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電脳狂戦士 現代ダンジョンに挑む  作者: saikasyuu
電脳狂戦士 強敵と共に
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強行突破

山岳地帯でマナと扇雀を倒し、そのまま少しそこで待つが誰も来なかった。

あれだけドンパチしてたんだから釣られて誰か来ると思ってたんだがなぁ。


『周囲を包囲されてる可能性は?』

「流石に無いだろ。広すぎる」


山岳地帯から抜ける道は一つだけだが、整備された道が一つだけというだけだ。

俺達みたいに崖を上がれば関係ない。

それ自体は俺たち以外が絶対に出来ないってことは無いだろう。

それを考えるとここで包囲しようとは考えないはず。


「それやるくらいならハイドした方がいいだろうしな」

『ハイド?』

「隠密・・・今回なら待ち伏せすることだな」


動きを止めて、細い道の影などに隠れて対象が通り過ぎるのを待つ。

そして対象が通ったら背後から奇襲するということだ。

何組かで組んでいるなら、前と後ろで挟み撃ちの形にも出来るだろう。


それをするには俺達がどこを通るかを想定していないといけないのだが・・・


「あ、そうだ。エリア収縮」


マップを開くと、次の生存エリアが示されていた。

そのエリアは白い円で囲われており、そこ以外にいるとダメージを食らう仕様だ。

なのでよっぽどの理由がない限りこの円の中でいないといけない。

この仕様を、バトルロワイアル系のゲームではエリア収縮と呼んでいる。


そして今回の収縮は・・・ちょっと遠いな。

今俺達がいる山岳地帯の反対側。街と沼地の二つ。

思ってたより縮むな。戦闘させるためか?


「ここから安置(安地)内に入る為の道が三つあるんだけど、どれがいいよ」

『あまり詳しくないのでな。任せたい』

「うーん。正直どこもあんま変わらんのよな」


道を詳しくいうと、近道、遠回り、その中間といったところか。

この中で最も危険なのは当然近道。だが安置(安地)が遠いことを考えるとここを選びたくはなる。


遠回りは最も安全だが、遠い位置にある安置(安地)エリア内に向かうこと、

次のエリアを想定すると可能な限り早めに移動しておきたい。


そうなると中間の道が安牌な気もするが・・・だからこそ山を張られる可能性はある。


どこも一長一短。

選ぶならどこにすべきか。


「力づくの突破・・・俺達ならそれがベストなんだが」

『ダメなのか?』

「だからこそ想定されてる可能性がある。それなら裏をかきたいところだな」


バトルロワイアルに詳しい奴が何人かいるなら間違いなく何かしら仕掛けてくるだろう。

一々それを突破するのに体力を消耗していたは、そこを突破出来ても先に続かない。

しかし先の事を考えるのなら、一回は出し抜いておきたいが・・・


「うーむ・・・」

『ふむ・・・素人意見で済まないのだが』

「あい?」

『無理やり無視していくのはどうなんだ?』

「は?まぁそりゃ・・・あれ結構いいなそれ」


成程。それなら出来るな。















「いいか。そろそろここを通るはずだ。みんな準備は良いか?」

『『『『『OK!!』』』』』』



今回、レートランキング一位二位がコンビを組んでイベントに参加すると聞いて、一番影響を受けたのは誰か。

それは彼らに関係のない、純粋に楽しもうとしたイベント参加者か?

