ドキドキダンジョン料理三本勝負
「それじゃあダンジョンお料理三本勝負Aチームの始まりだよ~」
・・・三回もやるのか。
非常に不服だが、一度受けてしまったクエストを拒否するわけにもいかない。
これがアークの連中にばれたらまたひと騒ぎありそうだと思いながら、ダンジョンにいるのに初めて微妙な気分になっている。
少し離れた所でミホが番組の進行をしている。
とはいっても今回は収録だから、いつもの数倍くらいふわっふわしているが。
「だ、大丈夫です?戸村君」
「割となんとか・・・」
「でもまさか戸村君とあの相坂グループのアイドルが知り合いだったなんて・・・」
「何となく知り合ってしまった感強いのであれですけど」
知り合いではあるが、別にプライベートで何かあるわけではない。
ゲームのイベントで顔を合わせることが多く、年齢が自分より下。
そういうプレイヤーはまぁ珍しいだろう。
「だからまぁ・・・面白いおもちゃがいたな程度の」
「おもちゃ・・・」
何か微妙な反応の日坂さんだけど実際そうとしか言えないんだよな。
ゲームを盛り上げる為の看板プレイヤーみたいな扱いなのかと思いきや、あいつ個人の思惑も見て取れる。
というかそちらの方が大きな割合を占めているようにも感じる。
感情がごちゃ混ぜで、ちょっと良く分からない。特に悪意は無さそうだなって思ってしまうから、何となく俺も本気で突き放しにくいのだが・・・
「ち、ちなみに『そうちゃん』っていうのは?」
「ゲームの中だとちょっと呼びにくい名前してるんで、基本『そう』って呼ばせてるんです。蒼でそう」
「あ、なるほど・・・でもちゃんは」
「それはあいつに聞いていただけると」
マジで年下だからーとしか聞いてないっていうね。
普通に考えたら、一アイドルが一般人相手に特別扱いは良くないと思うんだがなぁ。
何故だか誰も止めない。いや突っかかってくるファンはいるけどその程度。
実は俺が知らないだけで、結構な数がちゃん呼びされていたりするのだろうか。
「それじゃあ今回の。私の護衛さんを紹介するね~」
「聞いてねぇ」
「すみません本当に・・・」
台本通りならダンジョン探索中にさらっと紹介される程度だったはずなんだが???
だがこのアドリブは通ってしまった。
何でもこの方がミホらしいのだと。
正直台本外だし断ってやりたいが・・・断るとまた次の機会に面倒が起きそうだ。
何故だか今本気でそう思った。つまりはそういうことなのだろう。
「こちら今回の護衛さんの蒼ちゃんです~」
「っ・・・蒼ちゃんは辞めようか」
「え~蒼ちゃんは蒼ちゃんじゃん」
「名前売るならちゃんと紹介してほしいんだが・・・???」
この野郎・・・俺がカメラの前で怒れないからって煽ってきやがる。
間違いないぞ。あのにやにや顔は間違いないぞ・・・!!
幸い日坂さんが服の裾を持ってくれているので踏みとどまれてる。
・・・何か、犬のリードみたいだなぁ。
「はぁ。もう自分でやるわ」
「わーい」
「どうも、戸村宗次でーす。攻略階層は十七層で鎧蜘蛛倒してますー。はいどうぞ」
「えぇ!?私も!!??」
「そらもちろん」
「ひ、日坂巡です!今日は荷物持ちです!!」
「そこは違うのでは・・・?」
「ハッ!今日も荷物持ちです!!」
「違うそうじゃない」
そうだけど そうなんだけど そうじゃない
謎の一句が心に生まれてしまった。
「補足すると日坂さんはスタッフの誘導係なので」
「あえ~そうなの?」
「そうなの。あとお前これ持って」
「ん~・・・ん?これ中身空っぽ?」
ミホにバッグを渡すと、とても軽いので思わずといった感じに中をのぞき始める。
ミホに渡したのは日坂さん印の特性バッグだ。
このクエストの為に協会からの依頼で二つ程増やしておいた。
もう一つは佐々木さんに持たせている、多分今頃ルミの方も同じことをしているはずだ。
日坂さん印のバッグなので、当然中にはいろいろ入っている。
「あれ~いっぱいある~?」
「日坂さんのスキルでな。自分が身に着けたバッグ類の容量を増やせるんだ」
「えぇー!それはすごいねー」
流石のミホもすごさが分かったのか、驚いた瞬間だけいつもの緩さが薄まった。
「ちなみにそのバッグ一つで云百万するから」
「ほえ~」
「・・・話分かってる?」
「分かってるよ~?」
「すみませんすみません」
このプロデューサーさんが謝るとこは普通にオンエアされるらしい。
何でもこれも一つの名物なんだとか。
「じゃあ自己紹介も済んだところでいこっか~」
「・・・ん?俺に言った?」
「え?そうだよ?」
「・・・オレゴエイ。シュツエンシャチガウ」
「戸村君カタコト!カタコトになってる!」
ついに自己紹介だけじゃなくて俺も出演者の一人として扱い始めたミホ。
だけどこれも周りは止めない。何故かって?
「一人じゃ詰まんないよ~」
「うーん何でこいつアイドル出来てんだろうねマジで」
「こ、これがアイドル・・・」
何とこの目の前のアイドル。普段から一人でのロケではカメラマンだったりに普通に話しかけているそうだ。
なので護衛をするだけのはずの俺にも当然のように話しかける。
これもまたミホなのだと、当然周りも止めない。
俺が事情を知ったのは後のことだったけどな!
