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第四章 どくのぬまにはまってしまった! - (Church Of) The Poison Mind. - 1

「彩波悠弐子が敵となって、日本へ逆上陸してきた!!!!」


……は、桜里子とB子による壮大な勘違いでした、が先章までのお話。

仕方がないっちゃ仕方がないんですけど、日頃の行いを鑑みれば、さもありなん、って感じですかね?


というワケで無事凱旋を果たしたお騒がせ女子高生さん、ここで一旦、小休止……とならないのが、ゆにばぁさりぃの面々でして。


そりゃ「万事解決!」と収められない“アレ”が残ってますよね?


 戒厳令の霞城市内を疾走る、黒塗りのハイエース(ウイドーメイカー号)!

 城下町特有の狭い裏路地を駆け回り、ようやく部室(安全地帯)へと帰り着きました。


 で悠弐子さん、開口一番。

「生きてたー?」

 そ れ は こ っ ち の 台 詞 で す !

「どこ、ほっつき歩いてたんですか!」

 一度も連絡を寄越さず梨の礫、女子高生風来坊に問い質したいのは山田の方です!

「喋る馬のいる世界」

「は?」

 何ほざいてるの、この子(悠弐子さん)?

 帰国が遅れたのは異世界に転生してたせい、とでも言いたいんですか?

 私たちの常識世界には、喋る馬なんて存在しません。ええ、一頭たりとも!

 がぶり。

 人は馬とのコミュニケーションに『言語』を介したりしない。

 音は『合図』であり反射なのです。合図とスキンシップで意思を伝え合うんです。

 はむはむ。

 そうですそんな感じです。悪戯好きの馬ならば、そんな感じで甘噛みしてきますよ、厩務員を。

 でもそこは人の急所(頸動脈)、馬に噛まれたら昇天しかねません。

「恋しかった」

「は?」

 ――油断した。

 人は暴力を用いずとも、人を昇天させられる。

 言語という武器はチャームで人を腑抜けにできるのです。

 中でも悠弐子さんは特別な人。

 類まれなる美貌と蠱惑的な声で人心を惑わすナチュラルボーンアジテーターです。

 無防備少女じゃいられない。

 悠弐子さんの魔力を帯びた言葉に取り込まれてしまうから。

「夢に見たよ」

 なんて囁かれたら――――腰砕けです。

 顎を掴んで引き寄せながら呟かれでもしたら、お手上げです。

「は? は? ……は?」

 恋人同士ならキスを我慢できない距離で、蠢く悠弐子さんの唇。

 美少女の真髄が妖しく私を誘う。

 そうなのですよ。

 巷の女子高生が大きなマスクで口元を隠す――あれは「余計な干渉はノーセンキュー」と遮断を訴えるツールではないんですよ。

 人の顔を上半分と下半分に分けるとして、美的な差異が大きいのは――――実は、下です。

 上半分は加工補正しやすいんです。メイクで誤魔化しやすい。髪型を工夫したり、目の周りを飾り立てたりして。

 反面、下は難しい。顎のラインと唇は、修正困難な部位なのです。

 だからマスクでマスクすることで弱点を隠し果せる。マスクされた部位を観察者の脳内補正で補ってもらうズルい(しかし極めて有効な)手なのです。

(だけど!)

 悠弐子さんには必要がない。そんな《御簾効果》を期待する小道具は。

 私の唇がパタン! と金型プレスされた量産加工品だとしたら、悠弐子さんの唇は職人が丹念に仕上げた一品物、コスト度外視の入魂作です。

 薄い上唇が品性を表し、肉感的な下唇が生命力を迸らす――美少女リップ。

「桜里子……」

「は、はい?」

「恋しかったぁぁぁ!」

 ぐりぐりぐりぐりぐりぐりぐり!

「ゆゆゆ、悠弐子さん!?!?!?!?」

 不意打ちで! 私の首元に! 顔を擦りつけてくる!?!?

