第21話 合同演習 森の中
「おらぁ! ハハハ! いいぞ調子が良ければこんだけ活躍できるんだよ!」
誰に向けて言っているのかわからないが、アーサーは調子がいいらしい。
「レティシア! 先にエリアヒール頼むぞ!」
なんと、あのアーサーが命令ではなく頼んでいる。
機嫌がいいと性格も柔らかくなるのは、初めて知った。
魔物の群れに果敢にも突っ込んでいくアーサー、前までならここで俺のスキルで援護するのだが、それをやめてからアーサーの機嫌が良くなったので、援護はしない方向でいくことにした。
レティシアはエリアヒールを飛ばすが、アーサーの動く範囲が広く、カバーしきれてない。
「チェルシー」
「はいはい!」
そのカバーできていない範囲にエリアヒールと、ついでに状態異常回復を飛ばす。
「チェルシー」
「なんです?」
俺の呼びかけに首をかしげる。
「大分成長したな」
正直すでにレティシア以上の腕前だ。
まぁ、レティシアは恋人だったので、アーサーの無茶に合わさせるということはさせなかった。
レティシアは、安定したパーティーで力を発揮できるように教えていた。
「へへへ」
チェルシーは嬉しそうに耳をピクピクさせていた。
「ネマ!」
「うん」
アーサーがうち漏らした魔物をネマが仕留める。
「10匹中5匹」
「半分か、精度が上がってきたな」
ネマもチェルシーも順調に腕を上げている。
「ハハハ! どうだ! アル・ギルバート!」
「調子よさそうじゃないか」
俺が褒めると
「貴様がいないほうが俺様は強いんだよ! 勇者の力を全力で発揮できるからな」
確かに勇者の力は絶大だ、魔物の群れに突っ込んで無事帰ってくるなんて芸当はできない。
「しかし、貴様の奴隷はなかなか優秀だな」
当たり前だ、俺は育成には自信がある! と言ってトラブルになるのは避ける。
「まあな」
「俺様が買ってやってもいいんだぞ?」
チェルシーとネマが不安そうな顔で俺を見る。
「売れないな、俺の大事な探索仲間だ」
「倍の値段で買ってやるぞ?」
そこまで欲しいのか、交渉を粘ってくる。
しかし、欲望の籠った目でチェルシーを見ている奴に売るわけない。
「実は俺の欲しいヒーラーがチェルシーみたいなタイプなんだよ、だから売れない」
「てめぇ! また痛い目にあいてぇのか!」
アーサーが俺の胸倉を掴む。
「アーサー!」
そばで見ていたレティシアが止めに入る。
「止めんな!」
「アーサー! 騎士団の人が来てる」
俺たちが揉めているのに気づいて騎士団の人たちが止めに来た。
「コラコラ、森の中で争うのはやめたまえ」
「ちっ!」
アーサーは荒々しく俺の胸倉を離した。
その時によろけた振りをしてアーサーの小指の部分を踏みつけておいた。
「いっ! てめ!」
「アーサー!」
レティシアがアーサーの手をとって自分の胸元に寄せる。
「っ!」
アーサーも気づいたのか、女性の柔らかさに気を取られる。
「ほらほら、喧嘩はそのくらいにして、今日はもう戻るよ」
騎士団の人は帰還の指示を出す。
「やっぱり感じ悪いですねあの勇者」
「ははは、困ったね」
「また痛い目に合うってどういうことですか?」
チェルシーはアーサーが言っていたことを聞き逃さなかったらしい。
「はぁ、わかった、野営の時に話すよ」
俺はこれ以上は隠せないと思って正直に話すことにした。
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