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5話 遠征部隊と和風の戦士

 熱帯特有の木々が覆い被さるように密生し、閉ざされた空に恐ろしげな人ならざる物の声が響く。数多の生態系を形成し、魔物も多く潜むとある南国の島に、勇敢にも立ち入る人々がいた。それは自然学者を含む研究グループで、時折立ち入っては見回りに出かけるのだ。もっともここは、前述の通り魔物と呼ばれる不気味な生き物も多く存在している。故に、武装した人々もまた、一緒に入っていった。

 獣道をかき分けては、動植物を観察していく。大きなトラブルもなく、調査は順調に進むかに思われた。しかし、何が起こるか分からないのが自然。調査隊の前に、大きな影が立ちはだかった。それは全身が鱗で覆われ、額に角を持つサイのような魔物だった。今までに現れた小さな輩とは格が違う。武装した人々も、歯が立たなかったのだ。


 突如、圧縮された空気が刃のごとく魔物を襲った。それと同時に、後方に控えていた一人の少女が前に躍り出る。胸まである黒髪をツインテールにし、着物を崩したような洋服を着た少女。年は17歳といったところか。彼女は青い瞳を魔物にまっすぐ向ける。巨大なサイが起き上がったのを見計らい、手にした扇を広げた。

 それは、舞踊を見ているかのような美しい動きだった。流れるように風の刃を放ち、軽快に回り込んでは攻撃をかわす。攻防一体のその動きに、いつしか魔物も見ている者も魅了されていた。とどめとばかりに少女が扇を振ると、魔物の周りに巨大な竜巻が発生する。扇を閉じるのと同時に、巨大な魔物は白目を剥いて倒れた。

「おお、さすがは夏樹(なつき)殿。あれほどの相手を倒してしまうとは…」

 部隊をまとめていた男が、少女の頭を撫でて賞賛する。夏樹と呼ばれた少女はピシッと背筋を伸ばした。

「いえ、拙者には身に余るお言葉であります、隊長殿。しかし、『勝って兜の緒を締める』のが日本のSAMURAIの心というもの。引き続き警備に当たりますです!」

 見た目に似合わず堅い調子で話す少女に、周りの人は苦笑した。隊長格の男はそんな彼らに向き直る。

「彼女の言う通りだ。皆、気を引き締めていくぞ!」

「「おおー!」」

男の言葉を受け、他の人が雄叫びを上げた。もちろん、動物たちを刺激しない程度の声で。




 その後は順調に事が運んだ。和風の装束をした少女、夏樹のおかげで、強い怪物もさして問題ではなくなっていたのだ。少女の舞うような動きが、怪物を圧倒していた。

 日も傾き始め、開けた場所で調査隊はテントを張る。視界の悪い夜に動き回るのは得策ではないし、体は休めた方がいい。一行は魔物対策の簡単なバリアを張り、交代で見張りをしながら眠りについた。


 翌日。その日も調査は続く。動植物を見て回る彼らの耳に、不穏な音が届いた。続いて、鳥や小動物が逃げる声。銃声だ。ずどおんと、腹の底に響くような音。音に驚き、慌てた動物たちが懸命に逃げる。それは一度だけでなく、何度も聞こえてきた。

 本来この森は、狩猟が禁じられている区域。そもそもこの調査自体、違法な密猟を取り締まるという意味も含んでいるのだった。そんな彼らが、音の方を確認するべく進路を変えたのは言うまでもない。

 先頭に躍り出たのは、少女、夏樹であった。なぜなら彼女は、とがった耳が特徴的な、エルフだったからだ。人間よりも研ぎ澄まされた感覚を生かし、“犯人”の位置を特定する。元々森に住まう種族であるが故、その動きは軽い。あっという間に銃を持った数名の男達に追いついた。突如現れた少女に、男達は慌て、たじろいだ。そもそもこんな森の中に少女が一人で現れるという事自体、あり得ないことだ。しかも猟師達は体格のいい男達ばかり、複数人。圧倒的に少女が不利であるように見えた。


 少女は動いた。疾風のごとく、相手の間合いに入り込む。相手の男達が持っていたのは小回りのきかない狩猟用の銃であり、間合いに入ってしまえば少女の方が有利だった。加えて、数人で一人を囲んでいては、外れた際に誰かに危害が及ぶ可能性もある。ひるむ彼らに、少女は突進していった。扇で彼らの持つ銃をなぎ払い、鳩尾に重い一撃を食らわす。気絶しきらない時は、更に手刀をたたき込んだ。完全にのびた男を放置し、別の男に狙いを定める。不法に猟をしていた男達は、彼女の動きを目で追うだけで精一杯だった。一人、また一人と倒れ、ついには少女以外に誰も立っていなかった。

「夏樹殿!」

 ようやく調査隊が少女に追いつく。少女はとがった耳をピクリと動かした。

「隊長殿! 不審な男を確保しましたです!」

 またも堅い姿勢を取る。その早業に、誰もが驚きを隠せない。驚きながらも、隊長はすぐに冷静に戻って口を開いた。

「お手柄だ、夏樹殿。感謝する」

 少女ににっこりと微笑んだ後、隊長は表情を真剣な物に変えて隊員達に向き直った。

「奴らを縛れ! 帰還次第尋問を行う! 他の者は奴らによる被害の状況を確認しろ!」

隊長のきびきびとした指示が飛ぶ。隊員達は素直にそれに従った。猟をしていた男達は縛られ、車に乗せられる。時間が経つにつれ、密猟状況も明らかになっていくのだった。




 カチャリと扉が開き、ロビーの掃除をしていたユウカは顔を上げた。礼儀正しい動作で入ってきたのは、胸くらいまである黒髪をポニーテールにまとめた少女。和風の装束に身を包み、長くてとがった耳が特徴的だ。

