プロローグ ―勝者の履歴書―
「それでは最後に、自己PRをお願いします。」
面接官が穏やかな笑みを浮かべる。
私は軽く一礼し、背筋を伸ばえた。
「はい。本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。」
言葉が自然と口をついて出る。
四年間、この日のために準備してきた。
「私の強みは、課題を分析し、論理的に解決へ導く力です。」
面接官がうなずく。
「大学では経済学を専攻し、ゼミでは地域商店街の売上分析を行いました。
また、独学でプログラミングを学び、Pythonを用いたデータ分析ツールを制作しました。」
「ほう。」
「さらに、英語はTOEIC920点を取得しております。
海外企業との共同研究では、英語によるプレゼンテーションも担当しました。」
面接官の一人がメモを取る。
「資格としては、基本情報技術者試験、応用情報技術者試験を取得しています。
加えて、クラウド技術についても学習し、個人でシステムを構築した経験があります。」
「では、当社でどのような仕事がしたいですか?」
「現場の課題をITで解決するだけではなく、経営視点から企業全体を改善する仕事に携わりたいと考えています。」
言い終えた瞬間、面接官たちの表情が柔らかくなった。
――いけた。
手応えがあった。
「おめでとうございます。」
画面に表示された文字を見た瞬間、思わず声が漏れた。
『内々定』
第一志望。
国内有数の大企業。
続けてメールが届く。
『採用内定通知』
『採用のお知らせ』
『最終選考合格』
スマートフォンには次々と通知が表示される。
大学の友人たちからは、
「また受かったのか!」
「何社目だよ!」
「さすがだな!」
そんなメッセージが次々と届いていた。
私は空を見上げた。
「やった……。」
思わず拳を握る。
四年間。
遊びたい日もあった。
眠い日もあった。
それでも勉強し続けた。
努力は裏切らなかった。
未来は明るい。
そう信じていた。
「これからだ。」
その瞬間だった。
背後から、誰かが叫ぶ。
「逃げろ!」
振り向く。
黒いフードを被った男が、こちらへ走ってくる。
右手には、鈍く光る刃物。
何が起きたのか理解するより早く、衝撃が腹を貫いた。
「え……?」
身体から力が抜ける。
スマートフォンがアスファルトに落ちた。
画面には、まだ『内々定おめでとうございます』の文字が映っている。
視界が赤く染まる。
遠くで誰かが叫んでいる。
救急車のサイレンが近づいてくる。
(嫌だ……。)
(まだ、働いてもいない。)
(せっかく、ここまで来たのに……。)
(俺の努力は……。)
意識が闇へ沈んでいく。
最後に見えたのは、春の青空だった。
そして、その空がゆっくりと白い光へと変わっていく。
――目を開けると、そこには見たこともない石造りの天井があった。
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