エンチャント実践と魔法使いのお友達
例にもれず当たらなかったので禊投稿・・・何がと言いませんが。
「エンチャント実践会・・・イェイ!!」
「いぇーい」
「・・・あの。戸村君」
「何ですか日坂さん」
「えと、七瀬さんの表情がさっきからピクリとも動いてないんですけど・・・」
「ああ。あいつゲーム内でもほぼ動かないんで」
「えぇ・・・」
声だけ迫真なんだよなあいつ。
「でも一個だけ明確に変わる表情があるんですよ」
「はぁ」
「ジト目ダブルピースなんですけど」
「何でそうなっちゃうんです???」
さぁ・・・
さて気を取り直して。
マナの魔法を見た後、さらに下に階層を進んで現在二十六層。
そう。まさに今止まっていた階層に来ている。
「何でここなんです?」
「こいつらならちょうど良いかなって。色々な意味で」
「なるほど」
「今ので分かるんですか七瀬さん」
「いや全く」
「えぇ・・・」
大体俺とマナの会話はこんな感じなので考えるだけ無駄ではある。
アーサーも扇雀も大体無視して来るから、日坂さんの反応は新鮮さすら感じる。
真面目な話をすると。
二十六層のウェアウルフを相手にすると決めた理由は相手の数と機動力だ。
狼だけあって素早く、それでいて嗅覚が鋭いから遠くからでもこちらによって来る。
その為その気になれば何匹も同時に戦うことが出来る。
元々階層内に一度に存在している数自体はそこまで多くは無いのも良い。調整しやすいのだ。
ここで本格的に戦うのは、まだ『赫爪』を装備していた時以来。
でも俺自身はその時よりずっと強くなっている。
肉体面でも、精神面でも。技量面は・・・うん。元々そこまで技巧派じゃないからな。
「一応離れとけよー」
「ゴーレムでも置いておきますか」
「一応私も隠れておきますね」
「はい・・・はい?日坂さんはどこへ」
「見失うの早すぎるだろ流石に」
まだ後ろにいるっての。
二人から少し離れてウェアウルフを探す。
幸い比較的近くに二匹ほどいた。
見つかっていはいないようだ。なら準備から整えるか。
マナが見せた竜巻エンチャントは、ゴーレムに持たせた武器に纏わせる様な形でエンチャントをしていた。
それを俺なりに工夫してやるのなら、どうなるか。
元々今の鎧の爪は魔法で作っているからそこの部分にエンチャントはいらない。
だけど本来火力に直結するエンチャントは武器にやるものだ。
それが出来ないとなると・・・いやそうだな。エンチャントだけじゃなくてもいいか?
「ふむ・・・こうか?」
鎧全体から闇が噴き出すイメージ。
噴き出した闇はすぐに空中で霧散するだけ。これでは意味が無い。
でもこれを、鎧の上に纏わせて固定させたらどうなるか。
それもただ固定させるだけじゃなくて、纏わせることで自身の能力が上がるイメージ。
闇なら・・・攻撃も防御も上げられそうだな。なら両方考えれば。
「出来たわ」
鎧の関節部分から、漏れた闇が出ている。
だがそれは霧散せずそのまま鎧の上を這っている。
そして何より、体の底から溢れんばかりの力を感じる。
これは初めて鎧を纏ったあの時と同じ感覚だ。
その状態を維持して爪を作る。
爪の色がいつもより黒い?密度が高まっているのか。
手を握って開いて感覚を確かめるがあまり手ごたえは変わっていない。
これなら今までと同じように使えるな。
「準備完了。では行きますか」
二匹のウェアウルフに向けてゆっくりと歩いていく。
いつもなら突撃して片方を狙う所だが、今回はあくまでも試しにきただけだ。
だからどこまで対応できるかをやっておきたい。
歩いて近寄った俺に対して、ウェアウルフの反応は極端だった。
片方は牙を剥き出して敵意バリバリ。
