海
「よし」
荷物の確認を終えた俊介はカバンを背負う。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい、楽しんでおいでね」
母親に見送られて外に出る俊介。
今日もいい天気、夏真っ盛りだった。
家を出ると真っ先に隣の斉藤家へ。
ぴんぽ~ん
チャイムを鳴らすとがちゃりとドアが開く。
「おはよう、しゅんくん」
「おはようございます」
現れたのは周の母親亜実さん。
「ごめんなさいね~、先に行ってて欲しいって周が言うのよ」
「え?」
何故またそんなことを?
「寝坊でもしたんですか?」
「ううん、そうじゃないけどね」
「じゃあ、待ってますよ」
俊介がそういうと亜実はクスクスと笑う。
「ダメよ~、しゅんくん。
女の子が「先に行ってて欲しい」って言ったら先に行っているものよ」
「???」
亜実が何を言いたいのかイマイチ分からない俊介。
だがまだ時間はあるし、遅刻はしないだろう。
「じゃあ・・・・・・はい、分かりました。
先に行ってますね」
「うん、すぐに周も行かせるからね~」
なんだか分からないがとにかく先に行くことにした俊介。
ときどき後ろを振り返るがまだ周が出てくる様子は無い。
仕方ない、先に行ってるか。
俊介は一人待ち合わせ場所の駅に向かって歩いていった。
「あ、おはよう」
「ん?おう、おはよう」
待ち合わせ場所にいたのは竹内と子供達。
皆普段とも昨日とも違う服装だ。
運動のためではない服装というのは新鮮だったが、こうして出かけるための服装というのはまた違うようだ。
と言っても男連中は特に変化は無かったが。
大きく変化があったのは愛奈と真美。
「ほらほら」
「・・・うぅ・・・」
大きな竹内の背中に隠れている真美を無理矢理引っ張り出す愛奈。
愛奈の服装は上半分がピンクで下半分が黄色の半袖シャツ、そして短パン。
真美の服装は水色のシャツと紺のスカート、そして麦わら帽子。
「ほら俊介さん、何か言ってあげて」
「え?あ、うん。
似合ってるよ」
「・・・・・・」
元々赤かった顔がさらに赤くなる真美。
「愛奈ちゃんもね」
「えへへ~、ありがとございます~」
ぴょんっと跳ねる愛奈。
「あとは三人だね」
「そういえばお前、斉藤とは一緒に来なかったのか?」
俊介の言葉にそう返す竹内。
俊介はコクンと頷いた。
「なんか先に行ってて欲しいって」
「・・・・・・ふ~ん・・・・・・」
何かを悟ったらしい竹内。
だが俊介には竹内が何を悟ったのか分からない。
「お、おはようございます・・・・・・」
と、そこに声をかけてくる少女・・・・・・。
「あ、まろんちゃん」
愛奈がそれに気づいた。
一同はそちらに振り向く。
そこにいたまろんは模様の入った水色シャツ、ピンクのスカートで日傘を差していた。
と。
「・・・・・・お花?」
「あ、はいです・・・」
まろんのショートヘアには白い花が差してあった。
「これ、あの、本物じゃなくて、髪に留めてあるんです。
水に濡れても大丈夫らしいのでつけてきました」
「へぇ~、まろんちゃん可愛い♪」
愛奈と真美がキラキラした目でそれを見る。
おしゃれなアクセントが気に入ったのだろう。
それが嬉しいやら恥ずかしいやらで笑顔のまろんであった。
「おはようございます」
「え?」
ふと、なにやら聞きなれない声に振り向く。
そこにいた女性はノースリーブのシャツに膝までのズボンとサンダル、そして赤い髪。
ただしセミロング、それを軽く後ろでまとめている。
「「・・・・・・誰?」」
