決着と運搬係のログイン
何故か仕事にアホみたいな余裕が生まれたので投稿してみたり
石像の肩を殴る。
衝撃に耐えて、石像は反撃を返そうとするがその前に矢が膝に命中する。
姿勢を崩す石像。その隙に顔に拳が刺さり吹き飛ぶ。
「かったい!!」
「はいはいあと四発ー」
「ヨロコンデー!!」
すでにこれを八回は繰り返している。
普通のプレイヤーなら、俺の能力値から繰り出される一撃を食らえばそれだけで倒せるのに。
これがあるから一人で挑みたくないんだ。こんなの難しくするな。
でももう勝ちの流れだ。
そろそろ終わらせてやろう。
吹き飛んだが壁にぶつかる前に何とか耐えた石像が再度こちらに向かってくる。
前かがみで腕を前に出した姿はまさに獣人の動き。
石像のくせに素早く、それでいて柔軟性もある。
でも、その動きはもう何度も見た。
そうだ。使う気は無かったが、ちょっと練習台になってもらおうか。
突き出された拳を躱して間合いの内側に入り込む。
そして伸びた腕を掴み、脚を払って上に投げる。
「アルチャ氏!!」
「はいよー!」
上に投げ飛ばされた石像に矢が殺到する。
言われてなかったけどやっぱり構えてたな跳弾矢。まぁ今回はそれだけじゃなさそうだが。
矢の衝撃で姿勢を整えることも出来ない石像が落ちてくる。
それに合わせて体を回転させ・・・タイミングよく足を振り切る!
するとナイスタイミングで蹴りが命中。
石像がまた吹き飛ぶ。
だがやっぱり普通に強化されているらしく、蹴りを受けてなおすぐに体勢を整えて着地した。
「ヒュー。これはこれは・・・え、これ初心者突破出来るんか」
「ちょーっと流石におかしいかねぇこれは」
今ので倒れ込まないとすると普通の能力値による攻撃だとまともに隙を作れないんじゃないか?
だとすると一人で倒すのはかなり厳しいことになる。
うーん。これだと正直難易度設定としてはちと問題な気もするが。
でもとりあえず今回は勝ちだ。
もうすでに、準備は終わっている。
「それじゃアルチャ氏。お願いしまーす」
「えー?なんのことー?」
「嫌だなぁ。あの矢、普通のじゃないでしょ?」
「あら。やっぱり分かってたか。じゃあ仕方ない」
そういうとアルチャ氏は何かを手元で押すような仕草をする。
すると石像にあちこちに刺さっていた矢が爆発を始めた。
何となく矢の中央くらいに何かあるのが分かっていた。
矢の加工の中にある物を考えて、あの石像に有効そうな物を考える。
すると爆裂加工という改造に思い至る。
まぁ予め言われては無かったので、俺の見立てでしかなかったが。
各部が内部から爆発した石像は流石にもう動けないのか、大地にその体を預けている。
だが腕だけは武器部分だからなのか、まだ健在のようで腕だけで体を支えようと踏ん張っている。
「うわぁ。もはやここまで来ると違う攻略法があるんじゃないかってレベルだわ」
「流石に強すぎっすね。ちとトドメさしてきますわ」
「お願いね」
一息でジャンプして上から頭を押しつぶす。
体力的に既に限界だったらしく、それだけで完全に石像は動かなくなった。
「はいお疲れさんでしたー」
「お疲れー」
戦闘終了。意外と苦戦したな。
苦戦と言うか、何か物理的に硬かった気もするが。
でも勝ちは勝ち。後で運営には文句を言いたい。
「それで?スキルは出てきたの?」
「えーっと・・・ああ、出てます・・・???」
「ん?どうかした?」
「いや。何か・・・変な武器あるんですけど」
「はい?ここ武器まで手に入るの?」
「いやそんなものは」
そんなはずはないんだが。
ここはあくまでもスキルを得るところ。
ゲームに慣れ始めた初心者が、新たにぶつかる壁。または力を得るための場所だ。
武器自体は強さには直結・・・することもあるが、大半のプレイヤーは武器が変わったところで大きくは変わらない。
だからここで武器が手に入るのはちょっとだけ違和感がある。
手に入った武器は『ディアブロブリンガー』
性能数値を確認してみると、どうも石像が持っていた物がそのままドロップしている感じか?