だがもう片方は何かに怯えているように見える。
うん?ちょっと妙な反応だが・・・どうでもいいか。
「行くぞ!!」
爪を構えて距離を詰める。
怯えていた方は一瞬反応が遅れたが、こちらに敵意を持っている方はすぐに動き出す。
口を大きく開きながらこちらに飛び掛かってくる。
前ならこれを一度受け流すか躱すかしてもう一匹に備えていた。
だが今はそんなことをする必要が無い。
「オラァ!!」
「ウガフッ!?」
重い一撃を食らった様な息の漏れる声。
巨大な黒い爪が、ウェアウルフの胴体を貫いていた。
一度爪を消して自由にすると、即座に爪を再生成。
今度は能力の許す限りの限界速度で切り刻む。
「ハハハハハハハハ!!!!」
瞬く間にウェアウルフが細切れになり原型すら残らなくなる。
全く抵抗感を感じない。素晴らしい切れ味だ。
でもやっぱりもうちょい一撃の重さは必要だな。攻撃の重さ何て個人的にはいくらあっても良いんだし。
あ、でも機動力が削れるのは無しで。
ふと我に返る。そういえばもう一匹いたよな。
俺が飛び掛かってきた一体を切り刻んでいる間に何もしてこなかったが・・・
「って逃げんなや」
いつのまにやらウェアウルフが離れた位置にいる。
まだギリギリ見えるけど普通に追いかけたら見失ってしまう。
これもまた普段なら見逃してやるところだが、生憎色々やりたいことはあるんでな。
「エンチャントが全身に出来るなら、これだって行けるだろ?」
関節部分から漏れる闇の量が増える。
まるで戦闘機が離陸する前の様な音もどんどん高くなっていく。
「『ダークバースト』ってか?」
前回豊宝竜相手にも似たような加速をしたことがある。
あれは単純に魔力を放出するものだったが、今回はそれを魔法を発動させて闇で代用する。
するとどうだろう。同じような現象でもより効果の高い物となる。
体が闇で動かされたのを認識した瞬間、目の前には木があった。
「おっと!」
即座に体を捻って進路を変えて避ける。
鎧の関節部分から出る闇が推進力になっているから比較的操作は簡単だな。
まぁ森の中じゃなければって前提があるけど。
「うおっ!?これっ。練習いるな!?」
思っていた以上の速度で、森の中をかっ飛ぶのは難しいと実感した。
幸いウェアウルフよりははるかに速いので追いつけないことは無いだろう。
でもこのままだとちょっと効率悪いな。
速度を落とさない状態で、可能な限り最短距離で・・・あ、そうだ。
一つ思いついたので、斜め上に飛ぶ。
ウェアウルフの背中が木々の葉の隙間から見える。
その手前あたりに向けて魔法を発動。
手から闇の手を生み出して大地をしっかりと掴む。
これを基点にして速度を出せば・・・
「速度を保った状態で狙った位置に一気に行ける!!」
木に邪魔されずに、なおかつ速度を殺さないで曲がれる我ながら素晴らしいアイディアだ。
実際逃げるウェアウルフのちょうど真正面に一気に出れた。というか落ちる。
足から着地は出来たが、その衝撃でちょっとだけ埋まった。
「あ、やべ。これは考えないとな」
うーん。まぁそこはおいおいで良いかなって。
「もう逃がさねぇよ?」
爪を一気に伸ばしてウェアウルフの頭にぶつける。
敢えて貫通させずにそのまま押し出すと、背後の木に衝突して弾ける。
頭の無くなった死体が、ずるずると落ちる。
最後には毛皮と魔石だけが残された。
「よし。これも出来るな」
今のは出した爪の先端を覆うようにして魔法を使った。
すると貫通力は無くなるが代わりに殴れるようになる。相手によって使い分けができるな。
「うーん。ビバエンチャント」
まぁゲームでのエンチャントとはもはや全く関係ないけど・・・いっか!
