Sadism
「ルイちゃん・・・大丈夫?」
闇を割いて、この空箱みたいな部屋の戸を開けるのはいつも亮介だ。
こいつはただのバイトで、それ以上でもそれ以下でもなくただのバイト。
ただのヒト。
ああ、今、きっとこの赤いランプの光もこの部屋から漏れて、向こう側から見えるんだろうな。
白い蛍光灯の逆光で亮介の顔は見えないし、昔修学旅行で行った広島の原爆資料館で見た、丸こげの被爆者のようだ。
「・・・なにが?」
私は何も無かったようにベッドから起き上がって、相川の脱がせた使い回しの制服を着直す。
「いや、相川さん・・・だったから・・・」
あぁ、この部屋は虚空だ。
シャワーを浴びているときに思うことは、いつも同じこと。
私、どうになりたいんだろう。
何でこんなことしてるんだっけかな。
あれ、今私、何してるのかな。
この3つ。
この仕事をしている理由は、正直金に困っているからとか、寂しいとか、SEXが好きだからとか、ホストにハマっているとか、そういうことじゃない。
前にも何度か、客は相川じゃなかったけれど、行為の後にベッドから起き上がることができず、そのまま涙がどうしても止まらなかったことがあった。
それには周期がって、大体2、3ヶ月に一度やってくる。
物事には必ず理由があるって言うけれど、理由が無いのが私の理由。
貰った給料は、適当に使ったり、余った分はATMに突っ込んで貯金をしている。
実家への仕送りは一切していない。
うちは普通の家庭で、父、母、弟の4人家族。
裕福でもないけれど、ちょっとした休みに家族全員で旅行へ行くくらいの余裕があるような普通の家庭。
両親とも仲良しだし、弟と私も不仲ではない。
私自身家族が嫌いとか、そういうことでもない。
家庭や育ってきた環境での問題が生じてとか、そういうことでもないのだ。
ただ1つ理由らしい理由といえば、心当たりがないわけでもない。
でもその理由は、自分でも理由とこじつけているだけかもしれなくて、本当はなんとなくこうやって毎日がただ過ぎ去って行く感覚を、第三者の視点から客観視して、私に起る現実を、映画や小説を見るように楽しんでいるだけなのかもしれない。
それ、すっごいサディストだな。
どれだけ洗ってもぬぐい去れない不浄が、お湯の蒸気と相俟って、天井にできた汚れの雫は、排水溝へと流れ落ちてゆく。