「お帰りなさいませ、エリス様」

 掃除の手を止め、ユウカは恭しく頭を下げる。エリスと呼ばれた黒髪の少女が彼女に答える前に、間に割ってはいる声があった。

「エリスちゃんじゃん! お帰り~。一年ぶりだね~」

「夏樹エリス、ただいま帰り申したでござります。」

 明るい調子で話す女性とは対照的に、エリスは改まった姿勢を取る。そんな彼女に、割って入った声の主――サンティは苦笑する。

「別にそんな堅くならんでもいいのに…。ところで、遠征はどうだっただん?」

 サンティは楽しそうに笑いながら、エリスに近付いていく。エルフの少女もつられて笑っていた。

「はい、無事遂行できましたの。少々ハプニングもありましたが、なんとか解決できました」

「それは良かったやぁ~。えらかったら? 報告したらはやく休みん」

「いえ、拙者は大丈夫でござります」

 サンティが気遣いの意を表すと、エリスは首を横に振った。彼女の気丈さに、サンティはまたも苦笑した。

「エリス様、お荷物をお部屋へお運び致しましょうか?」

 そこへ、ユウカが割り込んでくる。エリスは調査隊に呼ばれて1年間も遠征に行っていたため、彼女の持つ荷物は多い。報告だけならいらないだろうと、ユウカは提案したのだった。

「せ、拙者は…」

「あ、ユウカちゃんお願いね~。ほらほらエリスちゃん、とっととマスターに報告しに行くに!」

 サンティは渋るエリスから半ば強引に荷物を取り、ユウカに渡す。ユウカは荷物を受け取ると、エレベーターで上へ向かった。エリスはと言うと、サンティに背を押されながら社長室へ歩いていくのだった。


 報告には少し時間がかかった。1年分であったため、仕方ない事ではある。ようやく社長室から出てきたエリスとサンティは、お互いの話に花を咲かせていた。

「サンティ殿、この一年で何か変わりござったの?」

「いや~、みんな相変わらずだに…って、ああ!!」

 いかにも今思い出したという感じで、サンティは大声を上げて立ち止まった。その声に、何事かとエリスも足を止める。サンティはばつが悪そうに頭をかいた。

「すっかり忘れとったわ~。実はつい最近、新しい住人が来たじゃんね。とりあえず挨拶だけでもしとかぁか」


 サンティに連れられ、エリスは2階にある部屋の前に立っていた。呼び鈴を押すと、ほどなくして男性――年頃からして青年と呼ぶべきか――が出てきた。明るい茶髪に、金色の瞳。だるそうにする彼の表情には、呼ばれた事に対する苛立ちが混じっていた。

「悪いね~。実は遠征に行っとって紹介できんかった人がおるじゃんね」

 青年に話しかけたのはサンティ。言葉を受けて、エリスが彼の前に進み出た。エリスの青い瞳と青年の金目がかち合う。

「初めまして。拙者、夏樹エリスと申しますの」

「…ニコだ」

 エリスは頭を下げた。対してニコと名乗った青年は自分も礼をしたものの、訝しげに眉をひそめた。驚いたような困惑したような、複雑な表情でエリスを見つめていたのだ。その視線に気付き、サンティは説明する。

「そうそう。エリスちゃんはエルフじゃんね」

 ほら、と彼が見つめていたエリスの長い耳を軽く引っ張ってみせる。ニコはますます驚いていた。それもそのはず、エルフとは森の住人であり、人との関わりも少ない種族。まして大都会に住んでいた彼が、その存在を素直に認められないのも無理はない。が、ニコは顔を引きつらせながらも元の表情に戻そうとしていた。

「その耳、本物だったのか。・・・てっきりコスプレの類だと」

 後半はかなり小声でつぶやいたニコだったが、エルフであるエリスにはしっかりと聞こえてしまっていた。

「コスプレでござりまするか? 拙者はまだ経験があり申さぬが……。一度コスプレの聖地アキバへ行ってみたいのであります!!」

 グッと宙で握り拳を作り熱弁するエリスに、ニコはたじろいだ。これはあまり関わるべきではないタイプの人種だ(彼女は人間ではないが)と、彼の本能が警鐘を鳴らしていた。

「とまあ、そんな訳で、よろしくやってくれん?」

 サンティはにっこりと微笑んだ。ニコの心中に察しがついていたのか否かは不明だが、話題を変えられたことはニコにとって好都合だった。いや、あわよくばこのまま立ち去ってくれることを期待していた。

「これからここに住まう者同士、よろしくお願いするであります! それでは、拙者はこれにて失礼致すでござる」

 笑顔でエリスは深々と頭を下げた。ニコも軽く会釈を返す。果たして、二人は彼の期待通り各々の部屋へと帰っていった。

という訳で今回は緑さんが提供してくださった不思議ちゃん(?)、夏樹エリスの回でした。

正直喋り方が謎すぎて難しかったです(^^;)

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