ゲーム内を行ったり来たり
「ふんすっ」
「声だけ可愛がっても意味ないからね?」
何かよくわからない果物の魔物を握りつぶす。
『かぎ爪』から『モンスターアーム』にカテゴリが変わったけど、これはこれでいいかも。
「適応早いねぇやっぱり」
「雑に使える方が俺強いんで」
「その割に結構技巧派だよね?」
「そうっすかね?」
俺を技巧派と言うのは色々無理がある気がするけど、どうなんだろうか。
正直その辺の定義が良く分からん。
今、アークオリンピアにログインすると必ず最初に出てくる街から外に出ている。
特定モンスターの討伐を行うのにはかならず外に出ないといけない。
街は何か・・・結界的な物があるからとかそんな理由だった気がする。
本当はその辺も色々あるけど興味ないから覚えてない。
そして今なぜ俺の隣にアルチャ氏がいるかなのだが。
まぁ単純に暇だったから。
今回の大型アプデ。それはたしかにおおくのプレイヤーに影響を与えている。
だが全てではないんだ。そしてアルチャ氏はその例外に当たる。
弓も罠も変更が無かったわけではないんだけど、正直あまり気にしなくていい部類。
戦い前の用意の手間が変わったことくらいでそれはこれまでの準備で十分に賄える範囲。
つまり、俺みたいにアプデ後に足掻かなくて良いってわけだ。
よって暇になったと。
だから俺に着いてきたというわけだ。
「あむ」
「食うな」
今握りつぶした果物の魔物。こいつは食べられる。
いやだって果物だし。普通に甘いし。
欠点は見た目と味が全く合ってないことか。リンゴの見た目で梨の味とかになるし。
「・・・食います?」
「いらないから」
岩の上で座りながら俺の戦いを見ていたアルチャ氏。
見ているだけも暇だと思うだろう?この人こうして俺の戦い方見て次の参考にしようとか思ってるから。
本来なら多くのプレイヤーが嫌がるであろう行為。
でも俺は別に気にしない。だって対策されてもそれを上回ってそれをぶっ飛ばせばいいし。
このあたりの思考はランカー特有かもな。
俺たち以外・・・特に二十位以下のプレイヤーは嫌がる事が多い。
てかあれか。そこまでいくとどうしても人の目に入る機会が多くなるのも原因か。
大会でならランカーの戦いは公式からゲーム内外で配信されるし。
大会以外でも戦った時の記録を別のプレイヤーから交渉して手に入れたりと、見られる機会が本当に多い。
だから気にしても無駄だと思えるようになるって感じかな。
「あ、今ので条件達成した」
「おめー。あと何個?」
「後は・・・三つですね」
「あら。意外と早いじゃん」
「まぁPvP系の条件達成後回し何で」
「ああ・・・」
あれは・・・うん。今から何とか出来る物でもないから。難しいとかそういうんじゃなくて単純に時間が掛かるだけだ。
まぁだから嫌なんですけど。
そして日坂さんが来るまであと一時間。
そこを考えると、出来るのはあと一個だけかなぁ。
アルチャ氏が協力してくれるならって前提はつくが。
「アールチャ氏」
「うおっ。嫌な予感。あと何その呼び方」
「何となくっすね。手伝ってほしいんですけど」
「えぇー?それはちょっとなぁ」
「人の観察してたんだからはよやるぞよ」
「はぁい」
一瞬渋ったけど、これはフリだ。
どうせ暇なんだから手伝ってくれると思ってた。
今から行くのは街からさらに離れた場所。
その魔物の為だけに用意された、特殊な戦闘フィールドで戦う。
そのモンスターを特定武器種・・・俺の場合は『モンスターアーム』で倒すことでいくつかのスキルが開放される。
使うのはその中でも身体強化系だけってのがちともったいないが、それが一番強化効率的に優れているので仕方ない。
アルチャ氏を誘う理由はこれまた単純。楽になるから。
基本戦いは全て一人でやりたがる俺だが、一度勝っている相手に関してはそうでもない。
それに時間もあるしな。そこはしっかりとしなければ。
「チケット持ってます?」
「乗っけて~」
「うーっす」
ゲーム内で遠い距離・・・街の外を移動する時は基本歩きになる。
だけどある程度ゲームを進めていると、移動手段として使えるいくつかのアイテムを手に入れられる。
それはまとめて『チケット』と呼ばれている。
