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8日目・9日目

 また、次の日。叶湖は朝早くから、アカズノ間へ出かけていた。

 ミリと約束した日であり、ミリが職場からちょろまかしてきた医療器具を受け取る。

 どこまで管理しているかは分からないが、あれもこれも、と無くなれば、誰か気付きそうなものであるが、それはミリが働く病棟が、特殊なのもあって、誰も見咎めはしないのだろう。

 叶湖の手から、陽のひと月分のスケジュールを受け取って、ほくほくと喜びながら、束の間のティータイムを過ごしたミリは、仕事だからと去って行った。




 そうして、叶湖がペットを飼いだした噂を聞きつけた客がやってきて、噂どおりの事実があることに驚いていったり、ある程度の話を聞いていた客が、ペットのその後の様子を聞いてきたり。そんな客らの相手を適当にしながら、昼過ぎには店を閉めて、叶湖はマンションへと帰宅する。




 そろそろか、と思っていた予想は外れなかったようで、黒依は再び苦痛に呻いていた。

 2本の注射を終えた叶湖を、黒依が見上げる。

「叶湖さん……」

 哀願の色が強くなった瞳に、叶湖は喉をならしながら、いつもどおりその身体を清めていく。

 それが終わり、では、と立ち上がった叶湖を見上げる黒依の瞳に闇色が映ったのを見て、叶湖はくすくすと笑うと、バケツと濡れタオルを片付け、手を洗って戻ってくる。

 その手には何かの袋が握られていた。

「黒依、口を開けて舌を出してください」

「……」

 もはや、抵抗も文句もなく、黒依が言われたとおりにする。




 その口内に指を二本差し入れて、叶湖はその口腔を指で撫でた。

「舐めて」

「ふっ……んっ、んぅ……」

 苦しいのか、気持ちいいのか、黒依が叶湖の指先に舌を絡ませながら、瞳を潤ませる。

「……私が憎いなら、噛んでもいいんですよ?」

 叶湖が挑戦的な目でそんな黒依を見下ろす。

「はっ、んっ……」

 だが、黒依は叶湖の言葉を聞かなかったように、叶湖の指へ歯を立てることはなかった。

 飲みきれなかった唾液が、つっ、と頬を伝う。




「……いい子です」

 叶湖はそう言うと、黒依の口内から指を抜き取り、布巾で拭うと、黒依の頬も同じように拭いてやる。

「黒依、横を向いてください。口は、開けてて」

 叶湖はそれだけ言うと、黒依が言われたことをする間に、持ってきていた袋をがさがさと漁り、何かを取り出した。




「ご褒美をあげます」

 指で摘まんだそれを、黒依の口内へ落とす。

「ん、?」

 黒依がそれに驚いたように口を閉じると、じわりとその中に甘みが広がった。

「氷砂糖です。ちょっとずつ、経口摂取になれないといけませんから」

 叶湖はそれだけ言うと、黒依の頭をくしゃりと撫でて、その場を離れる。

 そんな叶湖を見送った黒依は、再び涙を流し始めた。







 また、次の日。

 起き出した叶湖が、黒依の様子を見るためにその側へしゃがむと、黒依が目を見開いてその首元を見つめた。

「っ、叶湖さん……」

「ん? あぁ」

 叶湖は黒依の視線を目で追って、それが、僅かに残った、首を絞められた痕に向いているのに気付く。


 黒依に締められてから、腕と首にしっかりと痕が出てしまったので、しばらくはハイネックかつ、長袖の服でしのいでいたのだが、もう大丈夫かと思った矢先、黒依に見つけられてしまったらしい。

「すみませっ……ごめんなさいっ……」

 それに、喘ぐように泣きだす黒依に、叶湖はくすくすと笑う。

「なんで泣くんです? 私のこと、嫌いじゃないんですか?」

「嫌い……? 僕が、叶湖さんを……」

「だってそうでしょう? 攫ってきて、死ぬのを邪魔して、こうやって閉じ込めて、ドロドロに壊そうとしてるんですよ? ……それとも、アナタは、そんな私を気遣えるほど、現状がお気に召しているとでも?」

 ゆっくりと、言い聞かせるように叶湖が黒依へと囁く。




「僕は……っ、叶湖さんのことが……? 嫌いで、憎くて……。それが、普通なのに……。この現状が、好き? そんなっ……分からない……っ」

「ふふっ。まぁ、そんなところでしょうね。現状で好きだと言われてもびっくりです」

 叶湖はそれだけ言うと、黒依の髪をくしゃりと撫でて立ち上がった。

「忘れてもらっていいですよ」



本当にこの期間で、この扱いで人が狂うのか、作者は当然分かりませんが、そこは叶湖さんの魅力と黒依の孤独が合わさった結果ということで。

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