が転がっている。
壁の文字には、「人生最後の宴!」と書かれた文字を見付けた。
ヒガナの足元には、大量の骸骨が転がっており、この壁の文字の通り、人生最後の宴をやって死んだのだろう。
彼らの手元には、小瓶やグラス、ナイフに拳銃が握られた様は、紛うことなき集団自殺の現場だった。
「うぇ、行為の最中に死んだのか」
様々な死に際があったようで、抱き合いながら死んでいる骸を見付けた時は、複雑な気分になった。
「こうはなりたくないなぁ」
肝心の水を見付けることが出来ず、骨同士の交尾活動を見てしまったヒガナは、早々にこの場を立ち去ることにした。
軋む扉を開き、酒場から数歩出た所で立ち止まる。
「……出てきなよ!」
気付かれたと分かったならず者達は、一斉に姿を現す。
「女だ」
「武器をこっちに寄越せ、そしたら優しく突いてやるよ」
「興奮するねぇ!」
小汚い服に身を包んだならず者は、ヒガナを取り囲み、包囲された形になった。
しかし、ヒガナは恐れる素振りを見せなかった。
「私のあだ名を知ってるかい?」
「はぁ?お前なにいってんだ?」
すると、ヒガナの体が徐々に透明になってゆく。
「ミートチョッパーだよ」
次の瞬間、ならず者達の視界からヒガナが消えた。
「なあ!」
「どこだ何処に行きやがった!」
「まさか幽霊?」
「違うよ」
直後、顔面の皮膚が散弾によって剥がれる。
余談だが、人間は顔面を削られてても、意外と生き残れるらしい。
詳しくは顔面散弾で検索しよう!
「に゛ぎ゛ゃ゛あ゛ー!!!!!」
顔を抉られ、この世の終わりのような痛みがやってくる。
まぁ、終わってるんだけど
「この野郎!」
ならず者は、粗末な手製拳銃でヒガナを銃撃するが、ライフリングが無い銃の命中精度なんて期待してはいけない。
反撃にお見舞いされた散弾で、拳銃ごと指を粉々にされる。
「あぁ、クソォ!指が失くなっちまったじゃねぇか」
とどめの散弾が発射され、首に空気穴を無数に作り、絶命する。
ナイフを構え、馬鹿正直に突っ込んで来る真っ直ぐな少年も、足を撃ち、頭部へ一発。
瞬く間に3人がやられ、ならず者達は焦った。
「何なんだあの女!」
「うるせぇ!耳元で喚くな!」
大声で叫ぶならず者達のお陰で、大まかな位置を把握したヒガナは、青いテープが貼られたマガジンを取り出し、装填すると、壁ごとぶち抜いた。
「ボスが殺られた!」
「もう駄目だ!」
「おれもうね、逃げる!」
「ホログラムFCS起動、距離設定290」
ヒガナは、逃げ出すならず者の背中へ向けて、エアバースト弾を撃ち込む。
安定翼が展開した後、回転しながら目標へ飛翔し、一気に3人が吹き飛ぶ。
「ひゅーズタボロだ」
ヒガナを襲ったならず者集団は、文字通り挽き肉になった。
戦闘が終わり鼻歌交じりに、死体を物色していると、先程顔面を粉砕された男が、オットセイのように、這いつくばって逃げようとしていた。
足で蹴りつけて動きを止めると、男はヒガナに問い掛けてくる。
「なんデ、キエ…タ」
「ふーん、知りたい?それはこの光学迷彩のお陰だよ」
ヒガナは、腰に着けた装置を、目の潰れた瀕死の男へ見せびらかした。
「イスラエルって国が作ったらしいよ、科学技術って凄いよねぇ」
「こんな物造れる癖に、文明崩壊してやがるし……おっ?」
ヒガナは、男が懐に持っていた水筒を見付けた。
「一応毒物検査しておこうかな」
淡々と、生命を維持する為に、追い剥ぎする様子を見るに、この世界に染まってしまったようだ。
一通り漁った後、虫の息のならず者にとどめを、刺す。
近くに転がっていた石を、持つとおもいっきり、鼻目掛け叩きつける。
何度も、なんども、なんどでも、脳が飛び出すまで、叩きつける。
荒い呼吸と共に、心臓がバクバクと血液を体中に送り込む。
フラッシュバックする記憶、飛び散る肉片と悲鳴、全てが仕方なかったあの出来事。
「はぁぁこのぉ…何で」
視界が揺れて、世界が揺れ動く。
「しっかりしろ!」
呼吸を落ち着かせ、ベストに取り付けたショットシェルの数を数えて平常を保つ。
「よし……行こう」
気を建て直すと、目前に広がる砂漠を目にすると、再び歩き始める。
私は酒場ヒガナ、故郷を目指し進む者だ。