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自己焼却の魔法使い《セルフファイア・ウィザードリー》  作者: 煉樹
第三章 魔術総本山 ヴェネト
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第十二席――裏で手を引く者

 アイアスとマリーの証人喚問から数時間後。


 ヴェネトの表通りから逸れた裏道に、二人の人影があった。


 それは、魔術界のいずれ劣らぬ実力者たち。


「……君の思い通り、というところかい? 第十二席プロスィネツ

「……なんのことかしら。……第八席スルペン

「しらばっくれないでくれるかな」


 その言葉尻には、シュヴェスタにしては珍しく、激しい怒りが込められていた。


「アイアス君を収監し、マリーに監視を付ける。……さっきの審判の場での結果のことさ」

「さぁ……、どうかしら? まぁ、あなたがそう思うのは勝手よ」


 あくまで自分は無関係。ただ、仕事上の職務を遂行しただけ。

 そう言いたげな第十二席プロスィネツ


「へぇ……、いつまでそんなことを言っていられるのかな。……少し前、ちょうど証人喚問の少し前に、例の事故の犯人を捕らえてね。……彼女、ペラペラ喋ってくれたよ。君との関係を」

「なっ……」


 得意げなシュヴェスタの発言に、第十二席プロスィネツは眉を顰める。

 それを見て、シュヴェスタはしたりというように口角を上げる。


「……ふーん、その反応を見ると、どうやら図星、と言う感じだね」

「……えっ?」

「ははは……君は相変わらず顔に出やすい。悪巧みは向いてないよ」

「……カマかけた、ってわけね」


 怒りを隠しきれない、という様子で第十二席プロスィネツは漏らす。


 シュヴェスタには、先の奥の十二席(ステンドグラス)の会議の後、ろくに調べる時間などなかった。

 調べられたのは、本当に肝心要の事象だけだ。

 だが、今日の最高評議会ガーデンの成り行きを知り、ブラフをかけることは……容易かった。元来彼はその頭脳を持って、魔術界の最高峰まで駆け上がってきたのだから。

 それに、失敗しても、損のない賭け。

 行わない理由はない。

 相手が反応が表に出やすい第十二席プロスィネツだったのだから、なおさら。


「僕だって、何も知らないままじゃ、いられないんでね。……少し、強引に行かせてもらった」

「……前から、気に食わなかったの。あなたの、その人を食ったような態度が……」


 そこまで言って、第十二席プロスィネツは大きく深呼吸をする。

 しかし、何か魔術でも行使してくるのだろうか、と身構えたシュヴェスタの予想に反して、その後の彼女は、実に冷静だった。


「……はぁ。……まぁ、いいわ。別に、バレて私が損するわけじゃないし」

「……へぇ?」


 その言葉を聞いて、シュヴェスタは眉を吊り上げる。

 自分があの飛行機事故の黒幕だと言われたのに、この落ち着きようは、なんだ?


「そうね、確かに全部私よ。……実際、私が、マリーという少女を殺すように指示して、結果あの事故が起きたわ。……でも、勘違いしないでほしい。確かに、私は天秤にかけた上で、飛行機の乗客と一人の少女の命なら、見捨ててもいいと判断したわ。……その程度の犠牲で済むのなら、ね」

「……その程度の犠牲、だって?」

「ええ、そうよ。……あのマリーという少女は危険なの」


 彼女はこう言ったのだ。何百人もの命が、その程度だと。

 そして、それがどうしたというように、佇んでいる。

 言葉を発する度に、第十二席プロスィネツの体には使命感がみなぎっていくかのようにすら感じた。


「……聞いてしまったの。魔術五大家オナーカードは世界を崩壊させる気よ。……魔法という、真理の名の下に、ね」

「……魔術五大家オナーカードが?」


 それは、にわかには信じがたい話だった。

 魔術五大家オナーカードは、魔術界の秩序を何百年もの間守ってきた者たち。

 その、彼らが、世界の崩壊を企むなど。


「有り得ない……」


 まだ、第十二席プロスィネツの苦し紛れの言い訳だと言われた方が、納得がいく。

 けれど、先ほどの分かりやすい態度と違う、この、落ち着き払った第十二席プロスィネツの姿はなんだ。


「正確には、魔術五大家オナーカードの誰か、だけど。……まぁ、信じる信じないはあなたの勝手よ。でも、私は、一人の魔術師として、それを阻止しなくてはならない。……たとえ数えきれない犠牲が出て、あなたが敵に回ろうと、ね」


 その声には、確たる信念が宿っているようにシュヴェスタは感じた。

 普段の反応がわかりやすい彼女だからこそ、そこに疑う余地はないように思えた。



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