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金玉の土用干し。  作者: 萬田ぷぷっぴどぅ


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ショウシキュウの秘密・6


「先生」


 匠海とのビデオ通話を切った誠志郎は改まって楢崎に向き合った。


「その……、睾丸から子供を生んだ人たちは男性同士のご夫夫だったんですか?」


 少し聞きにくそうに、上目遣いで誠志郎は楢崎を見る。楢崎も少しためらってから答えた。


「女性と結婚されている男性もいらっしゃいましたが、全員妊娠のきっかけは男性との肛門性交でした」


 誠志郎は薄く笑ってため息をつく。


「それでも生まれたお子さんは育てていらっしゃると?」


 楢崎はわずかに目を伏せ、小さく首を振った。


「生んだご夫夫のもとで育てていらっしゃるのは2組だけです。2組とも男性ご夫夫。あとの3組は養子に出されたあと、離婚されました。男性ご夫夫は1組。2組は女性とのご夫婦です」


 女性はショックだったろうと誠志郎も同情する。愛していた夫がある日突然妊娠していたのだ。それも見ず知らずの男の子供を。単純に言って不貞である。不貞の上によくわからない男性妊娠。そりゃあ離婚となっても仕方あるまい。むしろそうなるであろうと予測できたのに、何故赤ん坊を生もうと思ったのか。母性愛でも生まれたのか、どうせ堕胎しても不能になるのならとヤケになったのか。それとも子供の父親に一抹の期待でもしたのか。


「その……、離婚なさってない男性のご夫夫は今もご家族仲良く……」


「ええ。定期的に検査に来ていただいているのですが、ご家族とても仲がよろしいですよ」


「……そうですか……」


 突然妊娠していると言われて冷静に受け入れられた男性はひとりもいなかった。むしろ今までの患者たちに比べ、誠志郎は落ち着いていると楢崎は思う。そのさまは『諦観』というより『諦め』に近いようで、楢崎の胸には少しの不安がよぎった。


「男性同士であろうと女性と男性であろうと、妊娠も出産も、家族の形態が変わることも初めてだらけで不安になりますものね。でも有史以来、人間がやって来たことなんてせいぜい繁殖の繰り返しです。同じことなんです。男でも、女でも」


 楢崎は首を傾けにこりと笑った。


「困ったらいつでも私たちを頼ってください」



 妊娠周期が進むと、あっという間に睾丸は大きくなる。大きくなってくると周りに気づかれる危険もあるが、まず本人が動きづらい。早めの入院を勧められた誠志郎は、匠海の実家への挨拶や会社への手回しが終わり次第、すぐにこの病院へ戻って来ることを誠志郎は固く約束させられた。



 医師とはいえ、やはり女性には訊き辛かった。


 離婚の原因は出産による『不能』ですかとは。


 だが、今も夫夫として形を成している家族もいるという。そう悲観する話でもない。


 そう思いつつも誠志郎は隣の座席に座る匠海を見る。


 まだ若く、とても美しい青年。たぶんこんなに早く自分が父親になるなどとは夢にも思っていなかっただろう。


「え」


「え?なに?」


 思わず声が出た誠志郎に驚いた匠海が答える。


「え、待って。もしかして匠海の方が妊娠するつもりだったの?」


 声は潜めているものの、さらに小さく丸くなって匠海は誠志郎に寄り添う。


「つもりだったっていうか、そうなるんだろうな~って思ってた」


「生むつもりだったの?」


「うん。そりゃまあ、赤ちゃんできたら生むつもりだったよ」


「その頃、帝王切開のこと知らなかったんでしょ?皆出産したら死ぬと思ってたのに?」


「うん。だって子供だし。誠志郎さんと僕の」


 折り重なるように囁き合っていた身体を起こし、誠志郎は匠海を呆れて見つめる。


「俺と子供を置いて?」


 匠海は困ったように口を尖らせた。


「いや、子供さえいれば誠志郎さんは大丈夫かなーと思って」


 とてつもなく眉をひそめたあと、誠志郎は匠海の頭を片腕で抱きかかえた。そしてもう片方の手で頭をわしゃわしゃと撫でる。


「そんなこと言わないで。二度とそんな考え起こさないでよ」


 匠海は声を殺して笑うと、誠志郎の太ももに手を置いた。


「誠志郎さんも、死ぬよりマシだからさ」


 しっかりと誠志郎の目をみつめて匠海は笑った。


「妙なこと考えないでよ」




 匠海は若い。若くて美しい。


 こんな若くて美しい人が不能の自分と一緒にいて耐えられるわけがない。



 男の自分が生んでも子供たちの戸籍は作られると楢崎医師は言った。会社は辞めずに適当な病名で診断書を出してもらい長期療養休暇を取り、戻り次第子供たちは扶養に入れられるように準備した。仕事は絶対に辞められない。男手ひとつで双子を育てて行かねばならないのだから。


 匠海は若い。まだ大学にも入ったばかりだ。前途洋々なこの若者が、子供のいる家庭など支えられるはずがない。


 若くて美しい匠海が、不能な自分で耐えられるはずがない。


 責任感で、あるいは物珍しさでしばらく家庭は続いたとしても、いずれ破綻を招くだろう。


 誠志郎はいつだって別れられる覚悟をした。



 勃起不全だの勃起障害だのでいちいち騒ぐ男たちのことを冷めた目で見ていた。挿入だけが性行為ではない。愛し合っていればコミュニケーションの取り方などいくらでもあるだろうに。


 誠志郎とていつでもどこでも誰にでも勃起していたわけではない。好みの相手でなければ身体は反応しなかったし、場所も相手も選ばない性行為には嫌悪感すらあった。


 だが匠海と出会ってから事情が変わった。匠海を見るといつでも抱き締めたかったし、どこででも欲しくなった。節操の効かなくなった自分を、匠海も愛してくれた。


 挿入だけが性行為ではないと。性行為だけが愛を確かめ合う術ではないと。それは決してきれいごとではないと思いたかった。


 だがもうそんな自信は無くなっていた。




 誠志郎は実家とあまり付き合いはない。誠志郎が同性にしか興味が無いと知ってから、母も父も誠志郎と距離を置くようになった。妹と弟はそれぞれ結婚し、妹のところには子供も生まれた。弟妹がいてくれたおかげで深く干渉されなくて済んだのかもしれないと、誠志郎は感謝している。たまに連絡をくれる妹と弟のおかげで両親が元気でいることは知っている。果たして本当に子供を生んだら連絡するべきかと考えて、何をバカなことをと自嘲する。子供を連れて帰ったところで信じられないだろうし、喜びもしないだろう。いや、待て。女性に産ませたと思って、かえって喜ぶだろうか?いやいや、と誠志郎はますます自嘲する。そこで喜ばれても余計に腹が立つ。やはり絶対に両親には知らせないでおこうと誠志郎は決心した。



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