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帰還――守ったものはそこに

 不釣合いなほどにのほほんとしたその声は、この非常事態にも関わらず、緊張感というものが微塵も感じられなかった。


「え……? っ! シュヴェスタさん!?」

「ん……、なーんだ、大丈夫そうじゃねーか」


 現れたのは、マリーとシータの師にあたる人物、シュヴェスタ・ラインベリーだった。


「どうしてここに!?」

「不出来な弟子二人がピンチを悟ってね……って! あ痛! 叩かなくてもいいじゃねーか!」

「悟ってたな、ら……、もっと早く、来てください、よ……」

「いやいやー、これでもマリーから連絡聞いて、すっ飛んできたんだぜ? 思ったより近くで助かったぜ」


 その言葉にシータは何かに気づいたかのような表情をする。

 そう、マリーはシータに機体の維持を任せている間、シュヴェスタに連絡を取っていたのだ。もちろん、侵入者との戦闘で壊れてしまっていた電子機器は、使えなかった。

 だから、マリーは持てる魔術知識を総動員して、シュヴェスタにこちらの危機を伝えようとした。

 この飛行機がヴェネトからどれだけ離れた場所を飛んでいたかはわからなかったけれど、そう遠くないことは騒動の前に見ていたフライトマップからわかっていた。けれど、だからと言って、自分の魔術でうまく連絡を取れるかというのは……正直に言うと、五分五分……下手をしたら、もっと分の悪い賭けだったかもしれない。

 ――けれど、成功した。


 シータがチラリとこちらを向いて、まったく無茶をするんだから、とでも言いたそうな表情を浮かべる。

 テヘへと、それに頭をかき苦笑いしながら返すと、シュヴェスタに


「調子に乗るな。どんだけ危なかったかわかってるのか?」


 と、こつんとおでこを叩かれる。


「痛っ」


 思わず両手でそこを押さえると、なんだかこんなゆったりとした空気が嬉しくて、思わず笑みが漏れる。


「……さてと。んじゃまあ、俺たちはさっさとずらかるぞ」

「え?」

「なーにを驚いたみたいな顔してるんだ。『魔術師』である俺たちがこのまま残ってていいことがあるわけないだろ」

「あ……」


 いろんなことがあって、つい忘れていた。

 自分たちが、陽の光を浴びるような立場の人間ではないということを。


「ちょっと、寂しい、な……」

「ん、なーにがだ?」

「自分たちの頑張りが、評価されないっていうのは、なんか、ね」

「……なーにいってんだ」


 そんなことを考えていたのか、とでもいうかのように、ポン、と頭の上に手を置かれる。


「後ろ、向いて見ろよ」

「後ろ……?」


 言われた通り、立ち上がって後ろを振り向く。


「お前たちが守ったものなら、そこにちゃんとあるじゃねーか」


 そこには、大勢の人たちがいた。

 放心している者。こちらを見つめている者、天に祈っている者。様々だったけれど、みんな、生きていた。


(……これが、私たちが、守ったもの――)


 二人が、魔術師として、正しく存在できた、証。


「……ま、でも、後で俺たちのことは忘れてもらうことになるけどな」

「……もう、シュヴェスタさんは、相変わらず、空気読めない……」


 そう漏らすマリーの後ろから、シュヴェスタはいつの間に縛ったのか、よいしょ、と手足を拘束したクレタを持ち上げる。


「……彼女、どうするんですか?」

「ん? さーな。もう一人いたのは取り逃がしちまったみたいだけど、こいつには聞きたいことは山ほどある。帰ったらなんなりとするさ」


 そこで、一呼吸置くと、シータとマリーを元気づけるかのように、声のトーンを上げて、シュヴェスタは言った。


「んじゃ、まあ、長旅ご苦労さん! さー帰ろうぜ! ヴェネトに」


 懐かしい、響き。

 ヴェネト。

 生まれ、育った街。


「うん。……帰ろう!」


 ボロボロになってしまった機内の陰から出てみると、太陽が燦々と照らす外は、思っていたよりも、ずっと明るかった。


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