「性能こんなんです」
「どれ・・・ほーん?結構ピーキーだね」
「いやこれ系統は全部こんなんすよ」
「やっぱあんたおかしいわ」
「失礼な」
竜の爪は爪分があるから余計に重いっていうね。
でもマジで何だろうかこの武器。
いや能力を見ると、やっぱり間合いの問題を解決すれば何とかなりそうだな。
思っていたより重量あるみたいだし・・・あ、何だこのヘルプ。
武器の端っこに、見知らぬヘルプボタンがある。
それを押してみると『モンスターアーム』全体の説明文が出てくる。
確認してみた所今の俺の武器にも同じものがあった。
一瞬あるアルチャ氏に断りを入れてから読んでみる。
ふむふむ・・・ああ、なるほど。だから嫌に強かったのか。
「何々?何か分かった」
「分かったんでちょっと俺とやりません?」
「どうしてその流れでやると思ったのかな???あと言葉選べ馬鹿たれ」
ただ戦いたかっただけなのにどうして・・・
でも街に戻れば戦える奴はいるか。
アルチャ氏ならサンドバッグ・・・としてはちょっとダメか。逃げられちゃうし。
どうせなら肉弾戦を好む奴が良いな。
「え、もしかしてそれ使うの?」
「意外とどうにかなりそうなんで」
「だからって手に入れたばっかりの武器使う奴普通いないと思うけど。あとその鎧に合わなくない?」
「・・・そこは後で改造します」
まぁ今の防具って竜の爪に合わせてるしね・・・そら悪魔系には合わないよね。
「とm・・・蒼君おまたs・・・え、なにこれ」
「あ、メグさんどうもどうもこんにちわ」
「あ、うん。こんにちわ・・・えと、これは?」
「敗北者達です」
「えぇ・・・」
石像を倒し、何だかんだあって街に戻る。
そこでアルチャ氏とはお別れしたが、まだ微妙に時間があったので言った通りに街にいた肉弾戦を好む連中に手あたり次第に喧嘩を売る。
『ディアブロブリンガー』の特性を理解するためにちと時間を掛けたが、かなりいい結果を得られたと言っておこう。
ああ、勝敗自体は全部勝ったよ。流石に負けないって。
「んじゃお前ら。俺もう行くからなー」
「「「「「オツカレサンでしたー」」」」」
「うわっ!?」
「まぁゲーム内なんで」
負けた奴からここで横になるってのを繰り返してたら十人くらいがその場で倒れてる謎の絵が出来上がっていた。
でも負けて倒れていただけなので当然普通に返事する。
何なら全員知り合いみたいなものなので、割と雑に扱った方がお互いやりやすい。
今倒れてたのも、俺が人を待ってるって言ったらやり始めただけだしな。
「いやそれは嫌がらせか・・・・」
「あははは・・・個性的な友達だね」
「友達ってわけじゃないんですけどねー」
「そうなの?」
「何だろう。何回も戦って出来た知り合いだからこう・・・何だろうあいつら」
「えぇ・・・」
非常に言葉にしづらい。
俺とあいつらの関係って何なんだろうか。
友達は間違いなく違うけど、知り合いって程遠くない。
言葉で表すのはちと難しい距離感。はてこれはいったい。
歩きながら考えていたが、日坂さん・・・メグさんもいるのでこの辺でやめておこう。どうせ答え出ないだろうし。
まずは俺が最近利用し始めた店に移動する。
このゲームはPvPで戦うのがメインだが、前回のバトロワイベントから力を入れ始めたある事が目玉になりつつある。
それは・・・
「キャー可愛い!!」
「でしょ?」
そう。猫カフェである。
前回のイベントでムサシと一瞬隠れていたショッピングモール。
その中にあったペットショップ。そこには色々な種類の動物たちがいて、ムサシが夢中になっていた。
どうもあのあたりの時期で、アークの開発元が現実の動物をゲーム内に再現する技術のクオリティアップを始めたらしい。
今までは現実の動物をゲーム内で再現すると微妙に違和感が出るという話だったが、それが感じられなくなっている。