竹内と恋二が同時に言う。
それに対して笑顔でクスッと笑う女性。
「嫌ですわ、私ですよ」
いや、だから誰だよ。
と、本気で頭を捻らせる一同。
「ぷ・・・・・・くくくく・・・・・・あっははははは!!」
そんな様子がおかしかったのか噴き出す女性。
その笑い方には聞き覚えがあった。
試しに俊介が聞いてみる。
「あ~・・・もしかしてなんですけど・・・・・・」
「そ、あたしだよあたし、瀬戸内麗奈」
「「「「「ええー!!?」」」」」
子供達が声を上げた。
いつものヘアスタイルがセミロングに変わるだけでここまで印象が変わるものだろうか。
いや、意識して高い声を出していたという点もあるだろう。
今は戻っているが。
「いやだね~、ホントにここまで気づかないなんて」
「・・・・・・お前、なんで髪下ろしてんだよ」
竹内が口を開く。
「海だからね、リーゼント作ってても濡れると崩れちゃうんだよ。
あんまり髪質強くないみたいで」
「ふ~ん・・・・・・」
「ん~?何?もしかしてあたしの魅力にやられてたのかい?」
「・・・・・・んなわけあるか」
からかうような麗奈の口調にぷいっとそっぽを向きながら返事する竹内。
だがその声は少し小さかった気がする。
「お、おまたせ・・・・・・」
「あ、周ちゃん、やっと来・・・」
一同が声のした方を向く。
同時に止まった。
白のワンピース、そしてピンクのリボンが付いた白い帽子。
その帽子で少し恥ずかしそうに目元を隠している周がいた。
「あ・・・・・・」
と声を漏らして俊介が、まぁ正直見惚れていた。
昨日がズボンで少し残念だった分だけ破壊力が倍増している模様。
「・・・・・・へ、変かな・・・・・・?」
ちらっと俊介の様子を見る周。
俊介は全力で首を横に振った。
「・・・・・・か、・・・・・・可愛いよ・・・・・・」
「・・・・・・ありがと・・・・・・」
「な~に、周、ずいぶん可愛くおめかししちゃって~!」
目が合ってなにやらいい雰囲気だった周と俊介の間に麗奈が割って入った。
「わ!れ、麗奈ちゃん!?髪の毛下ろしたの?」
「そだよ、似合う?」
「う、うん。
へぇ~、麗奈ちゃん髪の毛こんなに長かったんだ」
「あんたにゃ負けるけどね」
それがきっかけで子供達も周の周りに集まってきた。
「お姉ちゃん綺麗~!」
「ほんと、綺麗ですよ」
「・・・ステキ」
「あ、あはは、ありがとね、みんな」
「はいはい、じゃあ皆揃ったことだしそろそろ行こうか」
麗奈が手を叩きながら全員に声をかける。
そう、今日は互いの私服を褒めあう為に集まったのではなく海に行く為に集まったのだから。
駅に入っていく一同。
その最後尾で竹内と麗奈がなにやら話していた。
「・・・・・・それはそうとお前」
「なんだい?」
「斉藤と林田、なんかいい雰囲気だったじゃねぇか。
そういうとこにはあんまり割って入るなよ」
「いや、あの二人はあのままほっといたら何時間でも見つめあったままだと見たもんでね」
「・・・・・・なるほど、それはありうる」
電車で揺られてしばらくすると遠目に海が見えてくる。
「海見えてきたよ」
「ホントだ」
子供達がはしゃぎ始める。
はしゃぐのはまだ早いよと俊介にたしなめられながらも子供達の興奮は収まらない。
駅に着くと同時にダッシュで電車から駆け下りる子供達。
少し遅れて周たちも降りる。
「ん~・・・・・・やっぱり海はいいね」
「まだ潮風だよ」
周の言葉に麗奈が笑いながらそういう。
「そうだけどさ~、なんていうか気分が高ぶるじゃない」
「はは、そういえばそうだねぇ」
