300【大陸の支配者!?】魔王を決めるよ!【天変地異】(2)
どうぞ。
フェルニコラズ地上部分の山を渡った、あの魔王虫が刻み付けた峡谷の前に、玉鋼陣営「鮮血紅夜」の作ったセーブポイントがある。貸してもらったその場所で、砂漠を越えてやってくるゴーレムたちが見える……いったいどのくらいの数がいるのか、想像もできないくらいだった。
砂地に置いただけの机と椅子から立ち上がり、新しい装備に着替えた。
『こないだ狩ってたやつか!』『ひさびさぁ!』『あの失敗作の……』『機密漏らしてるやつおって草』『目玉がひとつなんてことないよな!!』『やっぱバニーだよな』『この人のバニーに対する執着は何なんだろうな』『↑レオタード=ステージ衣装って思ってるくさい』『バニースーツって一式でバニースーツなんじゃね』
こないだ狩った素材で作ってもらった「抹茶ウサギのレオタード」を中心にして、薄い黒タイツと茶色いサンダル、白い燕尾服、いつものサイドテールに黒いとがり気味のハットを合わせている。
「ふっふっふー、抹茶パフェだよー。足りないチョコはここ! 今回は殴るスタイル!」
腰に差した飾剣は、リュグノーから削り出した短めの木刀だ。ちょうどよくチョコレート色で、長さもちょうど、私と比べてだけど、パフェに突っ込む棒くらいの大きさだった。
「その剣は、踊りに使う強度の低いものだったはずでは……?」
「甘いよーレーネ、この木刀は二十年使えるって言われてるんだから。こんなふうにね?」
青いカードでコピーして、ゴーレムに投げ込む。バゴンッ、と頭の単眼が破壊され、一撃で倒れ伏した。折れた木刀は、光の粒になって砕け散る。
「耐用年数はともかく……すごい強度ね」
「木刀として使っているプレイヤーもいるくらいですからなー。さてさて?」
ゴーレムの主の姿は見えない。遠隔操作らしいことは一瞬で想像がつくけど、それにしてもゴーレムたちの材質がそれぞれに違いすぎる。
『精霊に近い方のやつかなぁ。召喚術に近いかも』
「召喚? あんなのいくらでも出せるって、おかしくない?」
『おまいう』『お前が言うな定期』『この美しいブーメランの投げっぷり、惚れ惚れするね』『あんたもじゅうぶんチートじゃろがい!』『座長が言うとただのイヤミやぞ』『エサやりのたびにあちこち大騒ぎになるんですがそれは……』
ぴょんぴょん跳んでゴーレムのやってくる方角を見るけど、何かがあるようには見えなかった。でも、確かに湧いてきている。
「砂か岩が、そのままゴーレムに変わっているように見えます」
「うーむ。大陸産のアレな技術のひとつかもしれませんな。知っての通り、ここは禁忌が「ちょっと外食行こう」くらいの感覚で冒されまくっていた場所でして」
『こういう自然召喚陣みたいなもの、あるのかもねぇ。ワルイダーが乗っ取って使ってるなんて、想像もしなかったけど』
「設営に王手をかけてたのって、こういう設備まで万全だったから、ってことなのかしら」
固いゴーレムを殴って叩き壊し、木刀を投げて粉砕して、だんだんと峡谷の方に近付いていく。ただ足場にするには、反応速度が良すぎた……順番に倒すと、壊れたあとの岩や砂がその場で崩れて残っていて、どんどんと足場が悪くなっていく。
「はっはっはっはっは! やあ、「水銀同盟」の諸君……我々の挑戦状を受け取ってくれたこと、心から感謝するよ! 我々は、地下にほぼ完全な状態の街を築き上げ、この地を制圧した。所有権のみならず、命名権や徴税権もこの手にある!」
金と銀のパーツを変なモザイク模様みたいに配置した鎧、しかも顔には白黒の双面を付けた、ものすごく変な恰好の人がいた。声は何重にもエフェクトがかかっていて、男女の声が重なったうえで低いのと高いのとの加工を混ぜこぜにしたような……ちょっと元の声が分からない、すごい声になっている。
「私の名前は「大首領ダ・ダーク」! 闇の頂点に立つべく、この世に降り立った悪の大首領である! そして彼は「ヴァイロス」……」
ゴーレムがさっと道を開けると、ドン、と降り立った影があった。元の種族やジョブが何だったのかがぜんぜん分からないくらい、全身をサイボーグにしてしまっている。けれど、あちこちにあるデザインはきっと、メガゾードのものだった。
「我々が誇る、最強の改造兵士だ。彼こそが、私を超える最強となる!!」
『ああ、金庫五つ的な……』『↑仲間もドン引きのクソ改造やめろ』『あれ仲間の命奪ってやってるんだよな』『まあプレイヤーでよかった』『あれを現実でもゲームでもやれるわけないだろ!w』『ほかのゲームだとNPC違法改造はできるんだよね』『聞きたくなかった情報来たな……』
そして、とドンなんとかは魔石を取り出した。
「今この場で、彼は完全な姿に進化する。さあ、見届けるがいい! 絶望の化身が、ここへ降臨するのをな!!」
フェアプレーの精神で、誰も邪魔はしない……投げ渡された魔石を受け取ったサイボーグは、魔石をバキンと砕いた。
「実験体」
コメントにあった「金庫五つ」のこと。『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』に登場したモルモットの怪人で、チョコラータとどっこいどっこいのクズ、猟奇趣味の医師モドキ「ゴーシュ・ル・メドゥ」が製作した。「五つの金庫」という非常に目立つ特徴を持ち、すべての金庫に入れたコレクションの能力を駆使するうえ、ロックも連動していて五つ同時に金庫を開けなければならない難敵。けっこう凝った名前が付いていることの多いこの作品の怪人には珍しく単純な名前だが、その真相は考えたくもないほどおぞましい。
そもそもの話として、『ルパパト』に登場する怪人「ギャングラー」は、体にひとつ金庫を持っている。これはルパンコレクション(特殊な力を持った宝物)の力を行使するための媒介のみならず、死んでも残る心臓部としての役割も持つ。多くのギャングラーはひとつの金庫しか持たず、それを剥奪されると死ぬものと考えられる。言うまでもなく、これを作るために最低四つの命(と、本人の戻ってこない意識も……)が犠牲になっていると考えられる。もともと「異世界犯罪者集団」と銘打たれるギャングラーはクズやゲスばかりとはいえ、ここまで命を冒涜できる姿勢には逆に感心する。
この最低な実験は、「手段は問わない。人間界を制圧したやつに、ボスの座を譲り渡す」と宣言したボスの器が広いから受け入れられているだけであって、同じ幹部の「デストラ・マッジョ」には「人間を切り刻むだけでは飽き足らんのか!」「こんな化け物が、次のボスになど……」と終始ドン引きされていた。劇中に「金庫を取られた、殺されるかもしれないから保護してほしい」と警察に自首するギャングラーまでいるので、どう考えても同族に受け入れられているとは思えない。
なお、「同時に五つの能力が使える」ことは確かなのだが、怪人の固有技は受け継がれていなかったり、本人の意識レベルは暴れるだけの怪物まで落ちていたりと、改造としては非常に質が低い。ギャングラーは、低レベル極まりない詐欺から身代金誘拐・強盗や食人まで幅広く悪行に手を染めているのだが、こういう解剖学的見地を必要とする理由もきちんとあるため、ゴーシュがクズとして底の底……などとはとても言えないのもまた怖いところ。




