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M.O.V.E  作者: 鳴海
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一章 九話

 翌日周辺の警戒が強化された。

当然といえるだろう。昨晩、あれほど堂々とした接近を許したのだ。しかも、例の少年は見つかっていない。

「その少年が脅迫状を送りつけた犯人とでも?」

「わかりません」

 周辺警戒に当たっていたメルウェルとホウドウは無線越しにそんな会話をしていた。メルウェルは前門、ホウドウは監視塔からの警戒。これでは万全とは言いがたいがこれ以上人をさけないのが現状だ。

「あの少年が犯人だとしたら、そうとう厄介だ。彼は強い」

 実際相対したメルウェルだ、それはわかってる、あれはもはや化け物という部類だ。

「この人員じゃ、警備のしようがないのではありませんか?」

「わかっている」

 そして朝からホウドウはこんな感じ、何もかもにだんまりでまともな返答を返してくれない、緊張しているのか、怒っているのか、もしくはその中間といった具合。

 全てがおかしかった、昨日の夜を境にメルウェルを囲った世界全てが変化したように感じた。

(なにが起きているの)

ホウドウの対応もそうだ、何らかの策があるといっていたが、それを行使するそぶりはない。

 そしてソロアのことも気にかかっていた。今日、メルウェルはソロアに会えていない。

確かに、警戒強化された今、モニターから離れるわけにはいかないだろうが、何かがおかしい。

メルウェルはそれを不吉だと感じた。それが何かの予兆のようなものの気がして落ち着かない。

 腑に落ちないことばかりだった。それはここ最近の事件もそうだ。

 そうメルウェルが街中で意識を失っていたという例の事件。あの少年は実際に存在して本物だった、なら、あの事件も起こったのではないだろうか。

 なら、ソロアは嘘をついていることになる。

(だとしたら私は隊長になんて話をすれば)

 素直に報告したらいいのだろうか。それとも隠し通すべきなのだろうか。

 ソロアの昨晩言っていた意味深な言葉からも、もうソロアをかばえる余地はないような気がしていた。

(私の正義はこんなものなの?)

 もはや、何もかもが疑わしかった。昨夜のソロアの行動も、ホウドウの行動もそう。すべてがメルウェルを疑心暗鬼にさせる。どちらを信じればいいのかわからない。たった一人の親友か、天使機関か。

 メルウェルは揺れていた、あるいはすべてを信じるべきではないのかもという思いも生まれるくらいに。

(クロウルティス計画。昨晩目にした極秘機密、それに本当にホウドウがかかわっていたなら、それにソロアが巻き込まれて?)

 結論は出なかった、情報は多いくせに、決定打は何もない、全てが胡散臭く、全てがつながってしまう、これでは何も考えられない。

そこでメルウェルの思考を寸断する声が、耳にぶら下げたインカムから聞こえた。

「メル、聞こえる? 警備システムがのっとられた」

 ノイズ交じりの聞き取りにくい声だった。

「その声。ソロア?」

 その瞬間、インカムでの通信をあきらめ、脳内デバイスでの通信に切り替える。

――ソロア、どうしたの。現状の報告をお願い。

――悪いわ、何より警備システムどころか、この館の全ての防衛プログラムが奪われた。ドラム缶が起動した。

――ドラム缶?

――あれよ、あの、銀色の円筒状のあれ、多数の武器を内蔵してて、破壊するのに手間がかかるやつ

 警備ロボットのことだった、重要拠点にしか配備が認められていない、場合によっては敵を殺害することも辞さない、そんな機械のことだった。

――そんなのあるんだったら早くから出せばいいのに!

――だせない理由があったの、でも今はそれを説明している暇はないのよ。よくきいてメル。あなたが今後何を信じていくのかはわからない。けど。あなたが信じたいと思ったものが、あなたの正義よ。

 メルウェルはその声を聞いて唖然となった。

――なんでいきなりそんなこと言うの。そんなのまるで。

 そのメルウェルの言葉は続けられなかった、嫌な音がして回線が切断された。

――ソロア!

 問いかけに返事はない、まさかという最悪の情景がメルウェルの脳内をよぎる。

「くそっ!」

 あわててインカムをむしりとり、正門の大扉を押し開けようとする、だが。開かない。

 警備システムがのっとられているのだ、扉が開くわけがない。

「なら!」

 扉横の壁を探る、すると四センチ四方の四角く線が入っている場所を見つける。それは端末を接続する端子のカバーだ。開いてみて十分に使えることを確認したメルウェルは。

イメージする。

自身の脳とこの館のネットワークをつなぎことができる特別な線を。

 メルウェルのこめかみから光が湧き出る、その光は形を成し、白いコードに変化する。

 その一方を端子に、一方のパッチをこめかみに繋ぐと頭の中で自分の魔名を宣言した。

――規律

 規律はネットワーク上のセキュリティーを強制排除したり、ウイルスなどの異物を排除できる能力だ。こちらの手元に防衛システムを戻すことはできないが、数々の防御を突破して扉を開けることならできる。

