第六章 サヨナラは八月のララバイ - 5
絶対無敵を誇ったゆにばぁさりぃの秘密兵器『いけない魔香ちゃん』――遂に敗れる!?
誰にも悟られず、秘密裏に敢行されるはずの【儀式】が、イキナリの頓挫。
何だ?
何が遭った?
悪の秘密結社【アヌスミラビリス】に嗅ぎつけられたのか?
あるいは内通者に拠るリークか?
疑心が疑心を呼ぶ非常事態!
はてさて、真相は如何に?
場末のニッチ極まるキャバクラで、お忍び国会議員をゲット。
そのままウイドーメーカー号へと連れ込みに成功。
B子ちゃんお手製のVRゴーグルを装着させた上で、謎の希少キノコ「アタゴヒャクインダケ」を精製した粉を炊けば……
どんなに硬い意思を持った賢人でも、夢の世界。現実と妄想の垣根が消失するアッパーワールドへと放り込まれます。強制的に。
その上で私たち(ゆにばぁさりぃ)が寸劇を繰り広げれば、被験者には限りなく現実に近い「実体験」が刷り込まれます。
通常、戦隊の皆さんは二次被害を防ぐため、採石場や廃工場へ特撮ワープを強いられますが――我々ゆにばぁさりぃは楽チンぽん。ワンボックスカーの車内だけで完結できるのです。
人目につかない公園裏で、サクサクっと任務遂行してしまえるはずだったのに……
これまでも、上手く成し遂げてきたのに……
「カーット! カットよ桜里子B子! 作戦中止!!!!」
『洗脳寸劇』が強制ログアウトを強いられた!
――こんなの、初めてです!
「江戸の町奉行なら、もう少しのんびり屋さんだったかもしれないけど!」
VRMMOに於ける【実体側】の脆弱性! あの問題です!
ヴァーチャル世界では天下無双の俺TUEEEマンでも、現実の肉体を屠られたら終了です。
果物ナイフであって、肋骨と肋骨の間に突き立てられれば人生のゲームオーバー。
今、私たちは ―― その瀬戸際に立たされている ――
「出すぞな!」
洗脳寸劇用の赤穂浪士隊士服を着込んでだB子ちゃん、運転席へ戻ってアクセルベタ踏み!
ギャルルルルルル!
盛大なスキール音を上げながら、公園の茂みから急発進すれば、
「ひぃ!」
ウイドーメイカー号(私たち)目掛けて、白と黒のツートンカラーが、緊急のサイレンを鳴らしながら追ってきます!
【群れ】です!
国家権力という名の猛獣が、獲物の喉笛へ――群れ成して殺到してくる!
こんな! こんなヤバい光景見たことないです! 渡哲也の懐ドラぐらいでしか!
「あっ! アウディいぃぃ!」
追ってくるパトカー目掛けて、箱乗りで弓を射掛けようとする彼女を必死に止める!
そんなことしたら正当防衛の口実を与えちゃいますよ? 銃を撃ち返されても文句言えません!
大門団長のレミントンM31ほどじゃないにしても、当りどころが悪ければ死にますよ!
「はぁ、はぁ……」
獲物と見れば弓を射掛けてしまう無差別ハンター女子を車内へ引き込みホッと一安心……
「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」
――出来るわけもない!
増えてるじゃないですか! 交差点を曲がる度に! 追ってくるパトカーが!
「ヤバいヤバいヤバいヤバい!」
ここまで大事になっちゃったら……もはや無罪放免など絶対に望めません!
悠弐子さんの《 女子高生無罪論 》でも赦してもらえません!
「もう、終わりです……」
私たちのウキウキ女子高生ライフ、ジ・エンドです。
「捕まれば――――の話でしょ?」
「時間の問題です!」
日本の道はカーチェイス向きじゃないんです! アメ車が快適に走れる、ハイウェイじゃない!
悪足掻きしたところで、逃げ切れるとはとてもとても……
「桜里子! アウディ! ゆにばぁさりぃスーツに着替えて!」
今更スーツに着替えたところで警官相手には多勢に無勢、とても敵いませんよ?
「いいから早く」
何を考えてるんですか悠弐子さん……?
いくら窮地に強いあなただって、現代の女桂小五郎でも流石に今回ばかりは……
ギャギャギャギャギャギャギャギャ!
行く手にパトカーを視認したB子ちゃん、強引に細い横道へ突っ込む!
「ひゃあああああ!」
いくら広いハイエースでも、こんな状況下で着替えとか!
私とアウディ、もみくちゃになりながらも、何とかゆにばぁさりぃスーツを着込む。
「おっと!」
カーブの先が開けると、行く手にパトカーを盾にした即席バリケードが!
後ろを見れば追尾のパトカー、追突せんがばかりの勢いで私たちを追い立ててる!
(――――万事休す!)
前門の虎、後門の狼。川沿いの道には鉄筋のビルが林立して、逃亡ルートも皆無です!
「総員! 耐ショック姿勢!」
目を爛々と輝かせた悠弐子さん、宇宙船の艦長気分で指示する。
突っ込むんですか? バリケードへ突っ込むんですか?
「うひひひひひ!」
B子ちゃんはB子ちゃんで女狐オン・ザ・ラン!
アドレナリン出まくりでアクセルベタ踏みですけど!!!!
悠弐子さんがゆにばぁさりぃスーツ着用を命じたのは自爆特攻の衝撃を耐えるためですか?
でも、こんな薄いスーツで軽減できますか?
下手したら四人分の肉塊スムージーが出来かねない衝撃だと思うんですけど?
神様今すぐ、ここへ雷を落として戴けませんでしょうか?
落雷でタイムスリップしちゃったりしませんかね?
BTTFみたい何世紀分なんて高望みしませんから。
せめて三十分、三十分だけ時を巻き戻せれば、私が止めてみせますから。
踏み込んではいけない一線の前で、私がこの暴走美少女どもを止めてみせます!
どんなことをしてでも!
ぶん殴ってでも!
だから神様! ――――神様ヘルプ!
「大丈夫、桜里子」
「アウディ……」
破滅的な揺れの中で私をハグしながら、
「桜里子は優しいから大丈夫」
ああ、気休めでも有り難いよ。こんな修羅場でも慰めてくれるアウディが女神様よ。
「’’&&$$%の神様は、優しい女の子を不幸にしたりしない」
優しいだけでは生きていけないのが私たちの世界なのに。
今からでもアウディの神様へ改宗すれば助けてもらえますか?
信じる者しか救わないセコい神様じゃないといいな…………ひぃぃっ!
「いくぞぉぉぉぉぉ!」
ライブでも聞いたことがないほどの雄叫びを吠えつつ、B子ちゃんはハンドルを激しく切った!
ガコン! ガガガガガガガ!
車止めポールを薙ぎ倒し、川へ!
「B子ちゃん! 落ちる! 落ちちゃう!」
「落としてんのよ!」
ガガガガガガガガガ!
本来、車の走行など想定されてないコンクリートの法面を駆け下り!
「落ちるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」
バッシャーン!




