高火力ブッパウーマンによる魔法講座
日坂さんの思わぬ観察眼に驚きながらも、ある程度俺の魔法についても把握出来たとのことでワープを使用して一気に二十層にやってきた。
ここでマナは、俺の魔法のイメージを覆すそうだ。
「ここのモンスターは知ってますか?」
「・・・猿だっけ」
「暴れ猿ですよね」
「・・・まぁいったん置いておきましょう」
知識方面は日坂さんがやってくれるから(震え声)
二十層の暴れ猿。海外ではクレイジーモンキーって呼ばれてる。
名前の通り凶暴なモンスターで、猿だけあって身軽で力も強い。
だけど暴れるのがメインで、こちらに向かって襲い掛かるわけじゃない。
奴らが暴れている範囲に、俺達が入ってしまうって事がほとんどだ。
こうしてみると、前衛でも後衛でも、いずれにしても厄介だな。そら嫌われるわ。ドロップも大したものじゃないしな。
あとこいつらは群れであちこちに存在しており、その点でもなかなか手ごわいモンスターだと評価されている。
え?俺は苦戦したのかって?
暴れてるだけの猿に苦戦するわけなくない??
それにしてもマナは何故このモンスターを魔法の的として選んだのか。
正直魔法使いには向いて無さそうなイメージしかない。
「ここの猿は機敏で、力も強いですよね?魔法を使う方はあんまり好まない印象だったんですけど」
「それはそれで正解ですね。私も私以外だと好きじゃないのは知ってますし」
「んじゃなんでここに来たんだ?」
「言ったでしょ。魔法の概念をぶち壊してあげるって。まぁ見てなさいな」
「ほう。自身満々じゃないか」
大火力ブッパなこいつがやるような敵ではない。
相手を拘束するのだって、ゲームだから出来るが現実ではそれに対応した魔法を持ってないといけないし。
もしかして、話に聞いてた竜巻で全部まとめて刈り取るとか?
でもそれだと俺の魔法の概念は変わらない。何なら俺にとって魔法とはマナの魔法ってイメージが強いわけだし。
つまりはそれ以外の戦い方が出来るということか。
・・・うーん想像できねぇ。
マナは俺の考え何て知ったこっちゃないとばかりにグングンと進んでいく。
この階層は低い背丈の木々が多くあり、ほとんど森になっている。
だから視界の悪さには気を付けないといけない。
暴れ猿は暴れてるから、木の上に隠れてるとかは無いんだけど。
進み始めてすぐに、俺達は暴れ猿の群れを見つけた。
七匹いるな。これ結構大きな群れだぞ。
既に叫んでるし、何かよくわからない動きをしている。
これがこちらに気が付くと一応こっちには向かってくるんだが・・・まぁ暴れるので途中で逸れるんだよな。
でも油断してると想定外の所からの攻撃が来るのだ。それこそ後衛タイプが暴れ猿を嫌う理由なのだが。
「では見せましょう。私の魔法を!」
「「おー」」(ぱちぱち
拍手をして魔法を待つ。
杖を構えて何かを唱えるマナ。
すると足元から変化が現れる。
地面の中から、何かが出てくる。
「は?お前の魔法って竜巻じゃ」
「誰もそれだけ何て言ってないでしょ」
「えぇ!?ま、まさか複数種の魔法を!?」
「その通り。現実でも私はマジカルで元素なんですよ。えっへん」
「・・・成人女性が口でえっへんて」
「黙れ」
赤くなるくらいなら言うなよ・・・
そうこうしていると地面の中から完全にそれが出てくる。
土で出来た、鎧を纏ったゴーレムだ。
鎧の形状はシンプルなものだが、きちんと槍も持って武装している。
「これが私の『傀儡魔法』!さらぁに!!」
「なに!?」
生み出されたゴーレムの持つ槍は風を纏っている。
まさか、こいつエンチャントすることで魔法を組み合わせてるのか?
「『傀儡魔法』+『竜巻魔法』で、火力も速度もアップ!」
「攻撃だけじゃなかったのか・・・」
「イメージ次第で、魔法はいかようにも姿を変えるんですよ。さぁ!やっておしまい!!」
マナが命じると、ゴーレムは風を纏いながら機敏な動きで暴れ猿の群れに突撃する。
手始めに手近な個体を串刺しにする。すると竜巻がさらに体を傷つけて一瞬で絶命させた。
「火力も貫通力も高いか」
「まぁ問題は私からあまり離れられないことですが、そこはどうにでもなるので」
「魔法ってすごいんだなぁ・・・」
俺に魔法を見せるという目的が終わったからか、マナは次々とゴーレムを生み出し始める。
そして最初のゴーレムと同じように突撃させ、暴れ猿の群れをあっという間に倒しきってしまった。
これが現実でのマナの戦い方。
それ以上に、これが魔法か・・・!!
