第十二席――世界を守るか、一人を守るか。
「とにかく、創世祭の間、彼らにあの少女に手を出させるわけにはいかなかった。……創世祭は、魔力シカトゥールリソースが最も薄くなる三日間。その間に、向こうがマリーを手に入れてしまえば、取り返しがつかない……。
……だから、私は、証人喚問を利用して、彼女に監視をつけた。五大家からなんの邪魔も入らなかったのは意外だったけれど、これで、当面は安心のはずよ」
これ以上話すことはない、そう言いたげな彼女と、シュヴェスタの間に、なんとも言えない沈黙が下りる。
表通りから聞こえる創世祭を前にした人々の喧騒が、耳に痛かった。
その沈黙に耐えかねた……というわけではないだろうが、そこで思い出したように第十二席プロスィネツが口を開いた。
「——自己焼却セルフファイア」
「……え?」
そして、そこで何気なく彼女が呟いた言葉は、彼を驚かせるには十分すぎるものだった。
「……何よ、その目」
「さっきの言葉は……?」
「あぁ……話をたまたま聞いてしまった時、あの人たちが言っていたの。その、魔法のことをね」
自己焼却セルフファイアとは、なんなのか?
ラインベリーがかつて行ったその魔法。
それは、世界を救う魔法なのではないのか?
一体、その裏には、何があるんだ?
まだこの時のシュヴェスタには、それがどういう意味を持っているのか、わからなかった。
答えの出ない無限迷宮に迷い込んだ彼に言葉をかけたのは、目の前の第十二席プロスィネツだった。
「ねぇ、シュヴェスタ。……あなたは、世界を取るの、それとも……たった一人の少女の命を守るの」
「俺は……」
この時、シュヴェスタは、もう即答できなくなっていた。
魔術師としての自分と、マリーの保護者役としての自分。
魔術師としては、もし仮に世界が終わるとでもいうのなら、それは確実に止めなくてはならない。
魔術は、決して人々の不幸のために使われてはならないのだから。
けれど、それは、あくまで魔術師としての、自分。
もし、世界を救うということがマリーを見殺しにするということを意味しているのだとしたら?
その時、自分は……。
本当に、どちらかを選べるのだろうか。
「……せいぜい、悩むことね」
そう言い残して、第十二席プロスィネツはその場を去ろうとした。
――その瞬間。
パァン
乾いた音が、街の喧騒を切り裂いて。
目の前の第十二席プロスィネツが「え?」とでもいうかのような、表情を浮かべて。
パッ、と、その胸に鮮血の花が咲いた。
「第十二席プロスィネツッ!?」
ドサッと崩れ落ちた彼女に駆け寄って抱きかかえる。
そして、慌ててこれ以上の追撃を受けないように物陰に移動する。
改めて見たその顔からは、みるみるうちに血の気が引いていって。
見ているこちらが、目を背けそうになるほどだった。
何が、起こったのか。
それは、明白だ。
彼女の行動をよく思わなかった何者かが、彼女を消そうとした。
つまり、今、彼女が襲われたことで、逆に彼女の話は本当のことであると証明されたということになる。
で、あるならば、今狙撃を行った人物は――
魔術五大家オナーカードの、関係者。
もちろん魔術戦で負けるつもりはなかったが、シュヴェスタも無傷では済まされないだろう。そもそも、向こうの居場所すらわからないこの状況。魔術戦にもちこめる見込みすらかなり薄い。
「く……ぉ……」
彼女がこちらを向いて、何かを言おうとする。
しかし、その声は切れ切れで、意味をなさずに中空に消えていく。
とにかく、事情を知る彼女を死なせるわけにはいかない。
シュヴェスタは必死に魔術で蘇生を試みる。
……しかし、結果はむなしいものだった。
散りゆく花を手のひらで集めても、それが再び花に戻ることはないのだ。
徐々に、徐々に、彼女の呼吸が、弱くなる。
苦悶の表情を浮かべる彼に、第十二席プロスィネツが、手を伸ばす。
何かを伝えるために。
その言葉は、思ってもいないものだった。
「……ごめん、なさ……い、ね……」
そして、抱きかかえた彼女の体からは、急速に熱が引いて言って。
もう助からない。
はっきりと、そうわかった。
「ッッッックッソぉぉぉぉ!!!!!」
ギリ、と強く噛み締めた歯が、痛い。
「今更謝るんじゃ、ねえよ……」
割り切るには、シュヴェスタの性格は、優しすぎた――。




