18話
「グラント秘書官、今日のお昼は何かな?」
「今日はクロワッサンのサンドウィッチです。それから、はちみつたっぷりのマドレーヌもありますよ」
手にしたバスケットを差し出すと、宰相様は丁寧に受け取った。
中身を覗き込む瞳は、嬉しそうに細められている。
宰相様に“自分に優しく”と豪語した数日後から、私は自分の分と一緒に宰相様のお弁当も作ることを買って出た。
レイトン補佐官の口添えもあり、以前よりしっかり休憩時間を取るようにはなったものの、食事はクッキーやチョコレートなど甘い物ばかり。
そんな偏った食生活を見ていられず、思わず口を出してしまったのだ。
最初は遠慮されていたけれど、何日か続けて持ち込んだ結果、今ではこうして素直に受け取ってくれるようになった。
「うん、美味しい」
宰相様の声に顔を上げると、彼は手にしたサンドウィッチをしげしげと眺めていた。
今日は照り焼きにした鶏肉のサンドウィッチ。
サクサクとしたクロワッサンの食感と甘辛い鶏肉は相性抜群で、私も気に入っている。
なにより、このサンドウィッチは弟のミレルの大好物だった。
大きな口を開けて頬張る宰相様をこっそり盗み見ると、思わず口元が緩んでしまう。
数日間こうして様子を見ていて気付いたのは、宰相様が十二歳の弟とよく似た味覚をしているということだった。
甘いお菓子はもちろん、食事でも甘みの効いたソースを使った日は、いつもより表情が綻んでいる。
普段の余裕ある大人の雰囲気だけでなく、こうした少し子どもっぽい一面を発見するたびに、なんだか嬉しくて胸の奥が小さく弾んだ。
「そういえば、葉野菜の値が上がっていると聞きました」
「葉野菜?」
「はい。この数週間で一割から二割ほど上がっているみたいです」
「雨季でもないし……それは不自然だね」
宰相様は考え込むように目を伏せると、食後のお茶に口をつけた。
一緒に昼食を取るようになってから、こうして街の様子を話すことが多くなった。
私が暮らす三番街は王国の中心にある市井の街。
そこには王国中から人や物が集まってくる。
それ故に、店先に並ぶ野菜の値段ひとつからでも、遠く離れた地方の様子をうかがい知ることができた。
「値段が上がっているのは一つの店だけ?」
「いいえ。全体的に上がっています」
「ということは、人的なトラブルではなさそうだね」
私の話に耳を傾け、真剣な表情で考え込む宰相様。
その姿を見ていると、どれほど彼が民のために働いているのかが伝わってくる。
しばらく思考に耽っていた宰相様が、ふいに顔を上げた。
「グラント秘書官。次の休みは空いている?」
「え?」
突然の問いに目を瞬かせていると、宰相様はにこりと微笑む。
「一緒に出掛けよう」
どこか楽しそうな宰相様の弾む声に、私は考えるより先に頷いたのだった。