成程。マナが自分の魔法を見せたがった理由が分かった。
これは確かに、俺の魔法は頭が固かったとしか言いようがない。
「俺のでもエンチャントは出来るのか?」
「出来ると思いますよ?そもそも竜巻を生み出すだけの私の魔法でも出来るんですし」
「成程成程・・・魔法は遠距離攻撃だけじゃないとはこういうことか」
「まぁゲームだとあんまりエンチャント使いいないですし、その辺思いつかないのは無理ないですよ」
「え?そうなんですか?」
「おや?日坂さんはそこが疑問に思いますか?」
「えっと。あんまりゲームの経験ないんですけど、どっちかと言うとエンチャントって有名なような・・・?」
「「あー」」
日坂さんの言いたいことも分かる。確かにエンチャント・・・付加魔法とも言うか?
いずれにしても結構有名だろう。大体のゲームには出てくるしな。
でも『アークオリンピア』ではあまりメジャーじゃ無いのだ。
何故かと言うと、アーツアビリティの仕様が関係している。
アーサーが良く使うアーツアビリティの中に、光属性を纏って斬撃を行うものがある。
それに加えて、別のアビリティで『ライトエンチャント』という物も同時に付けている。
だがよく考えてみてほしい。
アーツを発動すれば、エンチャントしなくても光属性の攻撃は出来るのだ。
つまり態々別でエンチャントを行う必要が無い。
ゲーム内で大きなダメージを与えようと考えると、どうしてもアーツアビリティを装備しないといけないからという話もある。
俺みたいに身体能力特化にすれば無くても良いが、それだとゲーム内の行動補正を受けられない。
結果、様々な問題からアーツアビリティを使わない理由が無いのだ。
だからアークオリンピアではエンチャントは廃れた。とまでは言わないが割とマイナー寄りのスキルになってしまったのだ。
それを日坂さんに説明すると
「あれ?じゃあ何でそのアーサーさんはエンチャントを入れてるんですか?」
「俺対策っすね」
「戸村君の?」
「この人、単純にアーツアビリティだけだと発動の隙を刈り取ってくるので」
「えぇ・・・」
ムサシもやってくるから厳密にいえば俺の対策では無くて、トップランカー対策ではあるか。
でもアーツアビリティの隙を狙うこと自体は俺達じゃなくても、ある程度実力があるプレイヤーなら誰だってやってくる。
そういったプレイヤーに対して、わざとエンチャントしてアーツアビリティだと見せかける目的もある・・・って本人が言ってた。
正直それ無しでもその辺の奴には負けないんだから外せばいいのにと常に思っている。
「まぁそんなところですかね、エンチャントがメジャーではない理由は」
「奥が深いんですねぇ」
「深すぎて超単純になった奴もいますけどね?」
「誰の事だ脳死火力バカが」
「誰の事でしょうね脳筋火力バカ」
とりあえずどでかい魔法撃てば良いって発想のお前にだけは絶対に言われたくない。
「でもどうしてお前そんな戦い方になったんだ?」
「はい?」
「いや。お前ゲーム内で竜巻の魔法も使ってるだろ、そっちメインにしないのかって話」
「考えはしましたよ?そのうえで出来なかったんですよ」
「出来なかった?そらまたどうして」
「ここ現実ですよ?それに周りに味方もいますし」
「・・・あー」
そうか。それがあったか。
俺は基本一人で戦うから、自分の周囲には気を付けていない。
隠れてる日坂さんの位置はしっかりと把握するようにしているが、精々それくらいだ。
でもマナのゲーム内での戦い方を現実でやるのは確かに大問題だ。
味方を思いっきり巻き込みかねない。
ゲーム内では基本一対一の閉鎖空間での戦いだからその辺は考えることもしてなかったな。
「俺もその辺は気にした方が良いか?」
「いやぁ?要らないんじゃないです?どうせ脳筋スタイルなら関係無いっちゃ無いですし」
「ほら、他にメンバー増やしたりするかもしれないし?」
「増やす予定あるんです?明らかに目的とは乖離しますけど」
「・・・しないなぁ」
日坂さんの護衛だけさせるって意味でメンバーを増やすのは考えたことがある。
でもそれは増やした後のリスクやらコストやら考えて却下されている。
ほかならぬ日坂さん自身が要らないと言ったのだ。
増やすくらいなら、自分の隠れる能力を伸ばした方が良いと。
つまり予定が無いのに、余計なことを考えるなということだろう。
マナの言うことはもっともだ。
「それじゃあ次は普通の魔法も見せましょうか。一応ですけど」
「頼むわ」
「良いんですよ。これのお礼も兼ねてますし」
「はい?」
マナが杖を指さしてそういう。お礼?確かに豊宝竜を倒したのは俺だが・・・お礼?