入手方法はいくつかあるが、そのうちの一つには大会での入賞がある。
つまり俺はかなりの数を持っているということ。
人に奢るくらいなら余裕なわけだ。
まぁ公式大会で使用回数無限のフリーパスも貰ってるからマジでこんなのいらねぇよって枚数あるんだが。
チケットを使用して少し待つと、何か大きな影がこちらに近づいてくる。
今回使用したチケットは通称鳥タクシー。
調教した魔物に籠を運ばせる方法での移動タクシーだ。
ちなみに先ほどから魔物と言っているが、これはゲーム内での公式の呼び方だ。
ぶっちゃけ皆モンスターとか言ってるからそこはお好きにって感じ。
空を移動すること数分。
景色を楽しんでいると割とあっという間。
高いところが嫌いな人はちと厳しいかもしれないが。
まぁそんな人には違う移動手段もあるのでそちらを使おう。俺はそのチケット持ってないけど。
「到着~」
「そういえばここ初めて来たかも」
「え?マジっすか?」
「だってここ遠距離には関係ないですし?」
「あー」
そういやここのモンスター倒すのって近接武器だけの条件だっけ。
遠距離は確か・・・的当てだっけ?
言われてみれば俺もそっちは行ったこと無いか。
到着したのは古びた闘技場。
設定だとかつてこの場所には街があり、その街が移転したものが今のメインとなる街なんだとか。
今や形として残っているのはこの闘技場とわずかな建物だけだが、この闘技場に用事がある。
正確に言うと、この闘技場内に残された石像に用があるんだが。
中に入ると、様々な武器を持った石像がいくつも並んでいる。
その殆どは破損部位が目立つが、中には全く壊れておらず綺麗なままな物がある。
この綺麗な石像の中で自分の持っている武器と同じものを持つ石像に触れる。
するとその石像が動き出し、闘技場の戦闘フィールド内に移動していく。
それに着いていくと、戦闘が始まるって寸法だ。
そして地味に、この石像が厄介だったりする。
初心者と中級者の区別はこの石像のソロ討伐をしたかどうかって言われてるくらいだし。
「さて。俺の武器はどこかなー」
「新規追加なら端っこかね」
「それは訴訟も辞さない」
「何故に・・・」
俺の武器何だからめっちゃ目立つところにあってほしい()
「ってあったわ」
「はやっ!?って、本当に結構目立つところにあるじゃん」
入り口から右に曲がって五つ石像を通り過ぎた所にあった。
でもここって確か前はかぎ爪の蛮族っぽい石像が・・・あ(察し
『モンスターアーム』の石像は、非常にワイルド。
言い方を選ばなければ、マジでただのモンスターみたいな見た目をしている。
鎧を纏ってはいるが、中から見える瞳が明らかに人間のそれではない。
「獣人がモチーフですかね」
「デカい剣とか持っててもおかしくないって感じ?でも、やっぱり何も持ってないか」
「まぁアーム武器なんでね。あらよっと」
腕は多分悪魔の腕っぽいものがモチーフなんだろうけど、これ見たことない武器だな。
もうちょい爪が大きければ俺の性癖に合うので是が非でもほしかったところだが。
肩に触れると、石像の瞳に光が宿る。
光がじろっと俺を見ると、ゆっくりと動き出すので邪魔しない様に道を開ける。
後は着いていくだけだ。
「そういやさ」
「はい?」
「今更だけど私手伝っても良いの?」
「ん?別に構いませんけど」
「いや。一応初めての敵になるわけじゃん?武器種的に」
「・・・いやまぁもう石像自体とは腐るほど戦ったんで」
「あ、武器はあんまり関係ないんだ」
「というか石像連中で苦戦するレベルはとうに越えちゃいましたよ流石に」
初心者と中級者との壁とは言われているが、石像自体は慣れてしまえば誰でも勝てる。
こいついらはNPCにしてはそれなりに優秀なAIを積んでいるらしく、こちらの動きに合わせた動きを取ってくる。
石像自体はそこまで早くなくても、こちらの動きを見てから反応してくるタイプ。
だから何も考えずに動く初心者だと見てから動かれてカウンターを食らいがち。
それを何度かやられることで学び、相手の動きを自分の動きでコントロールするって方法を身に着けるわけだ。
でも流石に俺がそこで苦戦するのは・・・ね?