そういって二人で笑いあう。
駅から降りるともうすぐそこが砂浜だ。
「じゃあ、男女別に着替えて海の家に集合な」
「おっけ~」
一刻も早くダッシュしていこうとする子供達を抑えつつ、集合場所を確認して男女別に別れる一同。
さて、着替え終わって待ち合わせに向かうこちら男性陣。
手にはシートやら膨らんでいない浮き輪やビーチボールなどを持っている。
「・・・にしても竹内君、結構筋肉あるんだね」
「んん?まぁ、鍛えてるからな。
そういう林田こそ思ったよりがっしりしてるな」
バスケをしているとはいえシャツの下は見たことが無い俊介と竹内。
お互いに相手の身体を褒めている。
まぁ、正直男同士がお互いに身体を見合っているというのは。
「・・・・・・ん~・・・・・・」
ジト目で見ている恋二が思っているようにあまり気色のいいものではないかもしれない。
好きな人にはいいかもしれないが。
もっとも恋二がジト目の要因は他にもあるのだが。
「・・・・・・あれ」
「恋二くん、
多分
言わない方が
いい」
「・・・・・・やっぱり気づいてないんですかねぇ」
二人の後ろを歩く子供達がなにやら声を抑えて話している。
視線は竹内の水着だ。
買ったときに気づかなかったのか、それとも知っていてあえて買ったのか。
黒のボクサーパンツ型の水着はお尻のところにピンクのハートマークがあった。
「・・・・・・いや、でももしかしたらツッコミ待ちかもしれないだろ?」
「あの竹内さんがですか?」
「大丈夫。
何もしない
方がいい。
僕達
何も見てない」
「・・・・・・・・・・・・」
納得いかなそうな恋二。
「あぁ、あれですね待ち合わせ場所」
話題を変えるべく修也が前方を指差す。
一軒しかない海の家はかなり繁盛しているようだった。
おまけに周囲には出店もある。
「食い物には困らなそうだな」
「そうだね」
竹内の言葉に俊介が賛同する。
さて、それでは待ち合わせ相手の女性陣はまだか・・・・・・と辺りを見回すと。
「ん?あ、おう」
手を振る赤い髪の女性。
髪を下ろしているので思わず見逃しそうになったが間違いなく麗奈だ。
黒のビキニ、上は首辺りまで覆っているが代わりに胸の真ん中辺りに逆三角の穴が開いていて胸が強調されている。
ついでにファッションなのか、頭の上にはサングラスが乗っていた。
「こっちの方が海の家に近かったみたいだね、先に着いたよ」
「そ、そうでしたか」
ずいっと寄って来る麗奈に戸惑う俊介。
楽しみでなかったかと聞かれれば全力で否と答えるであろうが、やはり水着姿は刺激が強い。
「んん?どうしたんだい?しゅん。
周りをキョロキョロ見回して。
この麗奈さんよりもいい女でも捜してるのかい?」
「い、いえ、特にそういうわけでは・・・・・・」
キョロキョロしているのではなく麗奈から視線を外そうとしているのだが。
見かねた竹内が助け舟を出す。
「・・・・・・からかわれてるぞ、林田。
おい、それより他のメンバーはどこだ。
とっとと合流して休める場所にシートでも用意しておかないと」
「ああ、そうだね。
おーい、みんなー、こっちー!」
くるっと振り向いた麗奈が手を振ると、遠くでキョロキョロしていた周たちがこちらに向かってくる。
「・・・ん・・・・・・」
「・・・む・・・」
俊介と竹内が声を上げた。
やはり水着の女性陣が寄ってくるというのは少し「来る」ものがあるのかもしれない。
先頭切ってやってきたのは愛奈と真美。
愛奈の水着は薄い黒に紫の淵、ビキニタイプだが腰の左右にリングがあり、それが上下をつないでいる。
