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緑の手のキトル〜極貧で売りに出されたけど、前世の知識もあるから全然生きていけます〜  作者: 斉藤りた
バラグルン共和国編

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エピソード 58

「ほら、探偵ナイト!出番だよっ!」


「前から言ってますけど、そのたんていって何なんすか?」


ぐいぐいとナイトの背中を押して、部屋の中央に連れて行く。


「説明しよう!離れた場所である神殿の奥からこの壁画が描かれた部屋に来たと主張する女性。そして、それは記憶違いだ、迷ってここに辿り着いただけだと主張する男性。しかし、この部屋はつい最近まで密室だったはず。一体どうやって女性はこの部屋へとたどり着く事が出来たのか?謎は深まるばかりだったその時、探偵ナイトの推理が冴えわたるっ・・・!」


「何言ってんすかホントに」


も~ナイトってばノリ悪ぅ~!


「だからさぁ、ナイトってこういう謎を解き明かす的なの、めっちゃ得意じゃん?考えてよ~」


「えぇ?俺には大役過ぎますって・・・」


そう言いながらも、部屋の中を調べ始めるナイト。


壁に触れて調べてみたり、床に顔を近づけたり。


そのまま黙って成り行きを見守って、十分ほど経った頃。


「ヘブン、ちょっとこっち来れるか?」


出入り口になった穴とちょうど反対側の壁、描かれた絵で言うとマンションの日陰になってる黒く塗られた部分を指さしている。


「この辺って・・・」


何て?小声で聞き取れなかった。


クンクンと鼻を近づけ匂うヘブン。


「ホントですねっ!匂いますっ!」


「だよな?」


何が何が?何が匂うの??


立ち上がったナイトが私を手招きする。


「キトルさま、この辺に・・・え~っと、そうっすね・・・木とか草を操る感じで力を込める事って出来ますか?」


はいぃ?


「ここに??壁に向かって、って事?」


「そうです、出来ます?」


え?出来ます?って・・・


「いや、やってみてもいいけどさぁ・・・」


壁に手を出して力を入れてみる。植物を操る感じでしょ?壁はさすがに操れないのでは?


・・・んんっ?


「なんか、動かせそうな感じが、する、かも?」


「あ、やっぱり」


え?やっぱりって何?どうなってるの?


もっと力を込めてみる。動かせそうな感じはあるんだけど、すっごい重たい石を運んでるみたいな・・・!


「な、に、こ、れ、ぇ・・・!す、ご、い、抵、抗、さ、れ、て、る・・・っ?!」


ググググッ・・・!


こんのぉ~!!


ズ、ズ、ズ、ズ


思いっきり力を込めると、壁の絵がゆっくりと剥がれるように動き、岩肌が見え始めた。


「ど、ぉ、い、う、事、ぉ~?!」


「この壁、植物なんですよ。いや岩なのは岩なんで、何て言うか、岩石系?鉱物系の植物みたいな。こんなの見た事ないんで、多分昔の使徒様が作られたんじゃないんすかね。これが部屋をビッシリ覆ってて、壁に張り付いてるんす。あ、ほら、見えてきた」


私が無理やり剝がしてる壁画の下、岩肌に穴が開いている。


「多分ここの壁と、神殿の奥の壁が隣合ってるんすよ。この穴が神殿まで繋がってて、ここから昔の使徒様は出入りしてたんじゃないっすかね?」


「え・・・?!で、でも、この前調べた時には神殿には穴なんてなかったと思いますけどぉ」


グリンベルダさんが首を傾げる。


「多分、神殿の壁も同じような岩系の植物で覆われてるんだと思います。あっちの神殿に入った時、キトル様が床に落ちてた壁の破片を手に取ってたのを見て、もしこれが植物なら枯れる事もあるんじゃないかと思って」


あぁ、そういえば破片が落ちてたね。よく見てるなぁ。


「この壁は育ったり枯れたりを繰り返して、穴が開いたり塞がったりしてるんだと思います。たまたまグリンベルダさんが祭典で入ったタイミングで、両方の壁の一部が剥がれてたんじゃないっすかね。まぁ調べてみないと絶対とは言えませんけど」


ナイトすっごぉ・・・!


