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自己焼却の魔法使い《セルフファイア・ウィザードリー》  作者: 煉樹
第三章 魔術総本山 ヴェネト
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第十二席――世界を守るか、一人を守るか。

「とにかく、創世祭の間、彼らにあの少女に手を出させるわけにはいかなかった。……創世祭は、魔力シカトゥールリソースが最も薄くなる三日間。その間に、向こうがマリーを手に入れてしまえば、取り返しがつかない……。


 ……だから、私は、証人喚問を利用して、彼女に監視をつけた。五大家からなんの邪魔も入らなかったのは意外だったけれど、これで、当面は安心のはずよ」




 これ以上話すことはない、そう言いたげな彼女と、シュヴェスタの間に、なんとも言えない沈黙が下りる。


 表通りから聞こえる創世祭を前にした人々の喧騒が、耳に痛かった。




 その沈黙に耐えかねた……というわけではないだろうが、そこで思い出したように第十二席プロスィネツが口を開いた。




「——自己焼却セルフファイア」


「……え?」




 そして、そこで何気なく彼女が呟いた言葉は、彼を驚かせるには十分すぎるものだった。




「……何よ、その目」


「さっきの言葉は……?」


「あぁ……話をたまたま聞いてしまった時、あの人たちが言っていたの。その、魔法のことをね」




 自己焼却セルフファイアとは、なんなのか?


 ラインベリーがかつて行ったその魔法。


 それは、世界を救う魔法なのではないのか?


 一体、その裏には、何があるんだ?




 まだこの時のシュヴェスタには、それがどういう意味を持っているのか、わからなかった。




 答えの出ない無限迷宮に迷い込んだ彼に言葉をかけたのは、目の前の第十二席プロスィネツだった。




「ねぇ、シュヴェスタ。……あなたは、世界を取るの、それとも……たった一人の少女の命を守るの」




「俺は……」




 この時、シュヴェスタは、もう即答できなくなっていた。


 魔術師としての自分と、マリーの保護者役としての自分。




 魔術師としては、もし仮に世界が終わるとでもいうのなら、それは確実に止めなくてはならない。


 魔術は、決して人々の不幸のために使われてはならないのだから。




 けれど、それは、あくまで魔術師としての、自分。




 もし、世界を救うということがマリーを見殺しにするということを意味しているのだとしたら?


 その時、自分は……。




 本当に、どちらかを選べるのだろうか。




「……せいぜい、悩むことね」




 そう言い残して、第十二席プロスィネツはその場を去ろうとした。





 ――その瞬間。




 パァン




 乾いた音が、街の喧騒を切り裂いて。




 目の前の第十二席プロスィネツが「え?」とでもいうかのような、表情を浮かべて。


 パッ、と、その胸に鮮血の花が咲いた。




「第十二席プロスィネツッ!?」




 ドサッと崩れ落ちた彼女に駆け寄って抱きかかえる。


 そして、慌ててこれ以上の追撃を受けないように物陰に移動する。


 改めて見たその顔からは、みるみるうちに血の気が引いていって。


 見ているこちらが、目を背けそうになるほどだった。




 何が、起こったのか。


 それは、明白だ。


 彼女の行動をよく思わなかった何者かが、彼女を消そうとした。




 つまり、今、彼女が襲われたことで、逆に彼女の話は本当のことであると証明されたということになる。




 で、あるならば、今狙撃を行った人物は――




 魔術五大家オナーカードの、関係者。




 もちろん魔術戦で負けるつもりはなかったが、シュヴェスタも無傷では済まされないだろう。そもそも、向こうの居場所すらわからないこの状況。魔術戦にもちこめる見込みすらかなり薄い。




「く……ぉ……」




 彼女がこちらを向いて、何かを言おうとする。


 しかし、その声は切れ切れで、意味をなさずに中空に消えていく。




 とにかく、事情を知る彼女を死なせるわけにはいかない。


 シュヴェスタは必死に魔術で蘇生を試みる。




 ……しかし、結果はむなしいものだった。




 散りゆく花を手のひらで集めても、それが再び花に戻ることはないのだ。




 徐々に、徐々に、彼女の呼吸が、弱くなる。




 苦悶の表情を浮かべる彼に、第十二席プロスィネツが、手を伸ばす。


 何かを伝えるために。




 その言葉は、思ってもいないものだった。




「……ごめん、なさ……い、ね……」




 そして、抱きかかえた彼女の体からは、急速に熱が引いて言って。




 もう助からない。


 はっきりと、そうわかった。




「ッッッックッソぉぉぉぉ!!!!!」




 ギリ、と強く噛み締めた歯が、痛い。




「今更謝るんじゃ、ねえよ……」




 割り切るには、シュヴェスタの性格は、優しすぎた――。

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