「いやスポンサーだからって枝一品丸々くれたでしょうよ」
「・・・あ、日坂さんがやってくれました」
「私の感謝の気持ちを返せ」
「あははは・・・」
貴重品らしいし少しくらい送っておこうって言ってくれたのだったなそういえば。
それがマナの元に辿り着くのは想定外だったけど、まぁこうして見返りとなってるから何でもいいや。
「あの、本当に日坂さん無しでダンジョン行けてるんですか?」
「何なら日坂さんと組んでから調べるのも全部やめました」
「わ、私が支えるよって言ったんですよ?」
「日坂さんって屑彼氏に貢ぎそうですよね。ある意味既に貢いでるんですけど」
「一応稼ぎの大本は俺なんだが・・・?」
「趣味の結果でしょそれ」
「ぐぅ」
「ぐぅの音が出た人初めて見ましたね・・・あ、そういえば」
「あん?」
「後であれ見せてください」
「あれ?」
あれ?あれとはなんだ?
特にマナが見たがるようなものなんて持ってないと思うんだけど・・・?
「標的は何でもいいので、再現技見せろ」
「マジか」
「マジです。めっちゃ気になるんで」
「はぁー・・・まぁ良いけど。魔法じゃないんだがなぁ」
「いや。確かに私魔法使いですけど、やっぱりゲームの一ファンとしては気になるでしょう」
「そういうもんかー」
「ついでに動画も撮って良いですか?」
「ん?まぁ良いけど」
どうせ扇雀とかにも見せるんだろうな。
自慢ついでに煽る様子が見える見える。
ごそごそとバッグの中からカメラを取り出すマナ。
いや、あの様子だとバッグの中身殆ど撮影機材じゃないか?思ってたよりガチのが出てきたんだけど。
「あれ?七瀬さんの鞄って普通のかばんですか?」
「一応ダンジョン素材で作られた頑丈なやつではありますけど?」
「あ、じゃあ大きくは無いんですね」
「大きく・・・?」
「ん?まだ知らないのか」
「え?なんの話です?」
そういえばまだ日坂さん印の拡大バッグについては情報が出てないんだっけか。
七瀬スポーツのご令嬢だから、てっきり知ってるものかと思ったんだが。
もしかして、装備とかも割と自己負担だったりするのか?
豊宝竜の枝の杖みたいな貴重品は流石に会社からの支給だろうけど。
「ちょっと失礼しますね」
「はい・・・んんん???」
「これで1.8倍くらいにはなりましたよ!」
「え、ん?はい??」
「日坂さんのスキルでな。自分が触った鞄の内容量を増やせるんだわ」
今日坂さんが自ら背負っている鞄とかとんでもない大きさしている。
重さを感じないのを良いことに、テントやら非常食やら割と何でも詰め込まれている。
この間とか、ダンジョン内で昼飯食べるのにチョコバーとかじゃなくて普通にかつ丼出てきたし。
いきなり自分の鞄の重さが無くなり、更に容量が増えたことでマナはかなり混乱している。
だけどそこは冒険者として先輩だからか、思ってたより早めに落ち着いていた。
「すぅーはぁー・・・これ、うちには報告してます?」
「何なら何個かは納品してますよね?」
「多分全員分はお渡ししてると思いますけど」
「ははーん・・・日坂様ってお呼びするべきでしたねこれは」
「今更では?頭高くね?」
「分かる」
「いや何で流れるように土下座を!?あと戸村君もどうして!!??」
「「ありがたさで自然と」」
「やめてください!!!」
「「はーい」」
今となっては日坂さんがいないダンジョン探索とか不便でクソ過ぎて想像も出来ません本当に。
主人公が普通に魔法使うわけないっていう




