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エアウォーク  作者: 隠戸海斗
第二期
100/102

第二十二話

うむ・・・・・・、今回もダメだったよ。

第四クオーターに入っても海波の勢いは止まらなかった。

敵陣をかき乱して得点を重ね、かと思うと自らを囮に仲間にパスを送る。

変幻自在のスタイルには、時に味方すら虚を突かれる程だった。


かつて全国上位いに食い込み、今もなお名のあるプレイヤーとして知られている悠里ヶ丘OBのメンバーが、事もあろうにたった一人のプレイヤーに翻弄されているのだ。



そして、



そして、



試合終了のブザーが鳴る。



悠里ヶ丘OB 59-68 新生悠里ヶ丘



誰もが「まさか」と思った。


高校生を中心に構成された6人組。

しかも女も混じっている。


それが大学でも注目されている悠里ヶ丘のOB5人を、最後の10分にはほとんど一方的に翻弄していたのだから。


そしてそれは勝者である周達も例外ではない。


もちろん勝つ気はあった、絶対に負けるものかと思っていた。


しかし、まさかそれが実現しようとは。


しかもそれは、本人は否定するだろうが、たった一人の男によるものなのだ。


ハイタッチを交わして喜びを分かち合いながらも、その胸の中には他の感情もあふれていた。



これだけの事を成し遂げた海波に対する憧れと、共に戦えた喜び。


これだけの事を一人にやらせてしまった謝罪。


これだけの事を一人で成し遂げたことに対する驚きと、


ほんの少しの畏怖。




観客達の喜びと驚きも凄いものだった。


高校生達は周達に駆け寄り賛辞の言葉を浴びせてもみくちゃにしたり胴上げしたり、


OBのファン達はこれだけの試合を見せてくれた彼らに称賛の拍手を送ったり。



「くっそぉおおおお!!」


ドォン!と体育館の床を叩く音が響く。


野伊が両拳を叩きつけていた。


そんな野伊の肩をノブが叩く。


「・・・・・・物に当たるな、手も足もバスケでは大事な武器だ、悔しさは練習にぶつけて糧としろ、だろ?」

「・・・・・・ケッ、コーチと同じ事言ってんじゃねぇよ」


一言ずつ交わしただけで野伊は立ち上がる。


それを見て周達も彼らの前に立つ。


まだ終了の挨拶をしていなかったから。



影山先生と共にコートの中央に整列する。


「59-68、新生悠里ヶ丘チームの勝利です!」

「「「「「ありがとうございましたぁ!!!」」」」」


両者頭を下げ、そして握手を交わす。


キャプテン周の前には、相手キャプテンのノブ。


「・・・・・・強かったです、ノブさん」


周がそう言うと、ノブは周の頭をくしゃくしゃと撫でる。


「うにゃ・・・!」

「・・・・・・俺達に勝ったんだ。

 もう負けは許さないぞ」


ボソッとそう告げた。

周は乱れた髪の毛をポンポンと直しながら返事をする。


「はい」



少しずつずれて全ての選手と握手を交わす。



カズと周が握手を交わす。


「今日のところは負けを認めよう。

 だが、次は無いぞ?


 何を隠そう、俺にはまだリミッターが10個かかってるからな」


「ええっ!?

 い、いえ!実は私にもまだリミッターが20個・・・・・・!」

「な、なんだってー!?」



吉田と麗奈が握手を交わす。


「いいテクしてたぜ、後半スタミナ切れてたみたいだが」

「ありがと。

 そっちも立ち回り参考になったよ」



上松と竹内が握手を交わす。


「中々いい高さだった。

 もう少し年の差が狭ければうちの大学に誘いたかったな」

「・・・・・・そりゃどうも」



カズとまろんが握手を交わす。


「またいつか会おう。

 安心したまえ、俺の守備範囲は広いから(恋愛的な意味で」

「え?え、えっと・・・・・・わ、私だって負けません!(バスケ的な意味で」



野伊と麗奈が握手を交わす。


「あの・・・・・・もしよかったらなんだけどよ、連絡先教えてくれねぇか?」

「出直して来な」



カズと海波が握手を交わす。


「今日のところは負けを認めよう。

 だが、次は無いぞ?

