■第16章:深掘り
やめておけばよかった。
そう思ったのは。
何度目か、わからない。
「……」
暗転。
無音。
赤い点。
——REC。
「……」
もう、躊躇はない。
指が動く。
こめかみ。
押す。
進める。
戻す。
探る。
「……」
映像が、流れる。
過去。
人。
街。
音。
全部。
繋がっている。
「……」
精度が、上がっている。
昨日より。
明らかに。
狙った時間に、近づいている。
ズレはある。
だが。
小さい。
「……いける」
小さく呟く。
さらに押す。
加速。
景色が流れる。
何年も。
何十年も。
まとめて。
「……っ」
頭の奥が、痛む。
だが。
止めない。
止めたくない。
「……」
見える。
繋がる。
理解できる。
それが——
気持ちいい。
「……」
息が、荒くなる。
視界の端。
数字。
バー。
点。
全部が、はっきりしてくる。
「……」
指の動きに、反応する。
空間が。
時間が。
素直に従う。
「……はは」
笑いが漏れる。
抑えられない。
「……見えるやん」
全部。
繋がってる。
そう思った瞬間。
——ズレる。
「……?」
違和感。
ほんの一瞬。
映像が、引っかかる。
「……」
止める。
少し戻す。
もう一度、進める。
「……」
同じ場所。
同じ時間。
のはず。
なのに——
違う。
「……なんや、これ」
人の位置が。
微妙に違う。
歩き方。
視線。
仕草。
全部が、わずかにズレている。
「……」
もう一度、巻き戻す。
進める。
止める。
「……」
同じ。
でも違う。
完全には一致しない。
「……」
喉が、乾く。
「……記録ちゃうんか」
呟く。
録画なら。
同じになるはず。
何度見ても。
「……」
これは——
「……なんや」
答えは、出ない。
だが。
違和感だけが、積もる。
「……」
さらに、進める。
もっと前へ。
もっと深く。
「……っ」
痛みが、強くなる。
こめかみ。
奥。
脳の内側。
直接、掴まれているみたいに。
「……まだ」
止めない。
止めたくない。
あと少し。
もう少しで。
「……」
視界が、ぶれる。
ノイズ。
音が歪む。
色が、にじむ。
「……っ」
それでも。
指は、動く。
進める。
探る。
「……」
そのとき。
ふと。
違う映像が、混ざる。
「……?」
知らない場所。
知らない部屋。
知らない人間。
「……」
止める。
戻す。
確認する。
「……」
さっきの場所。
さっきの時間。
のはず。
なのに——
「……なんで」
違う。
「……」
呼吸が、乱れる。
頭が、熱い。
「……」
次の瞬間。
さらに、別の映像。
また違う。
違う時間。
違う場所。
「……」
混ざっている。
重なっている。
境界が、ない。
「……」
その中に。
ふと。
見覚えのある景色。
「……」
自分の部屋。
今の部屋。
同じ机。
同じ配置。
「……は?」
思わず、声が出る。
視点が、違う。
自分じゃない。
少し上。
少し離れた位置。
「……」
そこに。
“自分”がいる。
座っている。
スマホを見ている。
今と同じ姿勢。
「……」
呼吸が、止まる。
「……これ」
言葉が、出ない。
「……」
ゆっくりと。
顔を上げる。
現実の部屋。
同じ。
何も変わらない。
「……」
もう一度。
視界に戻る。
映像の中。
“自分”。
「……」
わからない。
どっちが。
本物か。
「……」
頭の中で。
何かが、崩れる。
音もなく。
静かに。
「……」
記憶が、浮かぶ。
昔のこと。
子供の頃。
家。
親。
「……」
それと同時に。
別の映像。
同じ“過去”なのに。
微妙に違う。
「……」
どっちが。
本当の記憶か。
わからない。
「……」
いや。
「……どっちも、違うんか」
ぽつり、と出る。
「……」
息が、荒い。
頭が、熱い。
冷たい。
わからない。
「……」
そのとき。
ふと。
声がする。
遠くで。
近くで。
「……もうええって」
澪の声。
「……」
はっきりと。
聞こえる。
「……」
その瞬間。
指が、止まる。
操作が、切れる。
——暗転。
無音。
「……っは」
強く息を吐く。
視界が戻る。
部屋。
現実。
「……」
膝が、震えている。
手も。
止まらない。
「……なんや、今の」
呟く。
声が、かすれる。
「……」
頭の奥が、じん、と痛む。
鈍く。
重く。
残る。
「……」
さっき見たもの。
自分。
過去。
混ざった映像。
「……」
思い出そうとする。
だが——
思い出せない。
輪郭が、曖昧になる。
「……」
どこまでが。
自分の記憶で。
どこからが。
“記録”なのか。
「……」
わからない。
完全に。
「……」
視界の端。
赤い点。
——REC。
それが。
ゆっくりと。
点滅している。
まるで——
まだ続いている、と言うみたいに。