「はぁぁぁぁぁぁぁ―……………………堪能……」

 やがて顔を上げた悠弐子さん、頬を紅潮させながら呟くのです。

「ちょ! 悠弐子さん? 悠弐子さん????」

 水面へ顔を出した水棲哺乳類みたいに、すぐさま再び、私の胸へ顔を埋めようとしてるし!

 ダメですダメですそんなこと!


 ……と、嫌よ嫌よも好きのうち的に帯を解かれる芸者みたいなユルユルの拒絶をしていたら、

「お醤油の匂い……」

 お大尽さん、とんでもないことを囁いた。

「は?」

「やっぱり日本は良いわ。醤油の匂いで満ちている! 何処もかしこも、桜里子もB子も! これが日本よお豆の国よ!」

「私そんな醤油くさいですか?」

 慌てて自分の匂いを嗅いでみても……全然分かりませんけど?

「知らない匂いがついてるぞな、確かに」

 無造作に悠弐子さんの髪束を掴んだB子ちゃん、くんくん嗅いでみて感想を一言。

「……草と獣の匂い?」

「草と獣? じゃ悠弐子さん、セレンゲティとかパンタナール辺りに宅配されてたんですか?」

「いやヨーロッパ」

「なら簡単に日本大使館へ辿り着けますよね?」

 草(未開のジャングル)や獣と無為な格闘しなくたって。

「旅のついでに外人の種でも授かろうとイエローキャブしてたに違いないぞな!」

 図星だろ? と自称少年警察官っぽく両手で悠弐子さんを指すB子ちゃん。

「種……むしろ授かる側じゃなくて授ける側だったんだけどね……」

 分かりません。言ってる意味が分かりません。いつも以上に悠弐子さんが分かりません。

 女の子なのに種を授ける側って…………どゆこと?

「ゆにばぁさりぃ的に見聞を深める旅だったのよ」

 また何か妙な知的関心を刺激されるイシューが転がってたんでしょうか?

 ほんと、悠弐子さんの好奇心アンテナ、どっちを向いているのか測り難いです。

「もちろん日本だよ」

「へ?」

「大好きな仲間が泣いている気がしたから……万障お繰り合わせの上、帰ってきたのよ!」

 ぎゅー。

 小憎らしい笑顔を見てるだけで泣けてきそうで……悠弐子さんの胸に顔を埋めた。

 ばーかばーか悠弐子さんのばーか!

 私たちがどんなに心配してたと思ってるんですか!

 何の連絡も寄越さないまま「見聞を広める旅」とか脳天気に!

「ふぇぇぇぇ……」

 鼻と頬にブラの跡が付くほどギュウギュウに抱きしめて、台無しなくらい制服を濡らしてやる。

 涙と鼻水でグズグズの刑です!

「良かった……」

 無事に帰ってきて、本当に良かった。

 妙な洗脳とか施されることなく帰国しただけで万々歳です。ゆにばぁさりぃ大勝利です。

「ただいま桜里子」

 ――おかえりなさい。

 この歓喜よ慶びよ。今なら書けるかもしれない、私なりの『悦びの歌』が!


「&’’%%$())…………」


 そんな祝賀ムードに冷や水をブッ掛ける――――異質の不協和音。

「目を覚ましたみたいですね……」

 緑のテロリストちゃん。

 鈍く光る鏃を私に向けてきたアーチャー・スナイパー。今思い出しても心臓が止まりそう。

 山田、居酒屋の串焼きにされる寸前でした、山田桜里子焼きとして炭へ焚べられる寸前でした。

 その彼女が呻きながら身を起こす。贅理部室に備え付けられたファンシー牢の中で。

「ところで何者こいつ?」

「中東の過激派に洗脳されちゃった悠弐子さん率いる、日本侵略部隊の兵士……」

 かと思ったんですが違うっぽいですね。

 彼女の出現と悠弐子さんの帰国が重なったのは、偶然で無関係。

「話せば長くなっちゃいますが、悠弐子さんの帰国する直前、とある事件が発生しまして……」


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