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第三章 天使のいない十二月 - 6

 ええと?

 何の話だったっけ、ゆにばぁさりぃって?

 日本を蝕む少子化問題を克服するために立ち上がった少女たちの話だったよね?


 ところがところが、今や二対一に分かれて互いに潰し合う関係に?

 やっぱりスリーピースバンドは上手くいかないもんですか?

 何らかのイザコザで解散しちゃう運命にあるんですか?

 アンラッキーナンバーですか?


 果たして桜里子、悠弐子、B子の三人、どうなってしまうのか?

 人の消えた霞城市中心部で、銃声と少女の悲鳴が交錯しちゃうの? どうなの????

 ビルの林立する商業地区へ踏み込めば、身を隠す場所には困らない。

「……!」

「……!」

 互いの位置を確認しながらハンドサインで進んでいく私とB子ちゃん。

 目標は繁華街。爆発騒ぎのあった辺りに目星をつけて、前進する。

 鵜の目鷹の目の警官や報道の空撮にも悟られぬよう、隠れながら慎重に索敵をこなしていく。

(悠弐子さん……)

 私たちの女子高生生活はまだ半ばですよ?

 人生のグローリーデイズをかなぐり捨てるとか、勿体ないにも程がある!

(もっと自分を大切にしましょう!)

 ありふれた日常の輝き。それは一旦失くしたら取り返しのつかない、貴重なものです!

 あなたはそれをぞんざいに扱い過ぎなんです!

 刹那的じゃなければ女の子じゃない――――にしたって、あなたは度が過ぎる!

「先に探し当てないと……必ず」

 無人の裏通りを一歩一歩、逸る心を抑えつけつつ進む。

『現場の庄司さん? 事件に何か進展はありましたか?』

 路地裏でワンセグを確認してみる。

『現場は静かですね。武装した犯人が相手ですから、警察も慎重に出方を伺っているようです』

『不審者が所持するのは銃ですか? あるいは爆発物のようなもの?』

『それがですね、目撃者の証言によると、看板や車に矢が刺さっていたらしいんです』

「矢?」

 確かに弓は最も簡単に作れる遠距離武器ですが。

 破壊工作を目的とするならば火炎瓶の方が手軽じゃないですか?

 というか火属性の悠弐子さんの得意技は、ファイアーブレスですよね?

 可燃油とディスポーザブルライターを駆使したライブパフォーマンス用の。

(なんだろう、この違和感……)

 どこかシックリこない。

(もしかして何か根本的な部分でボタンを掛け違えてない? 私たち?)

 悠弐子さんはアンチロマンティック・ラブイデオロギーのイデオロギストですが――――反面、筋金入りのリアリストでもある。

 非戦闘員扱いの漕手を射殺した源義経並に手段を選ばない――こと戦場に於いては。

 そんな人(悠弐子さん)が弓?

 遮蔽物の多い市街戦なら弓よりナイフを使ったアサシンアタックの方が確実じゃないですか?

 洗脳が効きすぎて知性まで劣ってしまったんですか? そんなことあり得るんですか?

 分からない。

 いや、私には分からなくてもB子ちゃんなら分かりますかね?

「……B子ちゃん? あれ?」

 大通りを挟んで向こう側の路地に潜んでいたはずのB子ちゃんの姿がない!

 ワンセグを確認してる間にロストしちゃった!

「マズいマズい超マズーーーい!」

 お互いを見失ったらツーマンセルの利点なんて風前の灯! 各個撃破の思うツボ!

「――どこですかB子ちゃん! B子ちゃん?」

 近くで警官がテロリストを捜索しているかもしれない、そんな懸念すら忘れて叫んだ。

 心細さで泣きそうになりながら叫んだ。

 一人は嫌だ、孤独は嫌だ、誰にも縋れない私は死を待つだけの雛。

 この不安から解き放ってくれるなら、何だって受け入れる。何でもするから。

 ああこれが毒か?

 孤独という名の猛毒か?

 寄る辺なき孤独の不安がこれほどまでに精神こころを蝕むなんて!

 誰か!

 誰か私を、この即効性の毒から解放して!

 誰でもいいか……


 ガッツーーーーーーーン!


「ほげぇ!」

 居ても立っても居られず盲滅法、路地裏を徘徊してたら、

「あいたぁ……」

 食パンクラッシュしちゃった。

 曲がり角で、出会い頭に額と額をごっつんこ。

 危うく互いの魂が入れ替わりかねないほどの衝突をやらかしてしまった。

「すいません不注意で…………ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」

 戦場の真ん中とは思えない、ボケた謝罪しかけた私へと、

「!!!!」

 腰が抜けるほど野蛮な【 武器 】が――ロックオンしていた。

「!!!!」

 それは光る鏃の先。

 先端恐怖症ならば即座に卒倒してしまいかねない、鋭利な尖り具合の。

 その矢を装填した弓は既に限界までしなり、弾性のエネルギーを貯めている。

 ホンの僅かでも、弦を引く指から力を抜いてしまえば――


 ―――――――――――― グ サ リ !


 矢が私の眉間に突き立つ!

 ジーザスクライスト!

 こりゃダメだ、こんなの無理無理無理のカタツムリ。

 索敵の視認性を優先してゆにばぁさりぃヘルメットは脱いできた。それが裏目に出た。

 戦場で兜を脱ぐなんて、自殺行為に等しい。何が遭ってもやっちゃいけないイロハのイ。

 分かっているつもりなのに分かってなかったのは、私が戦士「ではない」証拠だ。

 戦隊員ソルジャーを自称しても、平和ボケした日本人の性根が露出する。

 だけど、今更悔いても遅い。

『戦場では僅かな油断が死を招くよ!』

 悠弐子さんなら私に助言してくれたに違いない。舐めきった私へ、滾々と。

 なのにあなたは、肝心な時にいないんですよ!

 一番いて欲しい時にいやしない!

 馬鹿馬鹿! 悠弐子さんのバーカバーカ!


 ギリギリギリギリ…………


 心臓を締め上げる弦の音。確実に目前の獲物を殺す! とでも言わんばかりの。

 そんな殺る気満々の射手を睨み返すこともできず、私は蹲る。

 せめて頭は、と手で庇っても、ほぼゼロ距離の弓には無駄でしかない。人体の急所、どこでも狙い放題。逃げる子兎を仕留めるより容易い狩だ。

 いや、もっと底意地の悪い野蛮人なら、わざと急所を外して獲物がのたうち苦しむ姿を「鑑賞」するだろう。嗜虐のエンターテイメントに効率的な死は似合わない。

「ああああああ……ああ……ああ……」

 何故あんなところで運を使っちゃったんだろう? 山田わたしは?

 豪華客船ギャンブルシップからの脱出クジで中途半端な当りを引くくらいなら、こういう絶体絶命のところに残しておけば良かった!

 エリクサーは使わないのが正解なんです! 「まさか!」のために残しておいてこその保険の意味があるのに!

 神様ヘルプ! 一度だけ、一度だけでいいんで戻して頂けませんか?

 バッドエンドを覆せる、セーブポイントまで。

 一生のお願い! 一生のお願いですよぉぉぉぉぉ! Save Me!!!!

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