そしてあのイベントの映像は公式のチャンネルから配信されていた。
結果、ムサシが動物と戯れる映像が多くの人の目に入る事となっていたのだが・・・反響があったのは当然ムサシの方ではなく動物だった。
反響を受けて、運営は街の中にいくつかの施設を実装。
これ自体は今回のアプデより前からの話だ。
ここの猫カフェは、その施設のうちの一つ。
今割とアークプレイヤーの中で人気となりつつあるのだ。
猫を抱きながら溶けた様な笑顔のメグさんを見守る。
すると俺の近くにも数匹猫がやってきたので、手元のおやつを与えつつ撫でる。
今日はメグさんの特訓がメインだけど・・・最初からいきなりどんどんやる必要はないからね?多少わね。
「蒼君蒼君。そっちの子撫でても良いですか?」
「俺に聞かなくても大丈夫ですよ。ほれ、行ってきな」
しゃーないなと言った感じでのっそりと手元の三毛猫が動き出す。
撫でようとメグさんが手を伸ばすと、その前にジャンプしてメグさんの胸元に飛び込んだ。
「おっと・・・わぁ良いなぁ」
「メグさん猫そこまで好きだったんですね」
「はい!でも今までは飼えなかったので・・・」
「あー。まぁもう飼えるじゃないですか。あのマンションペットOKでしょ?」
「そうなんだけど。いざ飼うとなると色々責任とかあるし」
「流石に慎重派っすね」
うちは誰も飼いたがらないんだよなぁ。
千尋は動画で見るだけで満足する派だし、リアはまず飼いたがらない。
あいつの場合は仕事道具とかをやられる可能性があるから嫌なんだろうな。
あ、でも前に千尋が何か飼いたいとかボソッと言ってた記憶が。
何であれダメになったんだっけ?
「でもすごいね。ゲーム内で猫カフェがあるなんて」
「まぁゲーム自体にここまで関係ない施設作る運営はここだけでしょうね」
「そうなの?」
「余計な物実装するとその分ゲーム全体が重くなっちゃいますし。サーバーの負担だって増えますし」
「うーん・・・容量が足らなくなるって感じで良いのかな?」
「そんな感じですね。所でメグさん」
「はぁい?」
「猫に集られてますけど」
「うん?・・・大丈夫だよ?」
「あ、さようですか」
肩と膝にそれぞれ乗ってるんだが重くないのだろうか。
ここの中だとアビリティ全部効果無くなるせいで現実と同じくらいにしか動けないから重いと思ったんだけど。
まぁその状態で猫吸いする余裕があるなら本当に大丈夫なんだろうけど。
「あ、なんか飲みます?」
「飲み物もあるの?」
「何でもありますよ基本は。ゲーム内なんで」
ゲーム内マネーを消費することでこの店の中でのみ飲食が可能。
ここで何を食べても味しか感じないから満足感は感じないから現実にも影響は出ない。
どんな作りにしたらそれが出来るんだと思うが、まぁ出来てるんだから良いのだろう。
「でも私お金持ってないけど・・・」
「全部俺が払うんで大丈夫ですよ。腐るほど持ってる上に無料券まであるんで」
「あ、そうなんだ。じゃあお言葉に甘えて・・・コーヒー」
「一番安いの選ぼうとしたでしょ?」
「うっ・・・ケーキも頼みます」
「よろしい」
ここに店員はいないので、タブレットで注文する形式だ。
すると空中を移動するお盆という謎の物体が注文の品を運んできてくれる。
あれだな。現実にも普通にあってほしい店だなこれ。
「でもこのお店無料券もあるんだね」
「開店記念のイベントバトルで乱獲しました」
あと本当はこの店予約したり並ばないと入れないんだけど、そこの優先入店券を使うことで解決している。
店の中は個別のインスタンスになっているので混雑してるとか分からないんだけどね。
「ちなみに犬と鳥と馬やら、あと牧場カフェ?みたいなのもいけますけど」
「戸村君結構通ってるでしょ???」
「・・・はい」
ぼけーっと考え事するのにめっちゃいいんだよね・・・




