第十二席――裏で手を引く者
アイアスとマリーの証人喚問から数時間後。
ヴェネトの表通りから逸れた裏道に、二人の人影があった。
それは、魔術界のいずれ劣らぬ実力者たち。
「……君の思い通り、というところかい? 第十二席」
「……なんのことかしら。……第八席」
「しらばっくれないでくれるかな」
その言葉尻には、シュヴェスタにしては珍しく、激しい怒りが込められていた。
「アイアス君を収監し、マリーに監視を付ける。……さっきの審判の場での結果のことさ」
「さぁ……、どうかしら? まぁ、あなたがそう思うのは勝手よ」
あくまで自分は無関係。ただ、仕事上の職務を遂行しただけ。
そう言いたげな第十二席。
「へぇ……、いつまでそんなことを言っていられるのかな。……少し前、ちょうど証人喚問の少し前に、例の事故の犯人を捕らえてね。……彼女、ペラペラ喋ってくれたよ。君との関係を」
「なっ……」
得意げなシュヴェスタの発言に、第十二席は眉を顰める。
それを見て、シュヴェスタはしたりというように口角を上げる。
「……ふーん、その反応を見ると、どうやら図星、と言う感じだね」
「……えっ?」
「ははは……君は相変わらず顔に出やすい。悪巧みは向いてないよ」
「……カマかけた、ってわけね」
怒りを隠しきれない、という様子で第十二席は漏らす。
シュヴェスタには、先の奥の十二席の会議の後、ろくに調べる時間などなかった。
調べられたのは、本当に肝心要の事象だけだ。
だが、今日の最高評議会の成り行きを知り、ブラフをかけることは……容易かった。元来彼はその頭脳を持って、魔術界の最高峰まで駆け上がってきたのだから。
それに、失敗しても、損のない賭け。
行わない理由はない。
相手が反応が表に出やすい第十二席だったのだから、なおさら。
「僕だって、何も知らないままじゃ、いられないんでね。……少し、強引に行かせてもらった」
「……前から、気に食わなかったの。あなたの、その人を食ったような態度が……」
そこまで言って、第十二席は大きく深呼吸をする。
しかし、何か魔術でも行使してくるのだろうか、と身構えたシュヴェスタの予想に反して、その後の彼女は、実に冷静だった。
「……はぁ。……まぁ、いいわ。別に、バレて私が損するわけじゃないし」
「……へぇ?」
その言葉を聞いて、シュヴェスタは眉を吊り上げる。
自分があの飛行機事故の黒幕だと言われたのに、この落ち着きようは、なんだ?
「そうね、確かに全部私よ。……実際、私が、マリーという少女を殺すように指示して、結果あの事故が起きたわ。……でも、勘違いしないでほしい。確かに、私は天秤にかけた上で、飛行機の乗客と一人の少女の命なら、見捨ててもいいと判断したわ。……その程度の犠牲で済むのなら、ね」
「……その程度の犠牲、だって?」
「ええ、そうよ。……あのマリーという少女は危険なの」
彼女はこう言ったのだ。何百人もの命が、その程度だと。
そして、それがどうしたというように、佇んでいる。
言葉を発する度に、第十二席の体には使命感がみなぎっていくかのようにすら感じた。
「……聞いてしまったの。魔術五大家は世界を崩壊させる気よ。……魔法という、真理の名の下に、ね」
「……魔術五大家が?」
それは、にわかには信じがたい話だった。
魔術五大家は、魔術界の秩序を何百年もの間守ってきた者たち。
その、彼らが、世界の崩壊を企むなど。
「有り得ない……」
まだ、第十二席の苦し紛れの言い訳だと言われた方が、納得がいく。
けれど、先ほどの分かりやすい態度と違う、この、落ち着き払った第十二席の姿はなんだ。
「正確には、魔術五大家の誰か、だけど。……まぁ、信じる信じないはあなたの勝手よ。でも、私は、一人の魔術師として、それを阻止しなくてはならない。……たとえ数えきれない犠牲が出て、あなたが敵に回ろうと、ね」
その声には、確たる信念が宿っているようにシュヴェスタは感じた。
普段の反応がわかりやすい彼女だからこそ、そこに疑う余地はないように思えた。