そして、これきっつぅ・・・!


ちょっと気を抜くと、壁が元に戻ろうとしてくる。


なんでこんなに力がいるのぉ?!


「ヘブンがあっちの神殿の匂いを覚えてたんで、間違いないんじゃないかと」


「えぇ!同じカビ臭い匂いがしましたっ!」


フンッ!とヘブンの得意な胸張りポーズ。


可愛いけど、今はそれどころじゃないっ・・・!


「ね!これ!いつ、まで、やってれば、いいの、おっ?!」


「あ、この壁さっきちょっと爪で削ってみたんすけど、一瞬で元に戻るんすよ。しかもこの絵も模様みたいになってるんで、削っても元の絵になるんです」


「つ、まりぃっ?!」


「・・・多分これ剥がせるの、キトル様だけなんすよね。そのまま、何とかキープ出来ませんかね?」


むっりぃぃぃぃぃ!!


「使徒様同士の力が反発してるのかのう?これはこれで興味深いぞい」


「そうですねぇ、自然に枯れる事はあっても、人為的な力は受け付けない、という事でしょうかぁ?」


「研究者どもを連れてくるまでこのまま待ってもらいたいところだぞう」


「おいおい、ちょっと壁戻って来てんじゃねぇの?使徒様頑張れよ~」


無理だっつってんでしょうがぁぁぁぁぁぁ!!


だぁぁぁぁぁっ・・・!!


ついに力尽きて四つん這いになり、肩でゼーゼーと息をする。


頭を引っ張り上げるように壁を見ると、もう元に戻ってる。


「も・・・もう壁は、壁のままで、良く、ない?」


ふひゅーふひゅーと荒い呼吸をしながら懸命に訴えてみるけど。


「神殿は神聖なる場所として詳しく調べる事が無かったからのお。次いつ使徒様がこの国にいらっしゃるのかもわからんのだし、手伝って欲しいぞう」


と兄の王様が言えば弟のノルドさんまで


「もし普通に調べるとなると信者が猛反発するが、使徒様がやると言えば誰も文句言わんしのう。早めにここの穴を保持出来るようにするしかないぞい」


と言い出す。


し、使徒使いの荒い奴らだぜっ・・・!


「キトル様お疲れ様っす」


「ナ、ナイトもお疲れ・・・」


任された仕事をやり遂げて、ニッコー!と満面の笑みでしゃがみ込むナイトを横目に、光りゴケの上に寝転んだキトルちゃんでしたとさ。







癒し系代表のはずの私が超パワー系の頑張りを見せてから一週間。


あの次の日には研究者の人達が部屋に入り、日本の風景に圧倒されながら壁の調査を始め、穴を確保するべく岩系植物の成長を止める方法を見つけた。


見つけたというか、単に穴の中に金属のトンネルをはめ込んで壁を作らせないという原始的な手段なんだけど。


けどつまり、その大きさや形を確認する時にも、微調整をする時にも、それをはめ込む時にも私が協力するわけで・・・。


神殿と壁画部屋のトンネルが完成してから丸一日、私は動けないくらいの筋肉痛でベッドから出られなくなってしまったのだ。


「は〜・・・やっと起き上がれるようになった・・・」


ベッドに座って軽く腕を動かし、身体の調子を確認する。


巻き込まれたとは言え前々の使徒様の軌跡も存分に辿れたし、自分に出来る事はもう終わったから、そろそろ本来の目的に戻らなきゃね。


いい加減お花の形の石を探して、この国にちゃんと緑を・・・


バァン!と勢い良く客間のドアが開いてグリンベルダさんが飛び込んできた。


「使徒様ぁっ?!試作品が出来ましたのでっ、対決の立会をお願いしますぅ!」


・・・そうね、そうだね!


やるって言っちゃったもんねぇ!やるよ!やりますよぉ!ちきしょう!


私、何でも安請け合いし過ぎなんじゃないのぉ〜っ?!

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