 そうネットワークの中から浮上したメルウェルは扉に両手をそっと当てる、押せば簡単にその扉は開いた。

 メルウェルは中をのぞく。警備システムが奪われたということはこれからメルウェルの動き全ては観測されるということだ。

そうなればのんびりとはしていられない。迅速に行動すべきだ。ミスは許されず、的確な状況把握と処理が求められる。この先には何があるかわからないから。

そしてメルウェルは全力で前に駆けた。

(まずは護衛対象の安全確保と合流、執務室に急がないと)

だが、と。メルウェルは考える。

この状況で警備ロボットと鉢合わせしてしまった場合、太刀打ちできない可能性が高いと。

(魔記系統の武装は積んでないはずだから実弾がメインになると思うけど。ATC600が二つ、あとは爆撃系の武装を摘んでるはず)

まず直列に並んでしまうと、防火扉一枚くらい軽く貫通できる機銃を打たれて死ぬ。角に隠れたり盾をとっても、グレネードを装備しているので爆発で死ぬ。加えて並大抵ではない装甲に身を包んでいる。拳銃やアサルトライフルでは表面を傷つけるのが精いっぱい。

決定打を与えるには、メルウェルが持参した狙撃ライフル並みの火力が必要となってくる。

だが手元にそんな重火器はない。

 また、魔記で作ることも不可能だ。理由は単純に魔記の量が足りないから。

(効率よく作れたとしても、銃弾に回せる魔記の量がなくなる、それは愚策ね、三発で仕留められるのなら価値はあるけど、ドラム缶の配備数は……。何機なんだろう)

 この手の防衛ロボットが単独行動しているとも考えにくいし、施設の大きさから考えて、最低でも30は欲しいところ。となるとライフルを作ってしまうと一発アウトだ。

「どうする」

 メルウェルは二階を駆け抜けていた、館主の執務室は二階にあったからだ、なんのかわり映えのしない窓とドアだらけの長い廊下を疾走していると。不意に後ろからバキンとドアをぶち破る音がした。

 首だけ向けて振り返る、そして息を呑んだ。

 最悪の展開だった、警備ロボットに気付かれたのだ、そして警備ロボットも一体じゃない。

「三体?」

 すかさず銃を抜き、後ろを見て発砲、さすがに照準はずれてしまい当たらず、牽制にしかならない。

「くっ」

 そしてロボットたちの反撃。

 一つ目のレンズがはまっている以外は滑らかな表面をしていたのに、そこに丸く線が入り、穴が開き。銃口が顔を出した。

 これはまずい、そう頭で考える前に体が勝手に判断を下して、メルウェルは走った勢いそのままに二階の窓から外に飛び出した。

 破片が輝きながら宙を舞い、それにあたらないように、窓の縁を蹴って加速と方向修正。ガラスの破片より早く着地した。

地面を転がり勢いを殺す、頬についた土を拭いながら低い姿勢で上を見た。

 どうやらドラム缶たちに追撃の意思は無いようで、館内は静まり返っていた。

「おかしい、隊長たちはなにをやっているの?」

 メルウェルは懐からアンカーフックを取り出す。

「爆発物の許可は降りてるはず」

 そう脳内で一枚のカード状の爆弾を生成する、手のひらサイズで床や壁に貼り付けることができ破壊力を上に向けられる構造で、余計なものを傷つけない。

それを口に挟みアンカーフックを両手で掴んで発射、飛んで二階まで戻る。

そして、突然のメルウェルの出現に反応できないでいるドラム缶たちの足元、数センチ開いてる隙間にカードを投げ入れ。そして爆破した。

浮上する勢いを制御できずに横倒しになるドラム缶たち。だがそれでも武器の類は生きている。

(どんだけ丈夫なのよ)

 メルウェルは重心を後ろに傾ける、窓の外に落ちる形、そしてタイミングを見計らって屋根めがけアンカーフックを発射、飛び出すと同時にフックを巻き上げる。

 一瞬にして上にあがる。さきほどメルウェルが立っていた窓のさんが粉々に吹き飛ばされているのを音で感じた。

「これじゃあ、どうしようもない」

 次の瞬間、館全体が揺れる。

「今度は、なによ」

 次の瞬間。南のほうからだった、かなり遠い場所の壁を盛大にぶち破って熊のような大男が姿を現した。

 人並みはずれた大柄に、筋骨隆々の四肢、それでいて全身はばねのようにしなやかな印象を与え、事実、館内部から襲ってきた火と爆炎にすばやく反応、ひと跳躍で逃げ切っていた。

 人相の悪い男だった、そしてその風貌から相当の猛者だということがうかがい知れる。

(あいつ、だれ? 知らない)

 その男は屋根の上の少女に気づき反応を見せたが、一瞥しただけで脅威ではないと判断したようで、依然として館の内部に視線を注いでいる。

「ギエンテ!」

 少年らしい少し甲高い声だった。次いで煙の中から姿を現す黒衣の少年が炎を引き裂くように館内から現れた。

その姿にいつもの余裕はなく傷を負っているようだった。額から流れた血が固体化して黒くへばりついているのが、遠目からでも確認できる。

「リアライズ!」


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