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第六章 サヨナラは八月のララバイ - 3

 (※ いけない魔香ちゃん空間 発動中 ※)


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 または、ブラック企業オーナーの奇妙な冒険。

 申し訳程度の覆面では素性もバレバレだ。

「お前、中途入社のウスノロ社員だろう!」

 捨て犬みたいに必死に尻尾を振ってたから拾ってやったのに!

「恩を仇で返すとは、無礼千万!」

 不満があるなら内々で済ませればいいものを!

「うぉっ!」

 手首に繋がれた紐を引っ張られ、無様にも転倒を喫してしまった!

「雇用契約ワイヤーは勝敗が決するまで外せんぞな」

 レフリーらしい金髪の女が一方的に告げてくる。

「俺は国会議員だぞ! こんなことしてタダで済むと…………ほげぇぇぇ!」

 蹴った! 蹴ったな名ばかり店長風情が!

「使い捨てされる者の恨み……思い知れ!」

 雇い主に向かってその口の利き方は! 飼い犬が主人に噛みつくなど、言語道だ……ほげぇぇ!

『かつてブラジルの奴隷たちは圧制者に対抗するためにカポエイラを生み出した』

 パヤンパヤンパヤヤーン パヤヤパヤヤパンパパーン!

『手を縛られてもなお尊厳を失わず。内に秘めたシンボルオブレジスタンス!』

 緑髪少女が刻むリズムに煽られ、聴衆は更なる過激を求める!

『武器を取れハポンの社畜たち! 搾取を打破せよ!』

 群集心理が「一線を越えろ」とマスクマンの背中を押し、決壊まで一刻の猶予もなし!

「怒ってるのか?」

 クールダウンさせねば!

 衝動の蛮行は割が合わない、と木っ端社員コイツを諭さねば!

「だが俺の話を聞いてくれ!」

 天下を獲った天才経営者(俺)のプレゼンなら、誰だって丸め込める!

「営利企業なんだ。営利企業では売上が全てだ! 民衆は企業に勤め、会社に奉仕することで人生を営んできた! 日本人は会社人間なんだよ! 俺は消費者が望む物を与え続け、それでトップに立った!」

 銀行も! 投資家も! 官公庁の役人もメディア関係者も俺の話術に掛かれば!

「俺は……あんたほど賢くはないが学ぶのは早い……」

 なのにコイツは! この唐変木は!

「客が望むものを与えればいいんだろう?」

 なぜ聞く耳を持たないのか?

「ヒィィィィィィ!」

 箍を失った狂犬は、顎も吹き飛べとばかりの鉄拳を俺に食らわせてきた。





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――Reprise.





「…………はっ!」

 なんだ? 今度は何だ?

 また暗闇か! また地下闘技場か?

 復讐の社員から滅多打ちされる晒し者ショウなど、ゴメンだぞ?

 ジャラ!

(そ――――そうだ紐!)

 手首の紐を解かないと逃げられない。

 ジャラジャラ!

「……紐じゃない?」

 俺の手首を縛りつけているのは――鎖?

 ゴツい鋼の輪環が手首を、いや手首だけではなく四肢全てを!

 壁に吊るされるようにして拘束されている!

「余計悪くなってるじゃないか! ――誰かいないのか?」

 大声で闇へ叫べば、

 ボワッ!

 俺の呼びかけに呼応するかのように、篝火が灯った。

「…………化け物!」

 すると闇に浮かび上がる豚鼻の獣人オーク

 緑の肌に盛り上がった筋肉。知性を剛力で捻じ伏せる異形の化け物が!

「くっ……殺せ!」

 こんな脳筋モンスターには説得ハッタリなど通用しない! なにせ知性がない!

 興味本位の蹂躙を受けるくらいなら死んだ方がマシだ!

「コロサナイ……コロサナイオマエ」

 などと呟きながらも、俺の首へ腕を伸ばしてくる怪物オーク

 丸太のような腕っぷしと、熊と見紛う爪。

 ああ無理、なんという絶望的な種族差!

「殺せ! 一思いに殺せ!」

 会話できる知性を所持するのかも怪しい怪物へ、自暴自棄の懇願を吐けば、

 ガチャル!

「……は?」

 見覚えのあるビジネスアイテムを首に下げられた。カードサイズの……身分証?

「ドレイノアカシダ」





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「はっ!」

 ……手が動く。

 拷問牢の壁に縛りつけられて身動き採れなかったはずが……今は四肢全てが解き放たれている。

 饐えたオーク砦から一転…………今度は白い。白いガスに視界を塗り潰されて。

「なんだ、今度は……ヒィッ!」

 踏み出した一歩が、生理的な拒絶を生む!

 グニュル! と滑る足。

 何か有機的な塊を踏んづけてしまった時の、嫌な感覚――例えば、死んだ猫とか。

「…………」

 徐々にガスが流れて、足元が詳らかになっていくと、

「ひぃ!」

 猫でも熊でも猪でも牛でもない! 浮かび上がってきたのは――――霊長類のフォルム!

 人じゃないか!

 いや人じゃない!

 ホンの少し前まで【人であったもの】だ!

 健常な者ならば踏みつけられれば何らかの反応が返るのに。たとえ就寝中であっても。

 だが【ソレ】は一切反応せず。

 未だ凝固しない血液が《 死にたて 》の鮮度をアピールする!

 しかも、しかもだ!

 そんな屍が一体や二体の騒ぎじゃない。数えるのも嫌になるほど、見渡す限り。

 ああ戦場だ、紛うことなき地獄の最前線だ!

「こんなところに居られるか!」

 こんな死が有り触れた場所に留まってたら狂ってしまう! 死神に精神こころを蝕まれる!

「――――諸君、我々は!」

 霞む視界の先に「彼」は居た。

 何重にも取り巻いた群衆の中央で、朗々と声を張り上げて。

「誰しも奴隷にはなりたくないが、私は奴隷の所有者にもなりたくはないのだ」

 立派な髭を蓄えた「彼」は凄惨な戦に疲れ果てた、人の嘆きを詠っているかの様で。

「これこそ民主主義のエッセンスであり、これに反する思想は全て、民主主義とは異なる何か、なのである」





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「…………はっ!」

 なんだ?

 戦場の演説者は?

 地下闘技場のインディアン・ロープ・デスマッチはどうなった?

 囚われのオーク砦で繋がされた「首輪」は?

「……!」

 首元を確かめても家畜の証など掛かっていなかった。

「俺もヤキが回ったもんだ……」

 あの程度の酒量で、立て続けに悪夢を見るほど酩酊してしまうとは……

 若い頃なら徹夜の接待でも問題なかったのに。

「SPがホテルまで運んでくれたのか?」

 秘書にも告げずに飲みに出たのに……腐っても国会議員の身辺警護か。

「にしても、純和風旅館とは……」

 藺草の香り漂う空間に、凝った刺繍の掛け布団。かなり凝った和風趣味じゃないか?

「灯りのスイッチはどこにある?」

 枕元を探っても、見当たらない。

「……寒っ!」

 布団を剥がせば冷気が肌を刺してくる。

「エアコンは?」

 宿泊客の快適性よりも和風趣味を優先とか、やりすぎだろう、この宿は!

「本格派も過ぎたれば迷惑……ヘーックシ!」

(凍える!)

 灯もエアコンのスイッチも見当たらない客室など、どうかしてる!

 居ても立ってもいられずフロントへ怒鳴り込もうとしたら、

「…………は?」


 障子戸を開けると――――庭に人が突っ伏していた。

※ 今回の元ネタはランニングマンです。何処かは探してみてね。

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