4.彼と対面会話中
床よし、洗濯物よし、部屋の清潔感よし。
日頃から部屋を綺麗にしていたお陰ですぐに悠犀を迎える準備は整った。あとは彼が来るのを待つだけだ。
ーーピンポーン
びくっと肩が上がる。びっくりした。
私はインターホンの画面で悠犀を確認すると、すぐにロックを解除した。セキュリティ抜群のマンションを勧めてくれたのは、そういえば悠犀だった。危ないから、ちゃんとセキュリティしっかりした所が良いよと。この賃貸マンションを一緒に探してくれたんだった。
悠犀は優しい。それは分け隔てなく平等に。それを少し……私に過度の表現をしてくれたらと思うのはただの我儘で、身勝手な話なんだろうか。
今度は部屋のインターホンが鳴って、覗き穴から覗くと悠犀の姿が見えた。よし……ここからが正念場だ。
扉を開いて悠犀を迎える。
「ごめんね、時間作ってもらって」
「そんな事ないよ。俺も瑠歌と話したいと思っていたから」
電話越しのあの声が嘘のように、優しい表情をしている悠犀。あれ、やっぱりあの声は気のせいだったか。
「あ、どうぞ。あがって」
「お邪魔します」
悠犀を居間にーーと言っても1Kの部屋だがーーに来て貰い、座らせる。悠犀はミルクティーが好きだったな。
「ミルクティーでいいよね?」
「うん。ありがとう、淹れてくれるんだ?」
「もちろん。体、少し冷えてるみたい。今日、外ちょっと寒かったもんね」
もうすぐ冬だ。今は暖かいからといって油断していると、悠犀なんてすぐ風邪を引きそうだ。
いっつもバイトの帰りは髪の毛が濡れているんだもの。
悠犀に温かいミルクティーが入ったカップを渡すと嬉しそうに受け取ってくれる。
うわぁ……なに、今の。すごくカッコ可愛いんですけど。
「ありがとう。それで、えーと……話、だったっけ? そんな大事な話があったの?」
「ん。まぁ、それなりに。ちゃんと話さないとなって思ってて」
「……それは、俺にとってあんまり良い話じゃないのかな?」
「ん……どうだろ。ただ、その。私がこれから話す事で悠犀が気を悪くしたら……ごめんね」
先手必勝とばかりに、先に謝るのは卑怯なのだろう。でも、話をして悠犀を怒らせるよりは前もって予防線を張っておいた方が、私の心の衛生上はとても良い。
「……分かったよ。大丈夫、何を聞いても驚かないよ」
「ん……あのね」
ここはオブラートに包みながら話を進めていこう。そして、なるべくお互い傷付かないように話をしようじゃないか。
「悠犀は、その、好きな人がいる?」
「は?」
「や、ごめん。違くて……じゃあ蒼汰は好きな人、いるのかな?」
「なんでそこで蒼汰が出てくるの」
地を這うような低い声が聞こえて、しまったと思っても後の祭り。悠犀の機嫌が一気に下降したように思えた。
「だ、だってね。悠犀と蒼汰は幼馴染みでしょ? 二人は何でも話す間柄なのだと……」
「……今はいないんじゃないの。っていうか、知らない」
何が地雷だったのか。ただ私は蒼汰の好きな人は悠犀じゃないと、そう確認したかっただけなのだ。いや、その事自体がダメだったのかもしれない。
悠犀は、蒼汰の事が、好きなのだから。
「ーー」
ダメだ、これ以上、そんな事考えたくもない。悠犀なのに。私の悠犀だったのに。
いつから? ずっと? 蒼汰の事、好きなのに私とお付き合いしてくれていたの?
あぁ、そうか。私がしつこく悠犀に話しかけていたから。
だから悠犀は諦めてその字の如く、私に付き合ってくれていたのだ。
謝らなければ。彼に無理をさせていた事。
そして、終わりにしなければ。
「悠犀……」
「ん? あぁ、ミルクティー? 淹れ方上手になったよね。凄くおいし」
「ごめんなさい、お別れしましょう」