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第三章 天使のいない十二月 - 5

 大海の豪華客船、着の身着のままゆにばぁさりぃスーツのまま、人間宅配便として生き別れになってから、はや一週間――歩くトラブルメーカーこと綾波悠弐子さんは、どうしたんでしょうね?


 などと悠長に構えていた桜里子とB子だったが、

 ふとした“気づき”から、悪い予感に囚われてしまう。

 もしもインターハイに女子高生サバイバルレースなる競技があったら、優勝候補最右翼の彩波悠弐子なのに――いくらなんでも音信不通が長すぎないか?

 彼女の身に【よろしくない何か】が降り掛かっているのではないか?


 そこで桜里子とB子が考えた、【最も最悪の想定】とは?

 そして、その悪夢が不意に、現実として訪れてしまったのなら……


 どうする女子高生? どうするゆにばぁさりぃ?

 正義の執行者は何をすべきか?

『こちらは霞城市の中心街ですが……この規制線の先で武器を持った何者かが暴れ回っ……』

 ドシャァァァァァァーン!

 派手な爆発音で、思わず蹲る取材クルー。中継カメラの画角も乱れに乱れ。

『下がって! 危ないから下がって!』

 規制線の向こうから、警官が血相を変えて叫び寄ってくる。

 ボシャァァァーン!

 間を置いてカメラが報道の本分を取り戻すと、黒煙が、駅の方角から濛々と立ち上がってる。

 まさかこんな身近な場所が破壊工作の的になってしまうなんて……考えたこともなかった。

『犯人は女性、との情報もありますが、詳しいことは分かっておりません!』

 女!

 女性でありながら平然と破壊工作をやってのける、スキルと豪胆さを兼ね備えた人!

 ズズ~ン……

 電信柱でも倒れたような、重量物が自壊した地響き。

 ヤバい。これは相当にヤバい人が何らかのヤバい武器で暴れてる?

『犯人は一人ですか? 複数犯ではないんですか?』

『分かりません!』

 這々の体で安全地帯へと逃げ果せた現場レポーターが応える。

 ズドォーン!

『犯人の目的は何ですか? 何を狙って?』

『不明です! そもそも霞城市にはテロの標的となるような重要施設は存在しないんですが!』

 何の変哲もない、一地方都市である霞城市を選んで破壊工作を行う意義……

(考えられるとしたら……土地勘のある場所でのデモンストレーション?)

 勝手知ったる霞城市で傍迷惑な腕試しをやってるとか?

「びびびびびびびB子ちゃん!」

 状況証拠のパズルが彼女の肖像を組み立てる。私が知っている――あの子を。

「こここここれって! これって!」

 まさかあの無軌道女子高生が危険思想あくまのちから身につけて日本へ逆上陸した?

 美貌と身体能力と悪知恵を誰よりも兼ね備えた同級生(あの子)が!

 極悪テロリストの尖兵として私たちの前へ現れたんですか?

「…………」

 否定して下さいよB子ちゃん!

 もしあなたに頷かれたら、本当にどうしたらいいのか分からなくなる!

「……B子ちゃん!」

 だけどB子ちゃんはイエスともノーとも応えずに、

「…………」

 迫る危険に身を強張らせた獣の目で、モニタに睨み続けてた。

(神様の意地悪!)

 最悪の人に最悪のクジを当てちゃうなんて!

 悠弐子さんが無事日本帰還(当たりクジ)だったのならこんなことには!

 やっぱり神様はいない。私たちをお救い下さる、神などいない!

 全員が悪趣味のピーピングトムばっかり!

「こうなったら!」

 刺し違えるしかない。

 神々の悪戯を止めるには、私たちが私たちの手で終止符を!


 キキキキキーッ!