何でも知り合いみたいだから知ってて当然だと思われたらしい。それはそう。
今度はディレクターも一緒に頭を下げてくる。もちろん画面外で。
そうなるともうどうしようも無いんだなと理解してしまう。
これが諦めか・・・
「・・・そもそもどこの、何が欲しいんだ?」
「何があるの~??」
「ゲーム内なら殴ってた・・・」
「戸村君漏れてるから!心の声が全部!!」
「おっと」
「いやん蒼ちゃん乱暴~」
「・・・モンスター出たらすぐ下がってくださいね絶対に」
「は、はいぃ」
この時俺は何かオーラの様な物が漏れていたとの書き込みが後日のSNSで話題になった。
何とか気を静める。
ここでこいつにキレても何も解決しない。
そうだクールに。それくらいは想定してたじゃないか・・・。
「ふぅー・・・じゃあ日坂さんに聞こうか」
「お願いしまーす」
「うわぁ責任が重い・・・調べては来ましたけども」
ここのダンジョンは、大きく分けて四種類の階層に分かれている。
肉、魚、野菜、それ以外の四つだ。
上から一層ずつで分かれており、何か特定の食材が欲しい場合探す階層が絞られるため楽。
「ちなみに何を作るとかって」
「私の好きな食べ物!」
「知らねぇ」
「ぶー。蒼ちゃんには教えたのにー」
「え、マジで覚えが無いんだけど」
どっかのインタビューで言われたんだっけ?どうでも良すぎてスルーした気がする。
「私はねーハンバーグが好きなのー」
「あ、思い出したお子様プレートか」
「そうそう」
「え、それで良いんだ・・・」
ハンバーグ、ナポリタン、カレー、エビフライ。
マジでお子様ランチみたいなメニューだって確かに聞いたわ。マジでどうでも良くて忘れてたわ。
「で?どれ作るんだよ」
「エビチリ」
「ッ・・・うっし」
「戸村君頑張って」
好みの話どこにいったんだこの女ァ・・・
「ミ、ミホさんはエビチリ作れるんですね!結構手間だと思うんですけど」
「ふふーん。ミホちゃんはお料理上手なのだ~」
「・・・マジっすか?」
画面外に確認を取るとマジらしい。メシマズアイドルではなかったのか。
「ん?三本勝負だよな?別のもやるのか?」
「お肉と、お魚と、お野菜料理~」
「・・・エビチリ、どれだ」
「魚介・・・ですかね・・・?」
エビ・・・そうだよなエビだもんな。
そうなるとだ。向かう階層はそれらが手に入る場所になる。
「エビってここ取れるんですか?」
「あ、取れるよ。ちょっと下の十層で」
「まぁここなら問題無いかな。他は?」
「酢豚と餃子!」
「中華オンリーかい。いや良いとは思うけど」
え、こいつ本当にそこまでマジの料理出来るタイプなの?
再度画面外のプロデューサーさんに確認を取ると強く頷いている。
み、見えねぇ・・・
「じゃあ五層と・・・お野菜系なら九かな?」
「そもそも餃子って野菜料理何です?そもそも野菜料理って何スカ」
「お野菜がメインの料理・・・であってます?」
もはや日坂さんもミホに聞こうとせずにプロデューサーさんに聞く始末である。
それでいいのかアイドルよ。
ともかく目的地は決まった。
五層で豚肉確保。九層で使う野菜を色々入手し、最後十層でエビの捕獲だ。
俺の仕事は増えるのは五層と十層だな。ここだけはモンスターを倒さないと物が手に入らない。
九層の野菜はその辺に埋まってるから掘り起こす必要があるが・・・
「掘るのは私がする~」
「えー何かいがいー」
「これでもミホちゃんはやるときはやるのだ。ドヤ」
「へぇ」
「し、心底どうでもよさそう・・・」
流石ですね日坂さん。
心の底からどうでもいいです。
「それじゃあレッツゴー!」
「お、おー?」
「やらんで良いですよ日坂さん」
ようやく出発。ちなみに佐々木さんの方はもうとっくに出ている。この時点でダメな気がする。
このダンジョンの特徴。
前に楽だという話はしたが、それはモンスターの弱さだけではない。
もう一つ、下の階層に非常に行きやすいというのがある。
どこのダンジョンも階段を下りて下の階層へ移動するのだが、この階段間の距離が非常に短い。
道から外れれば普通に広い空間が広がっているので、何か欲しい場合はそうする。
だから下に行くだけなら比較的安全だ。
もちろん絶対に襲われないとは限らないのだが。
幸い今回は全く襲われずに五層に辿り着いた。
「おお~ひろーい」
「ここのモンスターって何でしたっけ」
「トロールピッグです。まぁ歩いてくるだけの豚だね」
「日坂さんたちのほう行ったらマズイですかね」
「いやぁ。流石にどうなんでしょう」
トロールピッグ。別にこん棒とか持ってないし力持ちでもない。
ただものすごく馬鹿。こちらがビックリするくらいの馬鹿なのだ。
ちょっと視界から外れるだけでこちらを見失ってオロオロするし、遠くから攻撃されても追いかけてる最中にそれを忘れる。
だからずっと引き撃ちしてれば誰でも倒せる。本当に子供でも倒せる。
流石に近づいて戦うのは冒険者じゃないと無理だろうが。
「カモっすね」
「豚だよ戸村君」
「そうじゃないっす」
あれ、何か日坂さんもミホの謎雰囲気に充てられてない?
これで探索するの・・・大丈夫か??