「うわぁ。教えといてなんですけどなんですあれ。ラスボス感が強くなってるじゃないですか」
「どっちが敵か分からないですね・・・」
少し離れた所で、ギリギリ戸村を見失わない位置でマナと日坂は待機していた。
彼女の魔法で足場を作り、上から眺められるようにしていたのだ。
その足場とはゴーレム(豆腐型)を置いただけである。
「魔法ってなんでもありなんですね・・・」
「ん?まぁこれは人によりますよ。私はほら、才能あるので」
「・・・ちょっと思ったんですけど」
「はい?」
「七瀬さんと戸村君ってこう・・・似てますよね」
「え゛」
「あ、今のは私でも分かる全力で嫌そうな感じですね!」
もはやマナの感情表現が分かると喜ぶようになった日坂。
それだけ慣れてきたというわけだが、それ以上に驚きもあった。
今までほとんど表情に変化が無かった彼女が、明確に顔を顰めたのだから。
「というか、そんなに嫌です?」
「嫌というか・・・屈辱というか」
「それは嫌なのでは」
「うーん。人間としてあれと一緒は不味いと思うんですよね」
「・・・」
「・・・あれ?日坂さん」
「・・・戸村君の知り合いで重い感情無しの人久しぶりに見たかも」
「何してるんだあの女たらしは」
でもマナの事情を聞けば理解してくれるだろう。
日坂があった戸村の知り合い。
ミホと、遠島真昼の二人について。
片方は現実でのクラスメイトなのでマナは知らないが、片方は嫌と言うほど知っている。
「ミホさんとかその・・・」
「あぁ。そういえば何か収録してましたね・・・」
「はい・・・その時に思いっきりカミングアウトされまして」
「普通に同情するんですけど・・・まぁその意味では私は特にそういうのは無いんで」
「みたいですね」
少しだけ日坂はほっとした。
この間会った遠島真昼は、表にこそ出してはいなかったがある種自分と同類であると気が付いていたから。
彼を見る目が、どう見たって友人以上の感情が籠っている。
それこそ学校でほとんどハブられている様な状態の彼の傍にずっといる女が、何も無いわけがない。
ミホは言わずもがな。
彼女は彼自身には興味ないとはいっているが、それは恐らく紙一重の感情だ。
少しでも何かあれば、コロッと行くに違いない。
何故だかは自分でも分からないが、日坂にはその確信があった。
だから七瀬那奈・・・マナとは普通に仲良くなれそうだった。
「というか私的には日坂さんがあれに惚の字なのが意外といいますか」
「ええっ!?」
「ん?ああ。あれから色々聞いてるんで大体は知ってますよ私。あと会社的にも事情は知ってるので」
マナとしても日坂巡は気になる女性だった。
何せ自分も良く知っている狂戦士。それもリアルでもそうだったあれの近くにいる女性なのだから。
生まれる時代をどれだけ間違えたんだお前はと、心の中と直接言った回数は数えきれない。ムサシにも言っているのでもはや区別もつかない。
その蒼に彼から請われて一緒にダンジョンにまで行っている。
過去の事情含めなくてもこの時点でどう考えても惚れてると分かる。
だが日坂巡という個人について調べるほど、彼女と彼は合わないのではと思うようになった。
それは何故か。
「正直疲れると思うんですよね、あれと一緒に歩くのって」
「と、言うと」
「だってあれ、絶対に止まらないじゃないですか」
日坂巡は一般人だ。
スキルの貴重さと重要さからもはやVIP待遇ではあるが、その中身は間違いなく一般のそれだ。
対して戸村宗次・・・蒼セカンドは違う。
一般として普通になじむことは出来る。だがそれは自信を偽り、隠している場合の話だ。
ベールの裏側には、とんでもない化け物が住んでいる。
