表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/34

6日目・7日目

 次の日、昼前に起きた叶湖が黒依の様子を伺うと、涙の痕を頬に残した黒依がぼぅ、と叶湖を見返した。

「おはようございます。今日は、寝返りうちましょうか。さすがに、床擦れが酷くなりそうなので。試しに、意識は落とさないであげますので、抵抗せずにいてください。大人しくできなかったら……分かりますよね?」

 叶湖はそれだけ言うと、まず、黒依を拘束している足かせを外した。ついでに、湯で濡らしてきたタオルで、下半身を拭き、衣類を新しいものに変えると、先ほどのものより長い足かせで拘束しなおした。

 次いで、手錠の方は、長いものに付け替えてから、短い方を外す。

 その際、足も、手も、ついでに首も、血がにじんだ擦過傷に軟膏を塗り、ガーゼをあててから嵌めなおす。




 足と腕をそれぞれ繋ぐ鎖に余裕が出来たことで、黒依の身体が横を向けるようになった。黒依を横に向け、真っ赤になっている背面をタオルで拭いていく。

 それが終わると、黒依の背中が当たる部分に柔らかな毛布を敷き、それが下になるように、再び黒依を仰向けにした。

「よくできました。……横を向きたくなったら自分で向いてくださいね」

 叶湖がそう言いながら、くしゃり、と髪をなでると、それを皮切りにしたように、黒依が再び涙を流し始めた。




「……また泣くんですか」

「こんなに手をかけてまで、僕を服従させたいんですか」

「えぇ、そのとおり」

「どうして……僕は、何もできない、ただのヒトゴロシなのに……」

「アナタが何もできないかどうかは、私が決めます。と、いうか、私がアナタをいじめるのに、アナタに何ができるか、は関係ありません。別に曲芸を見たいわけじゃありませんから」

 ニッコリと笑み返す叶湖に、黒依は顔を歪ませて泣き続ける。が、本人は無意識なのだろう、黒依の頭に乗せたままの叶湖の手に、僅かに彼が擦り寄るのを感じた。

 叶湖は口の端だけで笑うと、満足げに黒依の頭をなで続ける。




「ひとつ……教えて、ください」

「はい、機嫌がいいので、いいですよ。答えられるものに限りますけど」

 黒依の頭から離れた手が、優しくその涙を拭う。

 黒依の身体をとことんまで拘束し、毒薬でもって苦しめる手腕は凶悪そのものであるが、身体を拭き、頭を撫で、その涙を拭う叶湖の手つきはどれも優しい。そのギャップに黒依は理解が及ばずに思考の渦へと飲みこまれる。

「名前……」

「名前?」

 黒依の言葉に叶湖がこてん、と首をかしげた。




「アナタの、名前を……」

 そう、口にした黒依の言葉に、叶湖は笑みをこれまで以上に深く、深くしていった。

「ふふっ。これだから、人相手は楽しいんですよねぇ。……いいですよ。教えてあげます。私は叶湖。よろしくお願いしますね、黒依」

「叶湖、さん……」

 呟いた黒依は、疲れが出たように目を蕩けさせ、間もなく意識が落ちて行った。







 また、次の日。

 その日は朝早くから黒依が毒薬に呻いていたので、起き出した叶湖はまず、2本の注射の措置を行う。

「叶湖さん……」

「はい?」

「叶湖さ、……」

 叶湖の名前をうわ言のように呟きながら、また涙を流している黒依に叶湖はふふっ、と笑ってその髪をなでる。その手に擦り寄って、安心したように泣きやむ黒依に、叶湖は面白そうに、その様子を見下ろしていた。


キリが悪いので短めの話がしばらく続きます。

このお話から、1日1話更新にします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