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招く猫は迷いの森をつくる

 手を上げた変な猫の石像が目についた。まるでおいでおいでと手招きしているようにも見える。


 ピチチと青色の美しい鳥が枝にとまってさえずる。


「こんな猫の石像、この森にあっただろうか?」


 コンラッド王子はふと気になり、森の入口付近で馬の足を止めた。


「殿下!急いでください。夕闇が迫ってきます。国境へ明るいうちに戻りましょう!」


「あの石にされた者達を置いてくのは気がかりだが……」


 ウィルバートが進軍してこないため、籠城作戦に出たかと思っていた。それで副将軍に偵察を兼ねて攻めてみるようにと言ったのだ。


 しかし……しばらく待っても城から反応はなく、残った者の話によると中に入ると美しいハープの音色が聞こえ、気づくと石になっていたという。こちらの魔道士部隊にどうにかできないのか?と聞くと城には複雑な術式をかけてあり、到底並の者では解呪できないと報告を受けたコンラッド王子だった。


「いったい……いつから用意していたんだ?城を丸ごとあのように囮に使うなど……しかも地形まで綿密に計算されている」


 あの橋を落とされた事もだ。最初から警戒し、この森を迂回して戻れば良かったとギュッと手を握る。


 今更、悔やんでも悔やみきれない。


 ウィルバートはこんな戦い方を今までしてきただろうか?あの尊敬している獅子王は勇猛果敢で武芸によって相手をひれ伏してきたはずじゃないのか?森の中、馬を走らせながら、コンラッド王子は今回の失敗を何度も考える。


 このような戦い方はウィルバートの姿らしくない。


 まさか?とあの狡猾な王妃の姿が目に浮かぶ。……いや、まさかだろう?王妃を戦場に連れてくることはないだろうし、なんでもない女が戦略を立てることは許さないだろう。


「コンラッド王子……ここ……先程も通りませんでしたか?」


「………え?」


 猫の石像がまた目に入る。入り口で見たものとそっくりだった。


「皆、落ち着け!ゆっくり馬を進めろ!」


 すでに太陽は傾き、森の中は木々が鬱蒼としているため、暗く見えにくくなってきた。


「ヒィッ!ま、また猫の石像!」


「も、森から出れない!」


 何度も同じ道をぐるぐる周ってる。猫の石像に何度も出会い、不気味に思えてきた。これは罠ではないか?そう皆が思い始めた時だった。


「なにかの術か!?魔道士部隊に破らせるように!」


 そうコンラッド王子が命じたが、魔道士部隊の隊長が声を震わせる。彼もまた動揺している。


「で、殿下………なんの術式の気配も感じられません。この場は普通にできた場所で………我々はとんでもないところに迷い込んたのでは?」


「なっ!?なんだって!?」


 森は完全な暗闇となった。


「魔法の明かりで照らせ!…………っ!?これは!?」


 コンラッド王子が明りを灯す前に木々の間から光が生まれる。


「殿下っ!囲まれて!!囲まれております!!」


「こんばんは。コンラッド王子、猫の迷路はどうでしたか?」


 気づけばグルリと周りを敵兵に囲まれていて、黒髪の少年がコンラッドに話しかけてきた。隣にはウィルバートの腹心の三騎士の一人トラスとセオドアが両端に立っている。

 

 夜に不自然な青色の鳥が羽ばたいて横切ったかと思ったらフッと消えた。


「チェックメイトです。ゲームは終わりです。相手のキングの駒は我が手の中へ。大人しく来ていただきましょうか?」


 エメラルド色の眼が宝石のように輝いてこちらを見ている。………コンラッドは理解した。


「また負けてしまうなんて……ね……」


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