闘志、殺意、狂気。言い方は何でも合っているだろう。
そこにあるのは、決して普通には馴染めない何かだ。
それを偽り、普通に生きている時点で彼は異常なのだ。
でもそれは、隠されているからこそ普通の中にいれるのであって。
普通の人がそれを見たら距離を取るだろう。
例えそれが惚れた相手だとしても。本能的に命の危機を感じるはずなのだから。
何で、日坂巡はそれを分かっていて戸村宗次と共にいるのか。
まさか気が付いていないわけがないのに。
実のところ、今日マナがここに来たのはそれを聞くためだった。
ぶっちゃけ魔法の実演何て彼には必要ない。口で言うだけで解決する。その程度の悩みだった。
だけどこの機会を逃すわけにはいかなかった。
戸村宗次に会うだけではなく、日坂巡にも同時に会える機会を。
おかしい人間だが、付き合いも長くなってきた彼の周りにいる人間をこの目で見る為に。
でも日坂巡から得た答えは、彼女を驚嘆させるものだった。
「何故、貴方は彼の傍にいれるのですか?いたいと思えたのですか?」
「・・・あんまり、考えた事無かったですけど」
「・・・」
「多分、放っておけなかったから・・・です」
「・・・あれほど勝手にどっか行く奴もいないと思いますけど」
「まぁ多分そうなんでしょうけど。それだけじゃないんです」
先ほどまで、日坂巡から感じていた遠慮が無くなったと、マナは理解した。
「戸村君は、私がいてもいなくても走って走ってどこまでも行ける人です」
「そうですね」
「でもそれは走り続けられるってわけじゃないんです」
「ふむ?」
「途中で休むし、迷って立ち止まります。それに」
「それに?」
「時々、帰ってきてくれますから」
「・・・はぁ」
「えっ。何でため息を」
「いや何か。ごちそうさまですというか・・・」
マナは普通に後悔した。
ああ。これは心配ないと。
「彼の帰ってこれる場所になりたいんですね。貴方は」
「はい!あと、戸村君が夢を叶えたら、一番隣で自慢できる人がいてもいいなって」
「吐きそうになってきたなぁ」
「いきなり!?」
アークオリンピアで戸村宗次と関わる人間ほど、彼の戦闘に関する面に影響を受ける。
それはルミやアーサー。ムサシといった存在がそれを示している。
マナも少ない方ではあるが、間違いなく影響を受けている人間だ。
戦いが全てで、それ以外は蛇足に過ぎない。
彼に接する歴が短い人間ほどそう勘違いしがちだ。
だが日坂巡の認識は違った。
逆なのだ。
彼の中に、彼なりの普通があって。そこにさらに戦いがある。
だからこそ、彼女はその普通の場所にいたいと願った。
「あー。というかあれが言っていたのはこういう」
「え?」
「ああいや。こっちの話です」
マナは少しだけ、ゲームの中の友人の顔を思い浮かべる。
今度会ったら、全力で殴っておこう。
「でも七瀬さんはどうなんですか?」
「・・・ん?はい?私の何がどうなんですか?」
「戸村君をどう思ってるのかなって」
「・・・先も言いましたけど、彼ピにしたいーとかは無いですよ?」
「それは分かってますけど。その、心配してくれてるみたいだったので」
「あー・・・バレてましたか」
僅かにマナの頬が赤くなっているのを、日坂は見逃さなかった。
彼女は色々言ってはいたが、それら全ては彼のためなのだと。
そして見抜かれていたのなら、マナにそれを隠す意味は無い。
「何てことないんですよ?日坂さんからしたら本当に子供っぽい理由なんですけど」
本当になんてことは無い、普通の理由。
それが今回、マナがここに来た理由だ。
「友達・・・馬鹿出来る友達が心配だったんですよ。ま、それだけです」
少しだけ照れくさそうに笑って、七瀬那奈はそう答えた。




