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『千回死亡幼女勇者』 ――神様のクソゲー異世界だけど、拠点だけはリセットされません――  作者: 勇者ヨシ君
1章 チュートリアルで死ぬ幼女勇者

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神様ァ! 仕様書出して!

これは、わたしが死にすぎた話。

一番最初の死に方は、覚えていません。

多すぎて。

 ――百三十七回目の死因は、宝箱だった。


 可愛い金色のふたを開けたら、中身は金貨じゃなくて歯だった。びっしり。歯医者さんが悪夢で見るやつ。


「うわっ、宝箱界の校則違反!」


 噛まれた。死んだ。


 ちなみに百三十六回目は、薬草に見えた爆発草。百三十五回目は、安全に見えた落とし穴。百三十四回目は……まあ、いい。思い出すと泣くから。


 共通点を言おうか。

 ぜんぶ、「だいじょうぶそう」だった。


 この世界で一番信用しちゃいけない言葉、それが「だいじょうぶそう」。わたしはそれを、百三十七回、命で学んだ。学費が高すぎる。


 ——で。


 なんで小学生のわたしが、幼女の体で、宝箱に噛まれて死んでいるのか。


 これは、ずっと先のわたしの話。

 でも、最初からこんなに死に慣れていたわけじゃない。

 最初のわたしは、HP15の意味すら分かっていなかった


 話は、一番最初の真っ白い部屋まで、巻き戻る。


 白い。

 目を開けたら、白だった。床も、壁も、天井も。どこからが床でどこからが壁かも分からない、のっぺりした白。


 自分の手を見る。


 小さい。


 いや、わたしはもともと小学生だから手は大きくない。でもこれは小さすぎる。指が短い。腕が細い。膝が丸い。なんか知らない革靴を履いている。服は、白と青の勇者服(ゆうしゃふく)みたいなワンピース。


「......なにこれ」


 声まで、ちょっと幼い。


 わたし、天野(あまの)こより。中身はただの小学生で、特技はゲーム。なのに気づいたら、自分より小さい自分になっていた。情報量が多い。朝起きていきなりこれは、さすがに処理が追いつかない。


 目の前に、ふわっと光が集まった。


 やたら顔のいい青年が現れる。白い神官服。笑顔が軽い。コンビニで新作スイーツを勧めてくる店員くらい軽い。


「やあ、勇者ちゃん。起きたね」

「だれ」

「僕は主神(しゅしん)アドミニス。この世界の管理者。分かりやすく言うと、神様!」


 青年が、自分で拍手した。


 わたしは一歩下がる。知らない場所で、知らない人に、自分から「神様」と名乗ってくる人は、だいたい怪しい。ゲームなら序盤の詐欺NPCの立ち位置だ。


「帰っていい?」

「早いね!」

「知らない場所で、知らない人に、神様って言われたら帰るよ。常識」

「その判断力、いいね。勇者向きだ」

「勇者向きってなに。聞いてないんだけど」


 アドミニスは、待ってましたと両手を広げた。

「きみには、剣と魔法の世界へ行ってもらいます!」

「行かない」

「仲間を集めて!」

「集めない」

「魔王を倒す!」

「倒さない」


「そして、元の世界へ帰る!」

「行く!!」


 即答した。


「いい返事!」


「今のは返事じゃなくて条件確認。魔王を倒したら、元の世界に帰れるんだよね?」

「可能性は、とても高いよ」

「保証は」

「勇者ちゃん、細かいね」

「命かかってるからね!」


 アドミニスが、指で空中に小さな四角を描く。光る板が浮かんだ。


【クラス決定】

【対象:天野こより】

【異世界名:勇者コヨリ】

【初期クラス:勇者】

【初期装備:木剣予定/小盾予定/薬草予定】


【初期レベル:Lv1】

【最大HP:15】

【現在HP:15/15】

【基本スキル:一手一動ワンターン・ワンアクション

【状態:未自覚】


「待って。HP15って少なくない?」

「勇者ちゃん、最初はみんなそんなものだよ」

「みんなって誰!? ほかにも幼女を投げ込んでるの!?」

「細かいところに気づくね。いいテスターになれるよ」

「勇者って言ったよね!? いまテスターって言ったよね!?」


 光る板の最後に、さらに小さな文字が出た。


【補足:危険地帯では、勇者の一手に世界が同期します】


「同期ってなに」

「行けば分かるよ」

「分からせる前に説明して!」

「説明より体験の方が早いからね」

「神様ァ! チュートリアルの意味を辞書で引いてえええええええええええええええ!」

「事故っても次があるから、実質セーフ!」

「その言い方、だいたい事故るやつ!」


 ……ん?

 いま、聞き捨てならないことを、すごく軽く言わなかった?


「ねえ。今、“次がある”って言った?」

「言ったかも」

「“次”ってなに。死んでも、やり直せるってこと?」


「細かいことは、体で覚えるタイプで!」

「神様ァ! 仕様書出して!」

「仕様書は、ありません。体験しながら本編です」

「最悪のチュートリアル!」


 足元に、丸い光が広がった。風もないのに、勇者服の裾が揺れる。


「待って。せめてセーブの方法を」

「セーブ?」


 神様は、きょとんと首をかしげた。


「あるといいね!」

「ないの!?」


 床が、消えた。


 体が落ちる。白い部屋が遠ざかる。神様の声だけが、やたら明るく追いかけてきた。


「がんばってねー!」

「説明不足で送り出すなあああああああああああああああああああああ!」


 次の瞬間(しゅんかん)、わたしは青い空の下に落ちて、顔から草むらに突っ込んだ。


 初めての異世界は、草の味がした。

 ……このときのわたしは、まだ知らない。


 この「だいじょうぶそう」な世界が、百三十七回どころじゃ済まないってことを。


 そして、何回死んでも消えない場所が、たった一つだけできるってことも。

〈今回のステータス〉

勇者のクラス:勇者

保有スキル:なし

死亡回数:0

拠点施設:なし

※冒頭の「百三十七回目」は、ずっと先のこよりです。物語は、ここからゼロ回で始まります。


〈設定メモ〉

・主神アドミニス……この世界の管理者。とにかく説明をしない。悪気はない。たぶん。

・「だいじょうぶそう」……この世界で最も死に近い言葉。覚えておくと、こよりより長生きできます。


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