いや違う。影響を最も受けたのは彼らを倒そうとしていた者達だ。


元々何かしらの機会に、上位ランカーを蹴落としてやろうと考えてはいた。

だが実質通常の対戦では歯が立たず、大抵の策は力技で突破されてしまう。

それはもう彼らは悔しかった。

どれだけ考えても、準備をしても勝てないのだから。


しかしよりにもよってこのイベントに強者は来た。

考える限り最も相手を策に嵌めやすいバトルロワイアルというイベントに。


「我らランカー撃滅隊。今度こそ勝利の美酒を味わうのだ!!」


一位二位の参加を聞き、すぐに彼らは動き出した。

プレイヤーの中にいた、遠距離でも通話を可能とするマイナースキルの持ち主を勧誘し、

ゲーム内を調べて今回使われるマップがどのような場所かの推測を立て、

さらにそこで使えるようなスキル、能力を決めた。

その数六組。計十二人のプレイヤーが今回強者である二人だけを標的としてイベントに参加していた。

もちろんそれでイベント自体に勝ち抜くことを完全に捨てたわけではない。

もし作戦が成功したならば、自分たちの中から優勝者を決める手はずになっている。


今回の作戦は完璧だ。

アークオリンピアでは滅多に使用されないトラップスキルを用いた待ち伏せ作戦。

そのスキルを持ったプレイヤーは偵察系のトッププレイヤーと組ませることで戦闘力の低下を最低限に抑えた。

想定外なのはその偵察プレイヤーが速攻で倒されてしまったことだが、まだ問題は無い。

幸い山岳地帯で派手にやっていたプレイヤーがおり、そこに標的が向かうことは分かっている。


後はエリア収縮のタイミングでやってくるであろう彼らを待つだけ。


「その時こそ、貴様らの最後だ!!」


リーダーの頭は、既に勝利のビジョンでいっぱいだった。

完璧な作戦、エリア収縮すら読み切った完璧な流れ。罠の候補地の中で最も奴らが通りそうな道も確保できた。

我らは今度こそ勝利した!!