 何を隠そう、俺にはまだリミッターが50かかってるからな」


「コーチに怒られて本気出すとか言ってたくせに」



そして


ノブと海波が握手を交わす。


「・・・・・・お前が大学生かどうかなんてどうでもいい。


 俺達とバスケしないか?」


「え?」


声を上げたのは周だった。

つられて他のメンバーも海波達に目を向ける。

OBの他のメンバーもそんな話は聞いてなかったのだろう、同じくノブの方に目を向ける。


「・・・・・・確かに一応大学には所属している。

 が、バスケなんて無縁な所だからな」

「それでも構わん、練習だけでもいい。

 頼む、俺達とバスケをしてくれ」


海波の言葉にも構わず、ノブはそう告げる。


海波はフッと笑った。

「さて、どうするかな?」などと言った雰囲気は欠片も見せず、既に答えが決まっているかのように。



「・・・・・・悪い、無理だ」



そう言って、海波は周の方に向き直った。



「先約があるからな」



先に、一緒にバスケをしようと誘ってくれたのは周。

だから、自分はこいつらと一緒に成長していきたい。

そういうことなのだろう。



当の周本人はキョトンとしていたが。


「・・・・・・なら、たまにでいい。

 うちのチームにとってもいい刺激になるからな」

「・・・・・・たまに、でいいなら考えておこう」



そうして二人は別れた。




「・・・・・・」

「・・・・・・」


周達と別れ、片付けた後の帰り際、影山先生がノブ達の前に現れた。


「・・・・・・済みません、コーチ。

 負けてしまいました・・・・・・」


ノブの言葉と共に、一同で頭を下げる。

それはまるで「あなたの期待に応えられなかった」「あなたのコーチとしての実力を示してやることができなかった」と言っているようだった。


それを見て影山先生は小さく笑う。


「・・・・・・みんな、よく頑張りました。


 ・・・・・・あの男は予定外・・・・・・」


「コーチ、あの時と同じことを言わないでください」


影山先生の言葉を、カズが遮る。

言われて、影山先生は「その時」の事を思い出したようだった。



「・・・・・・そうでした、シンジに言われましたね。


 「予定外なんてものは無い。

  自分達が教えの通りに実力を発揮できていれば、あらゆることに対応できるはずだ。

  それができなかったのは自分達が未熟なのであり、コーチに不備は無かった」と。


 私はその時そんなことは無いと否定しましたが・・・・・・、今も否定させてもらいますよ。


 「あなた達は強い。

  いつも以上の実力を出せた。

  それで負けたのは私の采配ミスです」とね。


 あ、今日は別に私が采配を出していたわけではないですがね」


「そう、つまり副部長たる俺の責任なのです、コーチ」

「いや、それは違うだろ」


カズの言葉に吉田が突っ込みを入れる。


そんなやり取りに、彼らにも笑顔が戻った。



「・・・・・・また時々会いましょう」

「「「「「はい!」」」」」


一同は揃って影山先生に頭を下げた。



「・・・・・・行こうか」


やがてノブの言葉を合図に体育館を出ようとするOB達。



「ノブさん!!」



そんな彼らを、周が呼びとめた。



「今日は本当に!!ありがとうございました!!」


「「「「「ありがとうございました!!」」」」」


周が頭を下げるのと同時に、新生悠里ヶ丘のメンバーが頭を下げる。


全員が揃って、感謝の気持ちを告げた。



それを受けて、ノブ達も整列する。


「こちらこそだ・・・・・・ありがとうございました!!」

「「「「ありがとうございました!!」」」」



ザッと頭を下げた。



こうして、悠里ヶ丘OBと新生悠里ヶ丘の対決は終わった。



「さて、諸君」


影山先生が周達に告げる。


「約束ですからね。

 ここ10日間も合い間にこの体育館を使っていましたが、今後も継続して使っていくことを許可しますよ」

「やったー!!」


そう、約束通り体育館での練習が許可されたのだ。

先程までの試合の疲れもどこへやら、周は飛び跳ねて喜んだ。

さすがに他のメンバーにそんな真似ができる体力は残っていない。


「そうだ!先生!

 この試合に勝ったらもう一つお願いしようと思っていたんです!

