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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
第29章 ネタバレシード――神様の仕様書を読みに行きます

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魔王役割表――ゼルドが怒っていい書類

ゼルドの怒り、さらに深掘り。

魔王は便利な壁でも、勇者育成用ボスでもありません。

魔王さん、正式に殴る準備へ。


 魔王役割表の詳細版は、黒い表紙だった。


 表紙の端には、魔王軍の紋章に似た飾りがある。けれど、ゼルドがそれを見た瞬間、眉間のしわが深くなった。


「これは魔王軍の正式様式ではない」

「偽物?」

「神々が、それらしく作ったのであろう」

「神様、勝手に魔王軍っぽいデザイン使ったの?」

「余の許可は出しておらぬ」

「著作権とかない世界でも怒っていいやつ」


 ベルが無言で別紙を出す。


【紋章意匠無断使用に関する抗議文】


「もう用意してる」

「当然です」


 詳細版を開くと、そこにはゼルドの配置記録が並んでいた。


【シード066:初期村隣接魔王城】

【目的:勇者の早期死亡圧力】

【想定結果:勇者死亡ログ取得】


【シード100:魔王城地下帰還門配置】

【目的:帰還因子探索誘導】

【想定結果:魔王討伐誤認維持】


【複数シード共通】

【役割:最終試験官】

【敗北後:世界崩壊点固定】


 コヨリは、途中でゼルドを見上げた。


「魔王さん」

「何だ」

「怒っていいよ」

「すでに怒っている」

「静かすぎてこわい」


 ゼルドは、ゆっくり息を吐いた。


「余は魔王だ。勇者と戦うことそのものは、否定せぬ」

「うん」

「だが、敗北するために立てと言われた覚えはない」


 黒い魔力が、机の上で揺れた。書類の端が少しだけ浮く。ベルが即座に文鎮を置いた。


「魔王様、書類が飛びます」

「すまぬ」

「怒りは申立書にお願いします」

「分かった」


 魔王が怒りを申立書に書く。すごい光景だった。コヨリは、これを第1話の自分に見せても絶対に信じないだろうと思った。魔王はラスボスで、倒せば帰れる。そう聞いていたのに、今は魔王が神様への苦情文を書いている。


 詳細版の最後に、嫌な項目があった。


【魔王側記憶保持:非推奨】

【理由:勇者との共闘可能性が上がるため】


 ゼルドの目が、さらに冷える。


「ほう」

「魔王さん、今の『ほう』、こわい」

「勇者との共闘が、不都合であったらしい」

「神様にとってはね」

「ならば、なおさら共闘する価値がある」


 ベルが頷いた。


「魔王様。こちら、共闘妨害に関する追記欄です」

「今書く」


 コヨリは机の端からペンを一本取った。太い。幼女の手には少し大きい。


「わたしも書く」

「勇者様、何を」

「魔王さんは便利な壁じゃない、って」


 ゼルドが少しだけ目を見開いた。


「勇者が、それを書くのか」

「書く。だって、わたしも便利なテスターじゃないもん」


 コヨリは、字を大きく書いた。


【魔王さんは、便利な壁じゃない】

【勇者も、便利なテスターじゃない】


 字は子供っぽい。線も揺れている。けれど、ゼルドはその文字をしばらく見ていた。


「幼き勇者」

「なに」

「感謝する」

「うん。あとで神様殴る時、手伝って」

「無論だ」


 ログルの宝石に、静かなログが浮かんだ。


【魔王側異議申立:成立】

【帰還最終シード支援候補:魔王の影】

【特殊効果:ラスボス役割表破損】


「魔王の影って強そう」

「強いです」

「でも味方?」

「今回は」

「今回はって言わないで」


 ゼルドは、黒いマントを整えた。


「勇者よ。深層で余の影が現れたなら、迷わず使え」

「魔王さんをアイテムみたいに使うの?」

「神に役割として使われるのは不快だが、余が自分で貸す影ならば構わぬ」


 コヨリは少し考え、うなずいた。


「じゃあ、ちゃんと借りる」

「それでよい」


 ベルが最後に、殴打順申請書をゼルドへ差し出した。


「魔王様、主神様への攻撃ターン希望欄です」

「一番強く殴れる位置を希望する」

「承知しました」


 コヨリは笑った。


 書類の山の向こうで、魔王が怒っている。けれど、その怒りはコヨリを怖がらせなかった。


 同じ方向を向いた怒りだったからだ。


ゼルドは、怒りを書き終えると、今度は魔王軍の部下の名簿を一枚足した。そこには、シードごとに違う配属、消えた部隊、再生成で別人のような配置になった兵たちの名前があった。


「余だけではない」


 ゼルドは言った。


「余の部下もまた、役割として並べられていた」


 コヨリはその名簿を見て、魔王城を敵の基地としてだけ見ていた頃の自分を思い出した。知らなかったことは罪ではない。でも、知ったあとに知らないふりはできない。


ベルは名簿の横に、深層支援候補の欄を作った。魔王の影だけではなく、魔王軍の盾、厨房の火力、補給路の記憶。どれも本物を持ち込むわけではないが、記録としてならつながる可能性がある。


「魔王軍、便利」

「便利と言われると複雑だ」

「じゃあ、頼れる」

「それならばよい」


 ゼルドは少しだけ満足そうにうなずいた。


役割表の最後には、余白が残っていた。ゼルドはそこへ、ゆっくりと書き込む。


【魔王は、自分の意志で勇者を支援する】


 その文字が浮かぶと、管理画面の役割表に小さな亀裂が入った。神様の決めた役割に、本人の意思が割り込んだ音だった。

【今回の勇者ステータス】

現在シード:管理画面シード/ネタバレシード

死亡回数:1100回(この話では増加なし)

クラス:帰還者/死因学者/拠点管理人 複合状態

基本スキル:【基本ローグライクスキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

獲得済み主要スキル:【危険察知 Lv.3】【未識別警戒 Lv.3】【足元確認 Lv.3】【射線確認 Lv.2】【満腹度管理 Lv.2】【帰還接続管理 Lv.1】【相棒再分類拒否 Lv.1】

【今回の新規獲得・更新】

新規獲得:【魔王の影連携 Lv.1】

拠点施設:【椅子】【死因図鑑室】【鑑定机】【厨房】【思い出ログ棚】【罠訓練場】【魔物休憩所】【シード地図室】【反省会テーブル】【拠点酒場】【魔王相談窓口】【魔王軍資料室】【死因研究室】【仕様書保管棚】【一フレーム道場】【帰還門建設予定地】【管理画面の扉】


【登場人物紹介】

・この話の焦点:魔王役割表を壊し、ゼルドが自分の意志で支援する流れを作ります。

・コヨリ:神様の仕様書を読む側に回った幼女勇者。怒りと怖さを抱えつつ、帰る意志だけは曲げない。

・ログル:解析神獣。端末扱いから相棒へ再分類されつつある。冷静だが、もう完全に情がある。

・ゼルド:魔王。ラスボス役を押しつけられていた被害者代表。怒り方が静かで怖い。

・ベル:魔王軍秘書。正式抗議文で神様を詰める有能事務担当。書類は物理的にも重い。


【ローグライクあるある解説】

過去ボスが支援影になる準備。深層では過去に苦戦したボスのギミックを味方として再利用する、ローグライク的な「過去資産の転用」です。


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