面倒だって言ったのは、こいつらの耐久力の話だ。
一方的に殴れるならそこまで時間は掛からないが、相手の動きを誘導してーみたいなことをしていると時間が掛かる。
そこでアルチャ氏が活きてくる。
俺が前で石像と殴り合い、背後からアルチャ氏が矢を放つ。
矢が当たると石像は俺からアルチャ氏に狙いが変わる。
そこをさらに俺が殴る。これを繰り返すとあっという間に倒せてしまう。
だからソロ討伐が壁を超えるってことになっており、
複数で行くと楽になるってわけだ。
なお集団でも武器種の構成次第では普通に負ける模様。
槍とかハルバードとかだと・・・そのね?範囲攻撃でやられるんだよね(二敗)
「おー。中ひっろいねぇ」
「的当ての会場って狭いんすか?」
「まぁ本当に当てるだけだしね。そこは仕方ない。というかほらほら。構えて構えて」
「うーっす」
爪を伸ばす強化はリセットされてからそのままなので普通の爪だ。
いや今はもう爪って言わない方が良いのか?
だけどなんて言えば・・・アーム?
そうこうしている間に戦闘開始。もはやグダグダである。
石像はやや前かがみの様な姿勢で構えている。
「さて、まぁ一応動きを」
言葉を最後まで言い切ることは出来なかった。
石像が明らかに異常な速度で突進してきたからだ。
「はっや!?」
「うっそ何それ!?」
背後でアルチャ氏も驚いている。
速度的には今の俺と同じくらいか?
いやそこはどうでもいい。問題は
振るわれた拳に、こちらも拳をぶつける。
硬い物がぶつかった様な音がする。
そして、俺と石像のパワーが拮抗している。
やっぱりそういうことか。
「こいつ、俺と同じ能力値になってるのか!」
「うっはぁ。それはそれは」
「いや援護は欲しいんですけども!」
「ほどほどにねー」
「アルチャ氏ー!?」
まさかの裏切りである。いやまぁ下手に撃てないのは分かるんですけども。
俺と同じ速度で動くとなると、下手に撃つとそのままアルチャ氏に狙いが変わった瞬間にそっちを追いかける可能性がある。
すると同じ速度でしか動けないので俺は追いつけない。
そしてアルチャ氏は俺より遅いのでそのまま捕まってお陀仏。
ムサシの時みたいに罠仕掛けないとマージでこの人弱い・・・てか逃げられないからな。
あと俺の方も地味に面倒だぞこいつ。
石像だから爪で斬ろうとしても効果が薄い。なので殴る必要があるんだけど。
「だぁー!!何だこいつマジで!?」
戦い始めて初めて気が付いたが、こいつ足にも腕と似たようなものを付けている。
それを利用しているせいで単純計算で俺の倍以上の手数になっている。
俺、腕だけしか攻撃手段ないんだよね。
相手の殴打を受け止めれば、そのまま蹴りが飛んでくる。
本当ならこちらも蹴りで応戦したいが何も装備していない脚ではそれが出来ない。
仕方ないので空いた手で止めるが、当然あちらの空いた方の拳が飛んでくる。これは防げない。
仕方ないので即座に腹を蹴りつけて距離を取る。
「あっれー?意外と面倒だぞこいつ?」
「準備終わったよー」
「あざっす!」
油断・・・なのかこれは。
アプデ内容にこんなの書いてなかったよな。となるとサイレント強化か?
本当に勘弁してほしい。これ一人で来てたらワンチャン負け・・・は無いにしても時間かかっただろ。
でも驚くのもここまでだ。
ここから先は一方的に蹂躙してくれる・・・アルチャ氏がな!!
「いや打点はあんただから」
「ウッス。あと心読まないで」
「あんた顔に出やすいんだよねー」
「マジか」
何か前にも同じこと言われた気がするぜ。