真美の水着は濃紺、こちらもビキニタイプ。
ただ少し面積が大きい。
そして下は膝上までのスカートがついている。
肌の露出は少ないがそれでも恥ずかしいらしい、少し顔を赤らめてもじもじしている。
その後ろからまろん。
水色のワンピースタイプ。
水に濡れても平気と言っていた花もつけたままだ。
だが何故か肩からタオルをかけている。
「ほーら、まだ抵抗してんのかい」
ぱっと麗奈がまろんのタオルを取ってしまう。
「あっ!ちょ、ま、待ってください!」
タオルを取り返そうと麗奈を追いかけるまろん。
その拍子に背中が見える。
そう、背中が見えた。
その水着は背中側が腰の辺りまで無かったのだ。
「はっ!」
見られた!とまろんがぱっと男性陣に背中を向ける。
ついでに手を背中に回して隠そうとしているらしい。
「ほら、観念しなって」
「うぅ・・・・・・買うときにもっと注意していれば・・・・・・」
麗奈に散々派手な水着を見せられて、パッと出てきたのが普通のワンピースだったので思わず買ってしまったが、家に帰ってからこの仕様に気づいたのだった。
ま、まぁ、大丈夫だろう、といざ着てみると背中が出ているというのが思ったよりも恥ずかしかった、という状況だ。
そして、周がやってくる。
白地に少し青で模様があるだけのビキニタイプ。
「お、おまたせ・・・・・・」
やはり恥ずかしそうにやってくる周。
そして、再び見とれていた俊介。
「ど、どうかな・・・・・・?」
しばらく時間を置いて、周が俊介に尋ねる。
「あ、うん・・・その・・・・・・に、似合ってるよ・・・・・・」
「おーい、先行くぞ」
竹内の言葉にはっとする二人。
気づけば他のメンバーも既に海の家から離れている。
お互い恥ずかしそうに竹内達についていった。
と、その拍子に周の背中側が見える俊介。
(・・・・・・あれ?確かビキニタイプじゃ・・・・・・)
背中側は繋がっている。
ひょいっと周の横を見るとそこはわかれている。
どうやらお腹の周辺だけ布地がないらしい。
「・・・・・・しゅ、しゅんくん・・・・・・あんまりじろじろ見られると・・・・・・」
「え、あ、いや、そ、そういうわけじゃ・・・・・・ご、ごめん・・・・・・」
周に言われてパッと目をそらす俊介。
少し大胆な格好はしてみたもののやはり恥ずかしいらしい。
「そーれ」
「ほーい」
「はいよー」
ぽーん、と海に膝まで入ってビーチボールで遊んでいる女性陣。
対してシートを敷いたりあまり多くない荷物を見張ったりしている男性陣。
「・・・・・・楽しそうだなぁ・・・・・・」
「準備はもう終わるし、混じってきていいぞ」
恋二の呟きにそういう竹内。
恋二は大きく伸びをする。
「んじゃ、ちょいと泳いできます」
「あんまり遠くに行くなよ。
海を舐めてると沖まで流されて帰って来れなくなるぞ」
「はいっす。
足が着かなくなる感覚ってまだ味わったこと無いんでちょっと体験してきます」
「おう」
恋二がゴーグルを手にして海に行ったのを見て竹内も伸びをする。
「俺も少し泳いでくる。
林田はどうする?」
「僕は荷物見てるよ。
適当に泳いだら交代してくれると嬉しいな」
「承知した」
返事をして軽く準備運動をする竹内。
もちろんそのお尻ではハートマークが揺れている。
「ホアッ!」
「!?」
運動を終えるとボディビルダーのような構えを取る竹内。
そして。
「よし、OK」
・・・何が?という余裕も無く「行って来る」と竹内は海に向かって行ってしまった。
海好きなのだろうか?
