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3話 ニコの初仕事~魔女狩り~

 どうしてこんな事になったんだ。ニコは、前方で上がる黄色い声を恨めしく眺めていた。町の一角で女性達の視線を集めているのは、短めの金髪にスカイブルーの瞳をした男性。デザーテッドカンパニーで暮らす変態――もとい、バングルだ。性格はアレだが女性というものはまず顔のいい人に寄っていくのが世の常というもので。そういう訳で、黙っていればイケメンの彼は女性達の視線を一身に集めているのだった。



 事のきっかけは数時間前にさかのぼる。

「ニコ、悪いけど任務に同行してくれ!」

 手を合わせて頭を下げ、バングルはニコに懇願してきたのだ。唐突に話を振られたニコはしばらく呆然とその様子を見てしまった。

「何で?」

 まだニコ自身仕事を振り分けられた事はないが、依頼を聞いたマスターが適材を送るようにしているはず。それなのに全く呼ばれていない自分に降りかかってこようとは、意外としか言いようがなかったのだ。バングルは苦笑いをして続ける。

「今回の依頼は魔女狩りなんだ。この魔女、面食いだってことで俺が呼ばれたんだけど…俺、戦闘に関しては自信ないからさ、もしもの為についてきて欲しいんだ」

 彼はジンやサファイにも頼もうとしたが、彼らは既に他の仕事へ配属されており、頼めなかったのだという。聞けばニコも戦闘要員だということで、頼みにきたのだ。

「なあ、いいだろ? お前も働いたって事に伝えておくし、事が順調に進めば面倒な事にはならないと思うから…。それに、先輩の言う事は聞くものだろ?」

 必死に頭を垂れて依頼するバングルに、ニコは渋々同意して今回の任務に同行したのだった。



 歓声を受けるバングルを傍から大儀そうに眺めながら、ニコは周囲への警戒を怠っていなかった。面倒な事にならない限りは心配ないとは言っていたが、相手は魔女。気を抜くとどうなるか分からない。いや、第一本当に魔法を使う相手なら、俺が来たところで無駄なのではないか――ニコはそう思った。だが、依頼は依頼。どうなるか分からずともこなすしかない…




 突如、暗雲が立ちこめ、辺りが急に薄暗くなる。急激に増殖した雲は怪しげな光を伴い始めた。背筋が凍るような邪気に、ニコは思わず身震いする。雲塊の中心から、雷光のごとく降り立つものがあった。たっぷりとした髪の毛と、緩やかなローブに身を包んだ女性。そんな若そうな女性がバングルの眼前に降り立ったのだ。突然の出来事に、それまでバングルを取り囲んでいた女の子達が例のごとく黄色い悲鳴を上げながら一目散に逃げていく。やばいんじゃないか、という予感がニコをを戦慄させる。バングルははじめこそ唖然としていたものの、すぐに表情を戻し、ニコに目配せした。大丈夫だ、という事なのかもしれない。付き合いは短すぎるが、表情で感じ取った。

「お主、村のものではないな? …じゃが、お主ならば合格じゃ☆」

 女性はしばらくはバングルの顔を眺めていたが、そのうち彼の顔に手を掛けた。滑るような細い指の動きに、バングルはわずかに身じろぐが、すぐに向き直る。

「失礼ながら…あなたがこの村の人の言う、魔女ですか?」

 ローブを纏い三角帽子をかぶった女性に、バングルは問う。女性は意外だというようにしばし彼を見つめる。そして、指を離して背筋を伸ばした。

「いかにも。わらわがこの辺りに住まう魔女、リーヴラじゃ」

 言いながら、魔女――リーヴラは不敵な笑みを浮かべた。その微笑みが、一層彼女を妖しく魅せる。そうして、うっとりとバングルを眺めた。

「お主はほんに色男じゃの…。村の者もなかなか良い計らいをしてくれたものじゃ」

 そんな彼女の態度に、それでもしかし落ち着いて、バングルは軽くため息をついた。

「ところで、“色男を婿として差し出せば今後村で悪さはしない”って話は本当なんだろうな?」

 それが本当の依頼の目的。妖しげな術を使いうる魔女とできるだけ温厚に交渉するために、バングルは呼ばれたのだ。ニコを連れてきたのは、ここでいい答えが得られない時のための、最終手段なのだ。言葉を受け、魔女は――口が裂けそうなほど、より一層笑った。