 地元民しか知らない裏道から規制線を突破し、公園裏にウィドーメーカー号を駐める。

 木陰へ車を隠せば、報道の空撮からも分かるまい。

「行きます!」

 普段なら悠弐子さんの採る先陣を、私が採る。

 ゆにばぁさりぃスーツに着替えて車(ウイドーメーカー号)から飛び出す私とB子ちゃん。公園の茂みを縫って市街へ紛れ込む。警官にも報道陣にも見つからないように、身を屈めて繁華街へ。

(――――私にできるだろうか?)

 危険思想の虜となり、テロリズムを聖戦と信じ込んだ悠弐子さんを無力化することなど?

 普通に考えたら無理です。

 悠弐子さんの身体能力は同じ体格の男子にも勝る。贅理部なる半帰宅部で腐らせとくのはスポーツ界の損失と言ってもいい。エントリーの少ない競技なら、必要最低限の修養でトップへ君臨できるくらいのポテンシャルがあるんです彼女には。

 そしてその身体能力をサポートする科学の皮膜、ゆにばぁさりぃスーツ。このスーツの闘い方・扱い方ですら悠弐子さんに分がある。

 始めから目に見えてる。こんなん不利もいいところ、百回やっても百回負ける勝負ですよ。

「桜里子」

 気が逸って仕方のない私にB子ちゃん、

「戦場の突出は死を招くぞな」

 本当なら私が諌め役にならなくちゃいけないところを……自分を見失っていた。

 こんなんじゃ小数点以下の勝機すらドブに捨てるのと同じじゃないですか。

「……そうでした……」

 B子ちゃん、反省した私の頭を撫でてくれる。

 同級生に子供扱いされるのは、なんとも妙な感じだけど……仕方ない。小さな子供みたい、周囲が見えなくなってたのは私なのだから。

「いい子いい子、桜里子は、やれば出来る子」

 とはいえ同じ身長の私とB子ちゃん、頭を撫でようとすると必然的に目と目が通じ合う。

 仲良しを越えた愛玩の体勢っぽくなるのはよくない!

 頬と頬、唇と唇の距離が縮まっていくのはよろしくなーい!

「ゆ、悠弐子さんも言ってましたよね!」

 気恥ずかしい空気を無理矢理引き裂きに掛かる。話下手の思春期男子みたいに。

『どんなに剣豪の誉れ高い武芸者であっても、多勢に無勢は鉄壁の普遍則』!」

 確かに言ってた。あのギャンブルシップの船底で。宮本武蔵級のレジェンドでも、小次郎の弟子からの集団襲撃を恐れたと。

「――その通りぞな、桜里子」

 深い碧のブルーアイズが私に勇気を与えてくれる。

(そうだ)

 私たちに分があるとしたら「数的優位」。

 山田わたしは孤独なんかじゃない――B子ちゃんがいる。

「ツーマンセルの強み、最大限に活かすぞな」

 互いを視認できる位置で索敵を行い、索敵範囲は倍に、目標発見後は即座に数的有利の局所戦へ移行して、挟撃で対象を無力化する。基本中の基本です。

「最後は……こいつでゆに公を眠らせてやんよ」

 レトロフューチャーな銃を携えるB子ちゃん。弾頭には怪しげに波打つ紫色のアンプル。

 それはゆにばぁさりぃひみつ道具の中でも最も凶悪な『いけない魔香ちゃん』――簡単に言うと幻覚キノコの精製粉――その水溶液を麻酔銃代わりに使おうという算段です。

 さすがの悠弐子さんも、こんな代物を撃たれたら昏倒間違いなし。

 どんだけ効いてしまうんだ? と使う側が心配になるほどのヤバい奴です。

「でも、やるしかない!」

 超危険人物として日本全国へ顔バレする前に私らが確保しなくては!

 リベンジポルノや炎上武勇伝なんて比べ物にならないほど社会的に抹殺されてしまいますから!

 どんなことしても私らが、警察より先に仕留める!

 霞城市市街地ホームタウンハンティングの開始です!

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