修也と大紀は近くで砂遊びをしている。
城にするべくまずは大きく盛り上げて山状に。
その頂上にはバスケットボールがあった・・・・・・。
「・・・・・・」
俊介はシートに座りながらその様子を眺める。
とりあえず開けた場所を確保すると、まず麗奈が竹内達にシートや荷物の監視などを命じ、自分達は海で遊ぼうと行ってしまった。
その際、竹内がビーチボールを膨らましている間に周がカバンからバスケットボールを取り出したのだった。
もちろんその様子を見ていた一同は唖然としたが。
「よし、じゃあ軽く「ビーチバスケ」でもやろうか!」
そういいながらドリブルをしようとボールを砂浜に落とした。
ボスッと音を立ててボールは弾むことなく埋まった。
「・・・・・・は、弾まない・・・・・・」
「当たり前でしょ」
麗奈に言われて仕方なくバスケットボールはしまったのだが、大紀が再びそれを取り出して砂上アートのアクセントに使おうとしているらしい。
どんな出来上がりになるか楽しみだ。
「あの~・・・・・・」
「え?」
なにやら声をかけられる。
振り向くと二人組みの女の子がいた。
「お一人ですか?」
「いえ、仲間と来てます」
俊介がそう答えると女の子たちはなにやら顔を見合わせて「すみませんでした~」と去っていった。
なんだろうか今のは。
もしやナンパ?ナンパされたのか?
ふと周りを見ると女に声をかけている男やら男に声をかけている女やら女に声をかけている女やらがいた。
そうか、そういえば海といえばそういうのは付き物かもしれない。
となると女性陣は大丈夫だろうか?
遠目に様子を見るがビーチボールで戯れているだけ、特に男が近寄ってくる様子は無い。
しかしもしあのビーチボールがよその男の方に飛んで行ってしまったらそれをきっかけに声をかけられるかもしれない。
でもまぁ、麗奈さんもいるし大丈夫な気がする、そう思う俊介であった。
それから少しして麗奈が海から出てこちらに向かってきた。
そして自分の荷物から財布を取り出す。
「ちょっと飲み物買ってくるよ。
そしたら代わってやるから、あんたも少しは海に入ってきな」
「え、でも・・・・・・」
「いいからいいから。
あ、そういえばしゅん、アンタさっき女の子に声かけられてたでしょ」
ギクッと反応する俊介。
み、見られていたのか!
「まー、ああいうのはあんたに言ってもしょうがないんだけどね。
あ、ちなみに周は気づいてなかったみたいだから安心しな」
麗奈はそういうと出店のほうに向かって行ってしまった。
そ、そうか、周ちゃんには気づかれてなかったのか。
と悪いことをしたわけではないのだが少し安心した俊介であった。
麗奈はすぐに戻ってきた。
「んじゃ、交代」
「はい、すみません。
でも大丈夫ですか?」
「ん~?大丈夫って?」
「その・・・・・・声かけられたりとか・・・・・・」
タチの悪い男に声かけられたら迷惑になるのではなかろうかと思ってそう言ったのだが、当の麗奈は笑うだけだった。
「いいよいいよ、あたしは大丈夫みたいだから」
「・・・・・・大丈夫?」
「でもさっきの様子を見るともしかしたら周たちは大丈夫じゃないかもしれないね。
あ、もしかしたら男だけチェックしてるのかも。
まぁ、どっちにしろあんたが行って、声かけてくるような連中から守ってやればいいじゃない」
「・・・・・・???」
麗奈が何を言っているのかよく分からない俊介。
だがここは麗奈のお言葉に甘えて海に入ることにする。
「あ、おーいしゅんくん!しゅんくんもやろうよ」
「あ、うん」
周に声をかけられてボール遊びに混じる俊介であった。
「うお!?びっくりした・・・・・・何だクラゲか。
へぇ~、クラゲって意外に感触あるんだな、ぷにぷにしてる・・・・・・。
ちょ!痛っ!なんだ!?刺したのかこいつ!?くっそー!人が撫でてやってたというのに!こいつめ!!」