それが既に読まれていたことを知らずに。


悦に浸っていると、遠くから爆音が聞こえる。

どうやら近くで誰かが戦闘を開始したようだ。


「何だ?誰かいるのか?」

「いや。ここらへんにはもう俺たち以外にはいないはずだぞ」

「じゃあ奴らか?」

「それにしては妙だ。あの二人はこんな音がする攻撃をしないだろう」

「確かに」


音はだんだん大きくなってきている。

戦闘が近づいてきているのか・・・いや違う。

音の発生源そのものの場所が違う。


これは・・・上だ。


「っ!?上にいるぞ!!」

「なにぃぃぃぃぃ!!??」

「じゃぁなバーカ!!」

『・・・さらば』


人間一人を抱えた状態で、鎧をまとったプレイヤーが空を走っている。


アビリティ【瞬間強化】

恒常的な身体強化に比べると使いどころが難しいアビリティ。

だが強化幅はこちらの方が大きい。


そう。蒼とムサシ。二人のプレイヤーはとんでもない手段でこちらの罠を突破しようとしていた。

身体強化のアビリティを使えるだけ使い、その状態で空を翔けるという脳みそ筋肉な、技とも言えない何かで。


しかし効果は絶大だった。

仕掛けた罠に、上空にいる何かを止める物はない。


「う、撃て。うてぇぇぇぇぇ!!!」


道の両端から魔法が放たれる。

本来罠に掛かった者を安全に攻撃するために備えていたのだがもはやそんなことは言っていられない。


数と範囲に強化された魔法の数々が大量に飛ばされる。

だがそれは二人の脳筋を止めることは出来ない。

当たりそうな魔法は背負われたムサシが斬り捨てる。


一歩一歩蒼が踏み込むごとに、空気が爆発するような音が響く。

あっという間に魔法の射程外にまで行くと、そのまま見えない所にまで行ってしまった。


それを、茫然とした顔で見送るしかないリーダー。


「・・・」

「お、おい!しっかりしろって!」

「・・・はっ!!そ、そうだな。まだ次がある!」


そう。彼らが考えた策はこれだけではない。

確かに今回の罠に比べると稚拙な物にはなってしまうが、それでもまだ終わってはいない。


すぐさまここを離れ、安置(安地)に入って次の予定地に・・・


そこまで考え、行動に移そうとした瞬間。

リーダーの頭に矢が生えた。


「えぇぇぇぇ!!??リーダー!?」

「うーん。これだと彼ら、普通に超えられたんじゃないかな」

「なっ」


リーダーの傍にいたプレイヤーも何者かに斬られ、死亡判定が下された。

斬ったプレイヤーは血を払うように剣を振るうってから剣を鞘に納める。


「それ、意味あるんですかねぇ」

「ん?あぁ。まぁ癖みたいなものだよ。ダンジョンでは結構汚れるからね」

「はぇ。私には縁遠い世界ですわ」

「そうかな?君ほどのアーチャーなら引く手数多だと思うけれど」

「いやいや。弓兵の冒険者なんて需要ないってば」


岩陰から弓を構えたプレイヤー・・・アルチャが出てきてもう一人に話しかける。

話しかけられたプレイヤー・・・アーサーは何てことないように返事を返す。


「さっきの魔法を使ってたのは?」

「三人やりましたけど、残りは逃げられちゃいましてね。いやぁまさか防御魔法積んでるとは」

「おや?それだとあの二人には使えないと思うけど・・・仲間割れ前提かな」

「勝者は一組だけですからねぇ。それで?これからどうします?」


蒼とムサシ達が空を翔けている途中、実はアーサー達を追い越していた。

久しぶりの全力疾走でテンションが上がったせいで、追い越した側はそれには気が付かなかったが。

だがアーサー達は気が付いた。そしてその先にある物を理解した。

自分達もそこを通るつもりだったため、何か手を打たねばならないということも。


そこで、彼らが引っ掻き回した後を利用することを考えた。

結果は大成功。リーダーとその補助役を倒し、火力役の魔法使いも何人か倒せた。


「相変わらず末恐ろしい腕前だね」

「いやいや。私なんて大したこと無いよ」


嫌味にも聞こえる謙遜が無ければ完璧かな。

アーサーは心の中で考える。


実のところ、アーサー達はここを通らない選択も出来た。

だが態々労力を割いてまでここを通ったのには訳がある。


簡単な話だ、別にあの強者二人を倒したいのは彼らだけではないということだ。


「さて、僕たちもそろそろ動こうか。最低でも君の依頼料くらいは稼がないとね」

「あははは。いやぁありがたいことですわ」


今回アーサーも最初にしたのは仲間を集めることだ。

だが大人数を集める気はなく、コンビを組む一人だけを選ぶつもりだった。

実力のわからない不特定多数より、信頼できる腕を持つアルチャ一人の方が遥かに価値があると見たからだ。


アルチャ氏の目的は、蒼にも話していた通りでイベントの入賞報酬だ。

アーサーは自分の分も彼女に渡すのを条件に今回彼女とコンビを組んだ。

出たいなー、でも組む人いないなーと悩んでいた彼女に対して話を持ち掛けたので、彼女自身からそれはもう感謝されたが。


そこはどうでもいい。

アーサー自体今回のイベントでもらえる報酬は既に持っている。

伊達にランキング三位ではないのだ。


「目指すは街の方だね。最終地点はそこになるだろうし」

「あら?そうなんです?」

「沼地ももちろんあるけど、あそこは全てのプレイヤーに平等とは言えないからね」


【アークオリンピア】の運用は非常に公平であるというので有名である。

彼らのイベントで特定のプレイヤーが有利になることはほとんどない。

だからこそ、沼地というその場所でだけ戦う準備をしてきたプレイヤーが最後まで有利になることは無いと判断した。


そしてその思考は、某最強コンビの二人には存在しない。

彼らは能力が高いからこそ、考えることを放棄する。

時にはそれが逆に良い結果に繋がることもあるが、今回に限って言うならそれは無い。


「街に行って様子を見ながら、有利ポジションの確保は最優先に」

「わかってますよー。途中からソロでいいんですよね?」

「構わないよ。その点においては僕より君の方が上手だからね」


アルチャは全プレイヤーの中でもレアな武器である弓の使い手。

それと同時に、あることでも有名であった。


それがあるから、ここに仕掛けられた罠を見抜くことも出来る。


「一応全部持ってきてますけど・・・足りるのこれ?」

「足りない前提だね。君の狙撃能力込みだから、期待してるよ」

「うっへぇ」

「でも目的は彼じゃなくてムサシ君のほうだからね。まだ楽だよ」

「いやあっちもあっちで大概だと思いますけどねー」

「勘で突破されるよりマシさ」

「あー・・・それはそうかも」


アーサーの目的は、厳密に言うなら蒼だけ。

アルチャと組んだのは、蒼とムサシを引き離すために必要だったから。


「楽しみだね・・・本当に」

「うわぁ・・・やっぱりランカー怖いなぁ」


アーサーはいつも紳士的なふるまいを心掛けている。

それは自らの生まれた国への誇り、そして尊敬している方々に恥じない自分である為だ。

だがそれと同時に、一人の戦士でもある。


だからこそ戦いたい。

自らが認め、友になり、ついには冒険者にすらなった彼と。


その顔は、とてもではないが紳士的な物ではない。

イベント開始前に蒼が見せた、あの笑みと同じであった。


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