 先生!私達のコーチをしてください!」


周はそう言って影山先生に頭を下げる。

急なことに流石の影山先生も「おやおや」と頭を掻く。


「困りましたね。

 バスケ部の指導が無くなってからと言うもの、別の仕事をあれこれ頼まれているのですが・・・・・・。


 まぁ、顧問は必要ですしね。

 時間が空いている時でよければ」

「ありがとうございます!!」


バッと再び頭を下げると、「やっほーい!」と仲間の元へダイブする。

本当に元気だ。

影山先生はそんな周を微笑ましげに見ていた。



「・・・・・・あなたを見ていると、バスケ好きだった彼女の事を思い出しますよ」




「ちょっと待ちなさい!」


体育館の使用許可に加えコーチを手に入れたことで喜んでいた周達の元に声をかける者がいる。


「誰!?」

「私よ!」


周が振り向いた先にはこちらにズビシッと指を向けているいいんちょこと近藤恵がいた。


「何だ、いいんちょか」

「何だとはご挨拶ね、皆で応援に来ていたというのに」


その後ろには野澤さんや凪さんや、蓮井くんと宇喜多くん、そしてクラスメイト達であった。


「みんなー!応援ありがとー!!」


周が手を振るとクラスメイト達から歓声が上がる。

人気者だ。


「ちょっと!それより話すことがあるの!」

「何?いいんちょ?」

「委員長です。

 斉藤さん、あなた部活をやるってことは、部費を決めて設備を整えたり、体育館を使用する日程を決めたり、活動報告書を書いたり、色々と忙しいのよ。

 あなたにそれができるの?」


突然の言葉。

周は首を傾げるのみだ。


「え、私中学の頃そんなのやったことないけど・・・・・・」

「じゃあ部長とか副部長がやったんでしょうね」

「部長は私です」

「じゃあ副部長よ。

 部活をやる高校生たるもの、部長・・・・・・この場合キャプテンのあなたがそれくらいやるのが当然よ」

「うぐ・・・・・・」


押し黙ってしまう周。

そこに俊介が助け船を出す。


「それくらいなら僕が・・・・・・」

「林田君は黙ってて」

「・・・・・・はい」


有無を言わさぬ言葉に思わず黙ってしまう。


バスケができればいいと思っていた周に頭を使う作業は難しい。

恵もそれを承知の上で言っているのだろう。

しかし決してバスケの活動に反対なわけではない。

クラスメイトだし、友人だし、困るのは林田俊介だし。


では何が言いたいのか?


「あなたにはやるべき作業がある。

 林田君だって練習は必要だし、任せっきりにするわけにはいかない。

 そうでしょ?」

「・・・・・・はい、そうです」


周はショボーンとしている。

先程までの喜びもどこへやら。


やがて恵は腕組みをしてフンッと顔を逸らしながら告げた。


「・・・・・・ボソボソ・・・・・・なんじゃない・・・・・・?」

「え?何?」


良く聞こえなかった。

周が聞き返すと恵は何だか赤い顔で再びそれを告げた。



「・・・・・・マネージャー・・・・・・とか・・・・・・必要なんじゃない・・・・・・?」

「マネージャー?

 マネージャーって言うと、疲れた時に蜂蜜漬けのレモンとか振舞ってくれたり、冷たいタオルをくれたり、そのタオルの中にラブレターとか包んだりする人の事?」

「何その偏った知識!?」


間違ってはいないが今時いるのだろうか?そのような人材が。


それはともかく。


「マネージャーよ、マネージャー!

 そう言う雑務を引き受ける人を加えればいいじゃないって言ってるのよ!」

「なるほど!」


ようやく言いたいことが分かったらしい周はポンと手を叩く。


「ありがとういいんちょ!

 そんな大事な事を教えてくれて!」

「い、いいのよ、別に。

 そ、それでね、その、マネージャー・・・・・・よければ、その・・・・・・私が・・・・・・」


「じゃあ、私が冷たいタオルを渡すマネージャーをやる!

 まろんちゃんはその中にラブレターを仕込むマネージャーね」

「ええっ!?」

「で、麗奈ちゃんは蜂蜜漬けのレモンを振舞うマネージャー」

「あたし、そういうの作るの苦手なんだけど」

「そうなの?じゃあ、チアリーダーの服装して応援するけど転んじゃって、誰かに助けてもらいながら「えへへ、転んじゃった」っていうマネージャーね」

「それ、あたしのキャラじゃなくない?」

「その他雑務をやるマネージャーはしゅんくんね」

「え?あ、うん・・・・・・」

「竹内君は・・・・・・大きな応援団旗を持って応援するマネージャーね」

「それマネージャーじゃねぇだろ」


「話を聞きなさーい!!」


一人はしゃぎ始めた周を諫め、恵は再び周を指差しながら告げた。



「わ、私がマネージャーになってあげてもいいわよ!?」


「ええー!?」


予想外の言葉を聞いたように驚く周。


「そんな・・・・・・でもいいんちょにも部活とかあるんじゃないの?」

「・・・・・・つ、都合良く、私部活に入って無いの」


そう、恵は部活に入っていない。

そこには愛しの誰かと一緒の部活に入ろうと思っていたけれどもその誰かが部活に入っていないからという事情があるのだが。


「だから!私がマネージャーをやってあげてもいいわよ!?」


何とも押しつけがましい。

しかしそんな事を気にしない周は喜んで恵に抱きつく。


「ありがとう!いいんちょ!凄く助かる!」

「ちょ!べ、別に!ただちょっと時間があるだけなんだからね!?」



こうして、新生悠里ヶ丘は新たな練習場所とコーチとマネージャーを一度に手に入れたのだった。



実はmixi連載時、二十一話と二十二話の間で一年半以上悩みに悩んだのです。

どーしても試合の締めが思いつかず、このような形にまとめざるを得ず、また今回連載までにどうにもまとまらなかった実力不足をお詫び申し上げます。

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