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再び交わる死神と刃

「……見つけたわ、死神」


夕暮れ時の商店街。路地裏の自動販売機の隙間から、S級暗殺者クロエは、ターゲット――もとい、同期のSランク暗殺者・影山幸太を鋭い眼光で凝視していた。


共闘以来、クロエのプライドはズタズタだった。

暗殺のプロである自分が冷や汗を流して戦う横で、彼は一切の殺気を見せず、ただ「お惣菜のタイムセール」を気にするような顔でターゲットを次々と(結果的に)事故死させていったのだ。


(あの男の『本性』を暴いてみせる。前回の釣竿の件(スパイ検挙)も、裏社会では『あえて海保に手柄を譲ることで国際問題を回避した神の一手』と噂されているけれど……絶対に何かカラクリがあるはずよ!)


クロエは気配を完全に消し、幸太の後を追った。

今日の幸太は、手提げ袋を下げてトボトボと歩いている。袋の中身は、特売の冷凍うどんと白菜だ。相変わらず、そこにいるだけで通行人が避けていくほど存在感が薄い。

その時、クロエは察知した。

前方のビルの屋上、そして進行方向の路地裏から漂う、濃厚な「殺気」を。


(……! 刺客? それも、かなり手慣れた暗殺者集団ね。おそらく、海外の組織が影山幸太を消しにきたんだわ!)


ビルの屋上には、最新式の超高精度スナイパーライフルを構えた狙撃手。

路地の影には、一瞬で首を刈るための高振動ブレードを抜いた近接暗殺者。

完璧な挟撃体制クロスファイアだった。普通の暗殺者なら、ここで完全に詰んでいる。

クロエは息を呑み、いつでも加勢できるようクナイに手をかけた。

だが、当の幸太はといえば、100%の善人面で


「今日の晩御飯、うどんでいいかなぁ……」


などと呟いている。


(気づいていないの!? いえ、違うわ……!)


スナイパーが引き金に指をかけた、まさにその瞬間。

幸太の足元で、何かがキラリと光った。


「あ、10円玉」


幸太は、ごく自然に、綺麗に、深々とお辞儀をするような姿勢で地面へ屈み込んだ。


パンッ! シィィン!


次の瞬間、幸太の頭があった空間を、スナイパーの放った超音速の弾丸が通り抜けた。

弾丸はそのまま直進し、路地裏から飛び出そうとしていた近接暗殺者のブレードの根元にピンポイントで直撃。火花を散らしてブレードを粉砕した。


「がはっ!?」


暗殺者は弾き飛ばされた衝撃で自分の武器の破片をまともに浴び、そのまま壁に激突して失神した。

クロエの背中に冷たいものが走る。


(なっ……!? 10円玉を拾うフリをして、スナイパーの射線とタイミングを完璧に見切り、さらにその弾道を利用して地上の一人を無力化したというの!?)


「うわぁ、ギザ十(縁に溝がある10円玉)だ。やったー」


幸太は嬉しそうに10円玉をポケットにしまうと、再び歩き出した。背後で暗殺者が白目を剥いて倒れていることには、存在感が薄すぎるせいで全く気づいていない。

ビルの屋上のスナイパーはパニックに陥っていた。


「バ、バカな! 完全に捉えていたはずだ! 偶然か!? いや、そんなはずはない……!」


焦ったスナイパーは、ボルトアクションを猛烈なスピードで操作し、第二撃目を放とうとした。

しかし、動揺のあまり、ライフルの排莢(薬莢を出す動作)がわずかに強すぎた。

弾き飛ばされた熱々の薬莢が、たまたまビルの屋上の室外機の裏に巣を作っていた「スズメバチ」の巣に直撃。


ブゥゥゥゥン!!!


「ひぎゃあああ!? ハチ! ハチが!!」


スナイパーは激痛と恐怖で暴れ回り、足を滑らせて屋上の給水タンクのハシゴに激突。そのまま自分で持ち込んだスタンガンのスイッチが衣服に引っかかって誤作動し、自爆して気絶した。

地上からその一部始終を双眼鏡で目撃していたクロエは、ガタガタと震え出した。


(違う……偶然じゃない。あの男、歩きながら後ろのビルの構造と環境、ハチの生態系まで計算に入れて、10円玉を拾うという『一手』だけで2人のプロを完全に自滅させたんだわ……!)


もはや恐怖を通り越し、クロエの脳内にあった「対抗心」は、純然たる「神への信仰心」へと書き換えられていた。


「あの男は……人間の領域にいない」


その時、幸太がふと立ち止まり、クロエが隠れている自販機の方向を振り返った。

ペコペコと頭を下げながら、申し訳なさそうに声をかけてくる。


「あの……さっきから後ろにいるの、クロエさんですよね? すみません、僕なんかと一緒に歩いてたら、また変な事件(通報)に巻き込まれちゃうかもしれないので、離れた方がいいですよ……?」


幸太としては、自分の「通報率100%の呪い」を心配しての親切心だった。

しかし、暗殺者たちが全滅した直後に、一切の足音もなく背後を完璧に取られていた(と思い込んだ)クロエにとって、その言葉は重すぎる警告だった。


(『これ以上ちょっかいを出すと、次はお前がピタゴラスイッチの歯車になるぞ』……そう言っているのね……!)


クロエは、顔面を蒼白にしながら、その場にカチコチになって直立不動の姿勢を取った。


「失礼しましたァァァ!!!(クソデカ大声)」


プロの風圧を残し、脱兎のごとく夜の街へと消え去るクロエ。


「えぇ……。挨拶しただけなのに、ものすごい勢いで嫌われちゃった……」


幸太はガックリと肩を落とし、寂しく冷凍うどんの袋を揺らしながらアパートへと帰っていった。

その日の深夜。

ギルド会長室では、会長が頭を抱えていた。


「……あぁ、滝口くんかね?

うん、商店街のビルで、海外の暗殺組織『黒い牙』の精鋭2名が全滅しているのが見つかった件だね。

……あぁ、うちの影山だ。10円玉を拾って、ハチの巣を突っついたら、組織が壊滅した。

……いや、私だって何を言っているか分からない。クロエが『あの御方は神です』って書かれた謎の退職願(保留中)を持ってきたんだ。

もう何もしないでくれって、誰かあの歩く災害に伝えてくれ……」

会長はそっと電話を切り、引き出しから一番強い胃薬を取り出した。


「流石、影山……」


一方、自宅の布団の中で、幸太は天井を見つめていた。


「やっぱり、暗殺ギルドに関わっているから、こういう物騒な空気に巻き込まれるんだ。普通の生活をしなきゃ。よし、明日から、ギルドに内緒でリゾートの短期バイトでも始めよう! 温泉街なら、きっと平和で静かだしね!」


彼が選んだその「癒やしのバイト先」が、


ギルド会長と滝口刑事の胃壁を完全に破壊する大爆発へのカウントダウンであることに、


幸太はまだ気づいていなかった。

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