そのころ、恋二は一人クラゲと戯れていた。
「ふぅ・・・」
ざばっと岩場に上る。
辺りを見回す。
「・・・・・・誰もいない・・・・・・。
・・・・・・戻るか・・・元の海岸はあっちだよな」
そう呟いて再び海にもぐる。
竹内は一人遠泳をしていた。
「あー、楽しかったぁ♪」
シャワーも浴び、着替えも終えた一同は再び駅にいた。
これから電車に乗るところだ。
「やっぱり夏に一度は海に行かないとね」
「あはは、ホントにねぇ」
周の言葉に麗奈が答える。
あれからも色々と遊んだ。
スイカ割りはしなかったが昼食も食べたし、周とまろんを砂に埋めたり、浮き輪にロープをつけて愛奈が乗って俊介に引っ張らせたり。
修也と大紀が作った砂の塔も凄かった。
小窓や螺旋階段まで作られており、その頂上にバスケットボールが見事に乗っていた。
まろんが防水カメラを持ってきていたのでそれで撮影したりもした。
「・・・そういえば結局竹内君はどこまで行ってたの?」
「分からん、けどかなり遠かったかもしれない」
俊介の言葉に疲れた表情で答える竹内。
二組に分かれて見張りをしていたものの、結局竹内が帰って来たのは全員の昼食が終わった後。
適当に買ってきて荷物番がてら一人で食事したのだった。
「くっそ~、あのクラゲめ・・・・・・」
恋二はクラゲに刺された場所を押さえていた。
幸いたまたま近くにクラゲに刺された時の薬を持っている人がいたので一応それで手当てしたのだった。
おそらくすぐに腫れは引くだろう。
なんにしても楽しかった。
電車が来たので乗り込む。
かなり空いていたので全員が座ることが出来た。
「ん」
麗奈はふとカメラを取り出す。
右隣にはまろんが寄りかかって寝ているので起こさないようにそっとだ。
「・・・・・・どうした?」
「ん?いやなに、「あれ」撮っておこうかと思ってね」
左隣の竹内の言葉に麗奈は向かいの座席を指差す。
そしてカシャッとシャッターを押した。
「まぁ、それはいいだろうが・・・・・・お前サングラスくらい取れば?」
「・・・・・・」
ビーチボールで遊んでいた時には確か取っていたサングラス。
竹内が帰って来たときにはもう掛けていた。
それからずっとこのままだ。
着替えて戻ってきてからも掛けている。
「・・・・・・いやぁ、別に・・・特に邪魔じゃないし」
「・・・・・・」
そんな麗奈の反応に違和感を感じた竹内はパッとサングラスを取る。
「あ!ちょ!」
「暴れるなよ、まろんが起きるぞ・・・・・・・・・・・・プッ」
「わ、笑うんじゃないよ!」
そこには綺麗にサングラスの形に日焼けした麗奈の顔があった。
「し、仕方ないだろ!うっかりサングラス掛けたまま横になっちゃったんだから!」
「ああそうだな、仕方ないな・・・・・・クク・・・。
あ、そうだ、お前のそれも撮ってやろうか」
「ちょ!それは勘弁!」
パッとカメラをしまう麗奈。
その様子を見てまた笑う竹内。
麗奈の正面には恋二が周に寄りかかるように、そして周と真美が俊介に寄りかかるように眠っていた。
麗奈が撮ったのは周と俊介のみ。
後で現像した時の二人の反応が楽しみだねぇ、と思う麗奈であった。
「いいか!お前ら!姉さんは明日海に行く!」
「「「「おう!!」」」」
「海といえばナンパな野郎共が女に声をかける場所だ!」
「「「「おう!!」」」」
「もしそんな野郎が姉さんに声をかけてきたらどう思う!?」
「「「「許せねぇ!!」」」」
「そうだろう!俺たちでこっそりそんなナンパ野郎共から姉さんを守るんだ!」
「「「「おう!!!」」」」
麗奈たちが海に行くとどこで聞きつけたのか、不良どもはそんな団結をしていたという。
そして彼らは見事、麗奈本人以外には気づかれること無く任務を果たしたのだった。
「・・・・・・まぁ、あれだけ集まってて、あたしと顔が合っても知らん顔してればねぇ・・・」




