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いちゞくの花  作者: イヲ
第三花
14/68

-2-

明宜の家から最寄りのスーパーまで、車で20分はかかる。

スーパーのなかはひどく涼しくて、腕をさすった。


「大丈夫? 永劫くん」


目ざとく見られて、大丈夫だとうなずく。

これくらいで大丈夫などと聞かれてしまったら、さっきのはどうなるんだ。

そっとため息を吐き出して、カートを引く。


「夕食、なににしましょうか」

「うーん……。カレーがいいな」

「カレーですか。どうせなら、茄子とかぼちゃも使いましょう」


たしか、かぼちゃはまだ残っていた。茄子も少しはある。

すべて使い切ってしまった方がいいだろう。

痛んでしまうかもしれない。


「……永劫くん」

「はい」


にんじんを見つけてカートに入れると、ぽつりと明宜がつぶやいた。


「きみは、すごいね」

「は? なんです、いきなり」

「ちゃんと、受け入れようとしているんだから」

「だって、真実なんでしょう。だったら、受け入れるしかないじゃないですか。――辛いことでも」

「……うん」

「――あんただって」


次にズッキーニをカートに入れて、今度はカレールーを入れるためにレトルト食品がある棚を探す。

どこか落ち込んだ様子でついてくる明宜は、永劫が繋ぐ言葉を待っている。


「あんただって、いろいろあるんだろ。俺は知らないけど」

「あれ、わかっちゃう?」

「分かりますよ。髪の毛染めてるのだって、そんなチャラチャラした態度をしているのだって、こんな――仕事(・・)しているのだって、理由があるんでしょう? まあ、俺には――」


関係ないけど。

という言葉は飲み込んだ。

それは、あまりにも――自分の心とかけ離れていたのだから。






二日後、客人が来るということで、周りの草刈りを何とか終わらせた。


「そのお客さんって、泊まっていくんでしょう?布団、干しときましたから。あとバスタオルも一緒に客間に置いてあります」

「本当かい? いや、悪いね。何から何まで」

「いいですよ、別に。お世話になっているんだし」


布団を運ぶのにはすこし苦労したが。

昼前には来るらしいが、ここまでどうやってくるのだろう。バスもないし、電車もない。

車でしか足がないのだ。


「あの、迎えに行かなくていいんですか?」

「いいのいいの。あいつなら大丈夫。体力だけはあるから」

「そ、そうですか。ならいいですけど」


あまりにも軽々しく言うものだから、相当体力がある男の人なのだろう。

この暑いなか来るのだ、冷たい茶でも用意しよう。


そのとき、チャイムの音が聞こえた。


「あ、見えたみたいですよ」

「ああ、うん。勝手に来るからここで待ってていいよ」

「え、それはさすがに……」


ないんじゃないか、と思っていると、どすどすと、廊下が抜けそうな音をたててまっすぐこの座敷に向かってきた。

返事もしていないのに、本当に勝手に入ってきた。


「ちょっとーお。なんで来てくれないのよぅ」


妙に太い声だ。

明らかに男である。

しかし、女言葉。

いやな予感しかしない。

ぎぎぎ、と音をたちそうなほど、ゆっくりと振り返る。


そこには、真っ黒な長い髪をおかっぱにして、目力が異様に強く、くちびるは真っ赤で、ハードなスタッズをつけた黒い革のミニスカート、ストライプのストッキングをつけた、女……いや、男?が立っていた。


「……」

「あらやだ。この子が? やだぁ、かわいい顔してるじゃない!」


呆然としていると、女……カッコ男がはしゃいでこちらに顔を近づけてくる。


「うわッ」


キスでもしようとしたのか、思わず後ずさったおかげで、事なきを得た。


「やだ~。かわいい~! ちょっと明宜ちゃん。ずるいじゃないのぉ。こーんなかわいい子、ひとり占めしてて!」

「煩い」


今まで聞いたことないくらいの冷たい声で、その女、カッコ男を突き放す。

こういう所を見ると、たぶん本当に親しいのだとおもう。


「うふ、相変わらず冷たいんだからぁ。初めまして。永劫ちゃん。アタシ、鈴鹿。よろしくね!」

「正確には、鈴鹿(すずか)彰比呂(あきひろ)

「やだぁ! 彰比呂、なんてだっさい名前で呼ばないでよ! 鈴鹿ちゃんって呼んでね。永劫ちゃん」


鈴鹿彰比呂。

このハードロックな男が。

たぶん、こんなに存在感がある人間は生まれてこのかた、初めてみたような気がする。


「あ、あの……」


おろおろとする自分がなにかおかしい。

それを助けてくれたのは、明宜だった。


「濃すぎるんだよ。おまえは」

「だって、これが素なんだもーん。アタシを呼んだのは、アンタでしょ?明宜ちゃん。……野良神のことで」

「!」


野良神。

鈴鹿も知っているのか。

真っ黒い、胸までの髪。

ぱっつんと切られた前髪からは、不自然に青い目が覘いている。


「確かに、憑いているわね。野良神が。それにしても、強い野良神ねぇ。よく、死ななかったわね。永劫ちゃん」

「――……」

「やっだー。そんな、睨まないでちょうだい。アタシは明宜ちゃんと同じなの。祓う力を持ってる。だから安心してちょうだい。ちゃんと、もとに(・・・)もどしてあげる」

「もとに、戻す……?」

「余計なことを言うな、鈴鹿」


やはり、明宜の知り合いはおかしな人間だった。

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