-2-
明宜の家から最寄りのスーパーまで、車で20分はかかる。
スーパーのなかはひどく涼しくて、腕をさすった。
「大丈夫? 永劫くん」
目ざとく見られて、大丈夫だとうなずく。
これくらいで大丈夫などと聞かれてしまったら、さっきのはどうなるんだ。
そっとため息を吐き出して、カートを引く。
「夕食、なににしましょうか」
「うーん……。カレーがいいな」
「カレーですか。どうせなら、茄子とかぼちゃも使いましょう」
たしか、かぼちゃはまだ残っていた。茄子も少しはある。
すべて使い切ってしまった方がいいだろう。
痛んでしまうかもしれない。
「……永劫くん」
「はい」
にんじんを見つけてカートに入れると、ぽつりと明宜がつぶやいた。
「きみは、すごいね」
「は? なんです、いきなり」
「ちゃんと、受け入れようとしているんだから」
「だって、真実なんでしょう。だったら、受け入れるしかないじゃないですか。――辛いことでも」
「……うん」
「――あんただって」
次にズッキーニをカートに入れて、今度はカレールーを入れるためにレトルト食品がある棚を探す。
どこか落ち込んだ様子でついてくる明宜は、永劫が繋ぐ言葉を待っている。
「あんただって、いろいろあるんだろ。俺は知らないけど」
「あれ、わかっちゃう?」
「分かりますよ。髪の毛染めてるのだって、そんなチャラチャラした態度をしているのだって、こんな――仕事しているのだって、理由があるんでしょう? まあ、俺には――」
関係ないけど。
という言葉は飲み込んだ。
それは、あまりにも――自分の心とかけ離れていたのだから。
二日後、客人が来るということで、周りの草刈りを何とか終わらせた。
「そのお客さんって、泊まっていくんでしょう?布団、干しときましたから。あとバスタオルも一緒に客間に置いてあります」
「本当かい? いや、悪いね。何から何まで」
「いいですよ、別に。お世話になっているんだし」
布団を運ぶのにはすこし苦労したが。
昼前には来るらしいが、ここまでどうやってくるのだろう。バスもないし、電車もない。
車でしか足がないのだ。
「あの、迎えに行かなくていいんですか?」
「いいのいいの。あいつなら大丈夫。体力だけはあるから」
「そ、そうですか。ならいいですけど」
あまりにも軽々しく言うものだから、相当体力がある男の人なのだろう。
この暑いなか来るのだ、冷たい茶でも用意しよう。
そのとき、チャイムの音が聞こえた。
「あ、見えたみたいですよ」
「ああ、うん。勝手に来るからここで待ってていいよ」
「え、それはさすがに……」
ないんじゃないか、と思っていると、どすどすと、廊下が抜けそうな音をたててまっすぐこの座敷に向かってきた。
返事もしていないのに、本当に勝手に入ってきた。
「ちょっとーお。なんで来てくれないのよぅ」
妙に太い声だ。
明らかに男である。
しかし、女言葉。
いやな予感しかしない。
ぎぎぎ、と音をたちそうなほど、ゆっくりと振り返る。
そこには、真っ黒な長い髪をおかっぱにして、目力が異様に強く、くちびるは真っ赤で、ハードなスタッズをつけた黒い革のミニスカート、ストライプのストッキングをつけた、女……いや、男?が立っていた。
「……」
「あらやだ。この子が? やだぁ、かわいい顔してるじゃない!」
呆然としていると、女……カッコ男がはしゃいでこちらに顔を近づけてくる。
「うわッ」
キスでもしようとしたのか、思わず後ずさったおかげで、事なきを得た。
「やだ~。かわいい~! ちょっと明宜ちゃん。ずるいじゃないのぉ。こーんなかわいい子、ひとり占めしてて!」
「煩い」
今まで聞いたことないくらいの冷たい声で、その女、カッコ男を突き放す。
こういう所を見ると、たぶん本当に親しいのだとおもう。
「うふ、相変わらず冷たいんだからぁ。初めまして。永劫ちゃん。アタシ、鈴鹿。よろしくね!」
「正確には、鈴鹿彰比呂」
「やだぁ! 彰比呂、なんてだっさい名前で呼ばないでよ! 鈴鹿ちゃんって呼んでね。永劫ちゃん」
鈴鹿彰比呂。
このハードロックな男が。
たぶん、こんなに存在感がある人間は生まれてこのかた、初めてみたような気がする。
「あ、あの……」
おろおろとする自分がなにかおかしい。
それを助けてくれたのは、明宜だった。
「濃すぎるんだよ。おまえは」
「だって、これが素なんだもーん。アタシを呼んだのは、アンタでしょ?明宜ちゃん。……野良神のことで」
「!」
野良神。
鈴鹿も知っているのか。
真っ黒い、胸までの髪。
ぱっつんと切られた前髪からは、不自然に青い目が覘いている。
「確かに、憑いているわね。野良神が。それにしても、強い野良神ねぇ。よく、死ななかったわね。永劫ちゃん」
「――……」
「やっだー。そんな、睨まないでちょうだい。アタシは明宜ちゃんと同じなの。祓う力を持ってる。だから安心してちょうだい。ちゃんと、もとにもどしてあげる」
「もとに、戻す……?」
「余計なことを言うな、鈴鹿」
やはり、明宜の知り合いはおかしな人間だった。