「何を言う。そんなものは色男を連れてこさせるための口実に決まっておろう! この村は豊かじゃ…じゃからわらわはこの村から手は切らぬ」

「なっ!? それじゃ話が違うぜ! 俺はあんたが大人しくなるって聞いたから――」

 動揺と怒りで声を荒げるバングルに、リーヴラはぐっと詰め寄った。お互いの息がかかりそうなほどの近距離。魔女はますます不敵に笑った。

 ――――体が、動かない。

まずい、と思ったが、もう遅かった。既にバングルの体は指の先まで石のように固まり、意思の影響を受け付けなくなっていた。魔女の術にかかってしまったのだ。

「わらわから逃れられるとでも? それに、お主がこちらにおれば、お主を人質に取る事もできるしの…」

 リーヴラは妖しく笑う。細い指が、バングルの体をなぞるように滑る。

「ほんに、色男は怯えた顔まで美しいのう」

 満足そうな魔女から逃げるように、バングルは唯一動かせる目を彷徨わせた。そして、すがるような視線をニコに送る。

 そこでニコが動いた。一気に駆け出して魔女の背後に回り込む。直後、鈍い音が響き、真っ黒い槍が魔女の体を貫いた。




 背後から突き出された槍が、魔女の胸から覗く。鮮血が太陽の光で槍を黒々と輝かせていた。

「な…に…?」

 不意打ちを受けた魔女は、力なく崩れ落ちた。そのまま起き上がってくる気配を見せない。ニコもバングルも、そこでひとまず息をついた。

「助かったぜ、ニコ。 」

 魔女の呪縛から解放されたバングルは、大きく息を吐いた。まるで、呼吸ができるという喜びにふけるように深呼吸したのだ。ニコはそれには答えず、そっぽを向くだけ。

「お? 何だ、照れてるのか? やっぱお前可愛いとk」

「うるさい」

 ゴンッと鈍い音が響き、手を伸ばし掛けたバングルに鉄槌が降ろされた。痛みでバングルは頭を押さえてうずくまる。そんな彼を差し置いて、ニコは魔女へと視線を戻した。

「ん?」

「ニコ、どうかしたのか?」

 ニコが違和感に気付いたのと同様に、バングルも彼の視線を追ってそれを理解した。女性の死体はそこにはなく、代わりに茶色の毛並みをした獣が倒れていた。

「これは…(かわうそ)だな。」

 バングルは死骸をのぞき込んでしみじみと言う。それは分かってる、とニコは毒づいた。問題は、何故魔女ではなくて獺なのかということ。バングルはやれやれ、と息をついた。

「たまにな、本物の魔女じゃなくて、生まれつき魔力の高い獣なんかが魔女のフリをしている事もある。今回は獺が魔女に化けてたみたいだな…」

 言い終わってからバングルは、俺も詳しくはないけどな、と付け加えた。ニコはただ、足下で倒れている獣の死骸に見入っていた。いつの間にか、周りには人だかりができている。

「倒したのか? …って、こりゃあ獺か?!」

「俺達はこんなものに苦しめられてたってのかよ!」

 人々は口々に言い合い、辺りはどよめき立った。この態度の変わりようには、二人とも感じていた。彼らにとっては本当に深刻な問題だったのだろうが。



 仕事に決着がつき、ニコとバングルは夕暮れの街並みを歩いていた。

「無駄に疲れた…」

 ニコはぼそりとこぼした。それをバングルはすかさず聞きつけ、気持ち嬉しそうに笑う。

「じゃあ、風呂にでも入ってくか?この辺りで温泉が湧いてるらしいんだ」

「帰る」

 バングルの提案をよそに、ニコは足早に歩いていった。こいつのこの性格では、ろくな事が起きそうにない。そう勘づき、逃げるように歩く。慌ててバングルもその後を追った。

「あっ、ちょっ、待てって・・・・・・てか速え!」

 早足で歩くニコを、バングルは小走りで追いかける事になるのであった……

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